ネット喫茶.com

オリジナル小説や二次創作、エッセイ等、自由に投稿できるサイトです。

メニュー

赦されざる者たちは霧の中に

原作: その他 (原作:かつて神だった獣たちへ) 作者: 十五穀米
目次

説得の手順

 そこにライザの鉄拳が!
「だから、あんたはそうやって馴れ馴れしくシャールにすり寄ろうとするんじゃない!」
 さらにマックス(仮名)の悲劇は続く。
「まったくその通りだ、マックス(仮名)。一族の恥。もっと紳士的に振る舞ってくれ」
 ダメだしにアストレイ(仮名)の小言が加わり、マックス(仮名)はうなだれる。
 そのやりとりを、派遣された三人は呆然とただ見ていた。
 きっとこの時、どえらいところに派遣されたと思っただろう。
 しかし、本当のどえらいことはこれから先に起こるとは、誰も想像していなかったに違いない。
 なぜなら、吸血鬼側としては先鋭の人材を提供したと思っているからだ。
 本当なら自分たちでなんとかできるレベル。
 むしろ無力な人間がいることが足手まといであると思っている。
 それでも共闘することにしたのは、ケイン追跡には人間の協力が欠かせないとこれまでのことで学んだからだった。
 なにせ、人間の世界に溶け込み情報収集するくらいなら、堂々と情報共有できた方がいいに決まっている。
 合法的な方が危険回避にもなる。
 また一族の誰かが道をはずした際、犯人探しだのに費やす時間を減らすことにもなる。
 アストレイ(仮名)は思う。
 やはりなんとかして過激派の組織にも理解してもらい、条件を飲んでもらうのが一番ケインに近づけるのではないか……と。

※※※

 作戦は以下のようになった。
 1、オーレン(仮名)の幻覚に同調する。
 2、オーレン(仮名)の気配を追う。
 3、オーレン(仮名)を説得する。
 4、説得に応じてもらえたら少佐を連れいったん戻る。

 ケイン追跡は少佐奪還の後に行うことで一致していた。

「オーレン(仮名)が説得に応じるとは到底思えないんだよね……」
 と志気に水を差すようなことを言ったのはマックス(仮名)だった。
「だってさ。それが出来ていたら少佐も一緒に連れ戻せたはずだし……俺が」
 自分にはそれだけの力量はあったと自負している。
「でも、実際は出来なかったじゃない?」
 ライザが遠慮もなくズバッと本当のことを言う。
「少尉は厳しいな……まあ、そうなんだけどさ」
「そもそも、なぜ説得できると思ったのよ」
「ん~、なんとなく?」
「はあ?」
 シャールは思う。
 このふたり、実はいいコンビになるのではないかと。
 マックス(仮名)と話しているライザはとても楽しそうに見えた。
 本人がどう思っているかは別の話ではあるが。
 そこにハンクが加わる。
「一見おとなしそう、戦闘意欲が欠落しているような人物こそ、いったんなにかのタガが外れると暴走しやすい」
「なあに、それ。ハンクの経験?」
「ああ……残虐な性格の持ち主ほど、長引かせ楽しみたいと思うから、拷問もネチネチと時間をかけ相手の苦しみ方を楽しむ。サイコってやつだ。だが早く終わらせたいと思う者は早さを重視する。拷問の際も同じだ。できるだけ早く、最小限の損失で。となれば圧倒的な力を見せつけるというのが手っ取り早い。相手に適わないと知らしめさせ戦意を殺ぐ。だからこそ、本人より本人の大事なものを奪う。誰だって、自分のために大切な人が殺されたとなれば戦意を失うか、復讐の鬼となるか。この辺は賭だが、聞き出せる聞き出したあと、その者を殺してしまえばいい。最小限の損失になるからだ。復讐鬼となられたら、あと何人犠牲者がでるか。それを考えたらひとりの命の方が軽い。で、偽善者は違う。どちらにもなれず、もっともらしいことをいい、一番始末が悪い。むしろ残虐思考より始末が悪い」
「たしかに、擬神兵の存在は大きかったわ。終わってみたら、すごい死者の数だったけど。でも、無関係の民への負担は減ったのかな。その辺はわからない。そしてそれが正しかったのかもわからない」
 ライザはなんともいえない表情になる。
 そしてマックス(仮名)は……
「ハンクさんの言っていることはおおむね、そうなんだと思うよ。オーレン(仮名)は元々植物を愛する優しい人物だった。奥手なこともあり対人関係をうまく築けなかった分、植物に愛情を注いだ。植物の巨大化も、彼なりの思いがあってのことだったはずだが、それがいつの間にか兵器にすり替わり、人を殺した。でも、それでも、どこかに罪悪感が残っていると俺は思っていたところがある。だってさ、ケインのことは一族全員が同じ気持ちだったから。その辺りに触れれば話し合いの余地もあるんじゃないかって。あ、こういうのが偽善? けど俺、攻撃的にでることを全面に否定はしていない。正直、擬神兵なんて作り出した人間の神経を疑うし、その研究の発端となっているエレインって女は許し難い。そこで終わっていればまだいい。だが、責任者が不在の今でも擬神兵を従えているケインがいる。イカレている」
 感情の起伏が激しいが、最後は怒りと憤りで締めくくっている。
 彼にも彼なりの正義があり、それを貫くためなら多少の犠牲も致し方ないという考えが少なからずあることが露見した会話となった。
「ああ、もうイヤだな。こういうの俺のスタイルじゃないんだよな」
目次

※会員登録するとコメントが書き込める様になります。