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赦されざる者たちは霧の中に

原作: その他 (原作:かつて神だった獣たちへ) 作者: 十五穀米
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原因は誰?

 が、三人は聞こえてはいるが相手にはしない。
「私、少佐の話にヒントがあるような気がします」
「どういうことなの、シャール」
「私たちがそれぞれ違うものを見始めたのは、少佐と合流してからです」
「そういえばそうね。まあ、合流しようとなった経緯からしても不思議な体験はさせてもらっていたけれど」
「ですから、私やハンクさんは霧が原因だと思ったんだと思います。でも、霧はここにいる四人が全員浴びているのに、ライザさんだけが違うのはなぜでしょう。たまたま、私たち四人は合流できましたが、少佐の部下さんたちも実は近くにいて、でもそれぞれが別のものを見てしまっていたから移動してしまった人もいるでしょうし、なにか窮地に陥ってしまった人もいると思います。少佐は爆薬を設置してとおっしゃっていましたから、汽車の外にいたことになります。汽車の中では蔦の先端を切ったり燃やしたりしていた人がいる。少佐も簡単に爆薬の設置ができなかったことを説明していました。先端を切ったり……と言っていましたから、私たち四人の中でライザさんだけが違うのは蔦との接触ではないでしょうか?」
「……蔦か。考えられるな。俺は実際に切ったり燃やしたりした。直接触れた記憶はないが、燃やした時の空気やカスなどに触れたり吸い込んだりはしただろう。俺と一緒にいたシャールも同じだ。ライザは蔦との接触がない」
「たしかに! だったら、私も蔦に触れればいいのよね?」
「だがライザ。ここにはその蔦がない」
「いいえ、大丈夫ですよ、ライザさん。ハンクさん。少佐がいます」
「どういうことなの、シャール」
「少佐は私たちよりも蔦に接触していましたから、それらのカスが衣服に付着とかしていると思います」
「あら~、すごいわシャール。繊維ってにおいもつくし、人の目に見えにくい粒子なんかも付着しているものなのよ。となれば、私が少佐に抱きついたり、頬を寄せたりなんかしたら、バッチリよね」
「だが問題がある。セイザには見えていない。どうやって抱きつくかだ」
「そんなこと? 大丈夫よ。ハンクがちょっと彼の背中を押してくれればいいの。私はこうして手を広げて彼が飛び込んでくれるのを待っているから!」
 その後のことは見るに耐えないものだった。
 シャールは赤面をして顔を伏せ、ハンクは背を向ける。
 ライザはひとり状況を楽しんでいるが、巨乳の谷間に顔を埋めなくてはならなくなったクロードにとってはいい迷惑でしかないだろう。
 衣服についたにおいや粒子でいいのなら、着ているものを貸すだけで事足りるのだから。
 クロードが巨乳の谷間で窒息しかけるとやっと解放される。
 床に転がっているクロードを無視して、ライザは童話の物語を脳内で綴った。
「……ふぅ。やっと霧が晴れたわ……」
 安堵に満ちたライザの表情に、シャールやハンクも胸をなで下ろした。

※※※

 館の中には生活できる程度のものが揃っていた。
 シャールが食事をつくり、ハンクとクロードが館の中を探索、ライザはシャールの護衛を兼ねて料理を手伝う。
 料理ができあがった頃、ハンクたちが戻り、食卓を囲む。
「だいたいのことはわかった」とクロード。
 個人的には屈辱的であっただろうが、状況説明をしてもらうにはハンクは適任であった。
 かいつまみ要点のみを的確に伝えてくれる。
「それで、これからどうするつもりなんだ?」
 と、クロードはハンクとライザを見た。
 四人が同じ童話の世界にいるのなら、なにもシャールに危険な目に遭わせてまで先導してもらう必要はない。
「蔦に巻き付かれた汽車をイメージすれば戻れるのではないか? おまえたちの理論でいえば」
 と、ふたりが黙っているので、クロードが意見をだす。
 彼の意見に反応したのは、シャールだった。
「私が意見するのは申し訳ないのですが」
「いいわよ。思ったことは言ってちょうだい」
 ライザに後押しされ、シャールは再び言葉を続けた。
「そもそも、意識してこの世界をイメージしたわけではないので、汽車をイメージすれば戻れるというものでもないと思います。それであれば、爆薬を設置していた少佐は撤去することに専念していたわけですから、なぜ突然、戦地にいたのかが説明できません」
「……なるほど。もっともな意見だな。となると、なぜ私は戦地でハンクが密林だったのかということだな」
「それなんですけど」
「ん?」
「私が少佐を見つけた時はまだ霧の中、だったような気がします。敵がいるというようなことを言われ、私は咄嗟に戦争のことを思い出しました」
 シャールの話を聞いたクロードは「なにがいいたい?」と意図が見えない。
 だがライザは違った。
「そういえば、シャールは戦争の辛さを紛らわせて……忘れさせて? くれたのは創作だと言っていたわね。童話や物語を読んだり、子供たちに読み聞かせたり」
 ライザの見解を受け、ハンクが納得する。
「そういうことか。だとすれば俺の密林もわかる。意識してはいないが、密林での戦いが厄介だった、きつかったなど思ったことの現れか」
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