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赦されざる者たちは霧の中に

原作: その他 (原作:かつて神だった獣たちへ) 作者: 十五穀米
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対峙

 しかし、その暗闇は突然晴れる。
 晴れた時に見えた光景は、一面植物に覆われている世界だった。
 ただ、その植物たちはすべてが巨大化しており、美しさはない。
「キモッ!」
 思わず本音が飛び出て嗚咽したのはマックス(仮名)。
 シャールは伏し目がちでなるべく視界に入れたくないという顔をしている。
 ハンクはどう思っているのだろうか、表情からは感じ取ることはできない。
 それはピエロくん、キツネくん、ジェラルドのお面くんも同じ。
 面で顔を隠しているのだから当然なのだが。
 意外なのはライザだった。
 誰よりも先に「ありえないわ。キモッ。なんなの、この世界は!」とヒステリックになるところ、表情ひとつ変えずにそこにいるのだ。
 そんな彼女を見ると、マックス(仮名)もいつまでもチャラいことはしていられないという気持ちが入る。
「これって、オーレン(仮名)の中?」
 マックス(仮名)は「説明して」とビエロくんに求めた。
「ウン、ソウ。ココ、アイツノ、ゲンカクノ、ナカ。イバショ、ワカル。コッチ」
 ピエロくんにはオーレン(仮名)の居場所がわかるという。
 先頭を歩くピエロくんに彼らは続いた。

 巨大な植物が生い茂っている中を歩くと、時々行く手を阻むように動く植物がある。
「キズカレテル」
「そりゃそうだろうさ。自分の作り出した幻覚の中に招かれざる客が入れば。この時々邪魔してくる植物を動かしているのがオーレン(仮名)だな」
「ソウ。デモ、ホンキジャナイ」
「様子伺いってところか。いや、違うな。シャール嬢がいることに気づいたんだ。だからあえて誘導しているってことか」
 ヘラヘラチャラチャラしているマックス(仮名)の口調が変わっていることに気づきながら、あえてそれに触れないのは、それだけ緊迫しているということ。
「シャールを意識して守った方がいいかしら?」とライザが意見をこう。
「私なら大丈夫です。できるだけ先に進むことを考えた方がいいのではにいでしょうか?」とシャールが意見。
「ふたりの意見はもっともなんだけど。こういう時の作戦はハンクさんの方が適任なんじゃないの?」とマックス(仮名)。
「それもそうね。どう考える、ハンク」とライザがマックス(仮名)の意見に同調して求めた。
「シャールのことは俺が守る。マックス(仮名)たちはオーレン(仮名)の場所まで最短で案内してくれ。ライザは臨機応変に。できるだろう?」
「当然でしょう!」とライザ。
「じゃあ、そういうことで」とマックス(仮名)。
 マックス(仮名)がハンクの作戦に同意したことで、吸血鬼の三人も小さく頷いた。
「ジャア、ハイゴハマカセル。ススムヨ?」
 生い茂る巨大植物はそこに存在するだけで威圧感と邪魔くささがある。
 ピエロはそれをかき分け先に進む。
 時々行く手を遮ったり、またはこちら側を分断するかのように仕掛けてきたりしていたが、それらをマックス(仮名)やライザがうまく処理をしてくれることで、シャールはあまり体力を消耗することなく進むことが出来ていた。
 それはハンクも同じだった。
 おそらく最大に体力を消耗するのはオーレン(仮名)と対峙したときだろう。
 少佐を奪う瞬間か、それともシャールを守る時か、それはまだわからないが。
 問題はどこまでも続く巨大植物の密集地帯だ。
 続いているのか、同じところを俳諧させられているのか。
「ねえ。オーレン(仮名)の幻覚に取り込まれてしまったってことはないわよね?」
 ライザはさすがにこれはおかしいと、ピエロくんに向かって声を張り上げた。
 その問いかけは自分に対してだろうと感じたピエロくんは、振り返らずに答える、「ダイジョウブ」と。
 さらに。
「スグソコニ、イル。ワルアガキ、シテル」
「解説するとね」とマックス(仮名)がピエロくんを通訳。
「扉一枚隔てたくらいの先にオーレン(仮名)がいる。でも、こっちがひとつ突破すると間髪入れずに防御してくるから堂々巡りさせられているような感覚になる。あと少し」
「それって、あなたたちには見えているの?」
「どうかな? ピエロくんは見えていると思う。オーレン(仮名)の姿も。俺はまた差し込まれたか……くらいで、オーレン(仮名)の姿は捉え切れていない」
「その差ってなんなの?」
「特化した能力の違いだよ。人間だって、やたらと視力のいい人、聴覚が鋭い人、感覚が鋭い人っているじゃん」
 マックス(仮名)の口調がまたヘラヘラ感に戻っている。
 ということは、
「マックス(仮名)。あなた、ヘラヘラした口調が戻っているってことは、突破口が見えているってことよね?」
「どうかな。むしろ、かなりヤバい状態だからこそ、チャラけてしまうこともあると思うけど?」
 と、ふたりが現状に似つかわしくない会話内容になりつつある中、キツネくんが叫んだ。

「くるぞ!」

 小柄でかわいらしいって感じだったキツネくんの声が意外にも野太い声であると知った瞬間、突破口が目の前で開けた。

※※※

「オーレン(仮名)、貴様!」
 開けた先にはじめて見る男の姿がある。
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