ネット喫茶.com

オリジナル小説や二次創作、エッセイ等、自由に投稿できるサイトです。

メニュー

赦されざる者たちは霧の中に

原作: その他 (原作:かつて神だった獣たちへ) 作者: 十五穀米
目次

ライザの任務

「丸一日経過しているんじゃないか?」とハンク。
 三人がそれそれ勝手なことを言い話が噛み合っているようないないような。
 その光景を吸血鬼の三人は惚けるような顔でただただ立っていた。
 彼らはそれなりに力もあり、ケインの件でもそれなりに活躍はしている者たちである。
 人間界に派遣されている面々だけが大活躍というわけではない。
 一番働いているのは、派遣された面々からの情報を受け取りに行き、そして届ける役目をしている者たちだろう。
 伝達方法は様々あるらしいが、人目に付かないように……というのが最大の難関。
 意外とコソコソ動く方が目立っていることもある。
 今回の三人はそんな彼らの影となり盾となり働いていたものたち。
 常に緊張感ある任務であったのだが、今回はどうだろうか。
 緊張感の欠片もない、ユルユルの任務遂行中。
 その大元のマックス(仮名)は、同志の心配をよそにマイペースを貫く。
「さてさて。ライザ少尉が戻ってくるまで時間ができちゃったね。どうしようか?」
「どうとは?」とシャール。
「暇を持て余しちっゃてる状態だってこと」
「え? 本当にすることはないんですか?」
「ないよ~。だってね、ここは俺たちが場所移動してからたぶん一時間か二時間くらいしか経っていない。人間界とあっちでは時間の経過が違うんだ。ほら、幻覚の中に三日くらいいてもこっちでは一晩くらいだったでしょう?」
「……たしかに。たしかに、そうでした! じゃあ、もしかしたら私たちがここから離れてしまっていたことにも気づいていないってことでしょうか?」
「いや、それはないな」とハンク。
「そうなんですか?」
「あれから捜索がされた形跡がある。俺からの伝言は軍曹に伝わっているってことだ。だが、あまり時間が経っていないってことは、ライザの筋書きもうまくいくかわからないぞ」
「でも、その辺はうまく対処するのではないでしょうか。だってライザさんですから」
「ふっ……、そうだな。ところでマックス(仮名)」
「なんでしょう?」
「俺たちはここでこうしているだけで、本当にいいのか?」
「いいんだよ。近くを誰かが通っても俺たちがここにいることは見えない。薄い霧を発生させているからね。霧に俺たちの姿を隠すように細工をしてある」
「そういう芸当ができるなら、なにも大がかりな幻覚操作はいらないだろう」
「そういうものでもない。今はこうしてなにもしていないから姿を隠し続けられる。大がかりな動きをしたらすぐに解けてしまうよ。能力も完璧じゃない。基本、ひとつの能力を使用している時はほかの能力は使えない。ただ訓練を積めば使えないこともないけど、どちらかが疎かになる。リスクはなるたけ避けたいからね。ああ、そうだった。あれ、どうしようか?」
 マックス(仮名)はハンクと話しながら、その流れでピエロくんをみる。
 どうやら最後のクエッションはピエロくんあてのようだ。
 聞かれたピエロは、
「ナニ?」と返す。
「オーレン(仮名)の幻覚支配下にならないようにしたいな。俺たちは全員が同じものを見るってこと。バラバラになっても、その方が安全かなって。できそう?」
「タブン、デキル。カレノゲンカクコウゲキヲ、ウケナイヨウ、コレ、コチラガワモイレル」
 ピエロくんはライザに渡した小瓶と同じものをこちら側に見せる。
 ただ蓋の色が少し違っているような……それくらいしか違いはない。
「なに、それ?」
「ゲンカクコウゲキヲ、ウケナイヨウニスル、クスリ。カイハツ、シタ。スデニ、シヨウシテイル。モンダイ、ナイ」
「え! そんなの開発してたの? そういうのはさ、共有しようよ」
 ピエロくんが言うには、ケインの能力の一部から自分たちと同じような能力を使えるのではないかと推測し、幻覚攻撃を受けにくくする薬の開発をし、成功。
 すでに臨床実験も済んでいるのだという。
 ただ、ケイン相手の使用はまだしていないので、効力のほどはわからないが、一族の中ではなかなかの成果をだしているのだという。
「つまり、それを飲めばいいわけね。人数分の用意もして……助かるよ。それで、効果の持続はどれくらい?」
「……ワスラナイ。ヒトニヨッテチガウ。デモ、ダイタイ、ニ~サンジカンクライ、カモシレナイ」
「そうか。じゃあ、直前の方がいいかもしれないね。というわけで、本当にもうすることも話し合う心配事もないから、ただ待つだけになっちゃったね」

 その頃、ライザは……

※※※

「ライザ少尉?」
 ひとりの見張り兵士がライザの姿に気づき、駆け寄る。
 ライザは少しふらつき、それを支えるように寄り添いながら、ふたりはジェラルド軍曹がいる作戦本部へとなだれ込んだ。
 突然の、それも想定外の登場に、さすがのジェラルド軍曹も言葉がすぐにはでなかった。
 しばしの間のあと、「報告を!」と張りのある声で促し、つられるように見張りの兵士が敬礼をしてから報告をする。
「さきほど、人影を発見。確認のために近づくとライザ少尉であることを確認し、こちらにお連れいたしました。行方がわからないとされている方々の中のおひとりでしたので、軍曹には早急にお知らせするのが筋と思い、勝手ながら持ち場を離脱いたしました」
目次

※会員登録するとコメントが書き込める様になります。