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赦されざる者たちは霧の中に

原作: その他 (原作:かつて神だった獣たちへ) 作者: 十五穀米
目次

少佐を追いかけて

 思わずそう叫んでしまって焦る。
 なぜ、そう思ったのだろうか。
 理由はわからないが、どこか遠く、手の届かないところに彼らが向かっているような気がした。
 シャールはその部屋を取びだし、走るように階段をおりて、ライザの姿を捜す。
 そのライザが館の外に繋がる扉を開けようとしていたので、シャールは回り込むようにして、それを止めた。
「シャール? どうしたの? 部屋で待っててって言ったのに」
「ライザさん、ごめんなさい。でも、じっとしていられなくて。それに、消えてしまいそうなんです」
「なにが?」
「ハンクさんと少佐が……」
「なにを言っているの? 消えるなんて……え? もしかして共有できていないの?」
「わかりません。でも、消えていくんです。存在が。まるで霧に飲み込まれていくような感じで」
「効力がなくなって、あのふたりが現実に戻れたからじゃないの? そうなると、なんで私たちは戻れないのかって新たな問題が出るんだけど」
「戻れたのではなくて、別の幻影を見てしまったのではないでしょうか? 少佐の声でしたよね、ケインって叫んだのは」
「ええ、そうね。私にも少佐の声に聞こえたわ」
「ケインさんが絡めばハンクさんも動きますよね。少佐のあとをハンクさんが追っているのではないでしょうか」
「そうなると、私たちもケイン・マッドハウスのことを思えば、ふたりの後を追えるのかしら」
「どうでしょう……ただ、この童話の最後って……」
「ループするのよね。館の中では何度も同じ日を繰り返して、そして外にでると館に入る前の時間まで戻されてしまう。だから貧乏人の男は空腹に耐えかねてまた館に入ってしまい、同じ日を繰り返してしまう。だけど、繰り返しているのは時間だけで、肉体的には時間が経過している。だから空腹になる。気づいた時にはヨボヨボになっていて。それでも空腹に耐える日々のことを思えば肉体の老化など……という結末は、いろいろ物議もあったけれど、でも、飢えはつらいから老化と引き替えなら構わないって、まあ、子供なら思うわね」
「ライザさん、そのループです。私とライザさんはループしているのではないでしょうか。そもそも、私の幻影を共有しているのですから、私がこのままがいいと無意識に思っていたとしたら、そうなりますよね。でも、効力が失われつつある中、少佐は本来の目的に強い闘志を抱いた、なにがなんでも戻る……というような。だからケインさんの幻像を見て追いかけてしまった……というのは考えられませんか?」
「ないとはいえないわね。となると、私たちも外にでるしかないわね。そしてやり直す」
「できるでしょうか?」
「シャールならできるわ。ただ、記憶まで戻ってしまうかもしれない。でも、強く思えばなにかの拍子に目的がよみがえることもあるかも。私たちの目的は、館に入る前のハンクと少佐と合流すること。合流したら、館には入らず……そうね、別の誰かの幻影と共有するというのはどう? ハンクと少佐の幻影はグロくて嫌なんだけど。でも、ハンクならシャールだけでも必死に守ると思う」
「ハンクさんばかりに頼るのは申し訳ないですけど、別の幻影で出口が見つかるかもしれませんよね。どの幻影と共有するのが正解なのか……というのもあるかもしれません。私の方は繰り返しの結末ですから、そもそも出口は見つけられませんよる。遠回りさせてすみません」
「ううん。いいのよ。結果論だから。じゃあ、行くわよ」
 ふたりは手を繋ぎ、合図と共に外に出た。

※※※

「戻れ、ウィザース少佐!」
 ハンクは叫ぶ。
 ケイン! という声に反応し、外に飛び出すクロードを追いかけてはみたものの、気づけば霧の中をさまよっていた。
 うっすらとクロードの背中は確認できるが、それが果たしてクロードの背中なのかは、もはや怪しくなっている。
 それでも戻れと叫ぶのは、散り散りになることを避けたい為である。
 一昨日の時点で、扉の向こうは密林の世界が広がっていたというのに、クロードの後を追って外に出たら辺り一面が霧の世界であった。
 幻影を見せる効力が無くなったのだと最初は思ったが、それにしては様子がおかしい。
 まるで地に足がついていないような、左右上下の感覚がない。
「……っく、これも幻影なのか?」
 前後の感覚もない。
 来た道を戻りたくても、それが正しいのかさえわからなくなっていた。
 一瞬、シャールの安否が横切ったが、ライザと一緒なら最悪な結果だけは避けられるだろう。
 それくらいはライザのことを信用しているし信頼もしている。
 となれば、やはりクロードを追いかけて連れ戻すのが先決だろう。
 見つけられたとして、連れ戻せるかは疑問だが。
 だが、追っ手をくらますためにクロードが霧を発生させているのであれば、クロードを捕まえれば解決になる。
 ハンクはクロードが見ている幻影を共有しているのだと思うことにした。
 そもそもハンク自身、このような幻影を見るタイプではない。
 ただ、ケインの存在はなぜか霧を連想させる。
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