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赦されざる者たちは霧の中に

原作: その他 (原作:かつて神だった獣たちへ) 作者: 十五穀米
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貧乏人の話

 ライザがハンクの思惑を代弁する。
「そんなことをしなくても、話してくれますよね?」
 シャールがクロードに問う。
 しかし彼はわずかにシャールのことを見たがすぐに視線をハンクへと戻し、険しい表情を崩さない。
「ね? この人、見かけで判断しちゃダメよ。ヘタレなくせにすっごい頑固なんだから」
 つき合いの長そうなライザがそう言うのだ、まったくもってその通りなのだろう。
「ということで、シャールが少佐に質問をするから、答えてくださいね。この危機を脱するにはここにいる四人の協力が必要なんですから」
 すると危機を脱するにクロードが反応をする。
「ライザ少尉には勝機があるのか?」
「それは少佐の態度次第です」
「言っている意味がわからん」
「だから、シャールの質問に素直に答えてくださいと申しました」
 このわからずや! と小声でグチるライザ。
「まあまあライザさん。少佐は戦場にいるようですし、警戒心が強くなっているのもわかります。あの、はじめに言っておきますが、少佐が見えているものは幻影です」
「なに?」
「少佐の目には、私たちはどのように見えていますか?」
「どうと言われても……陸軍並の武装をしている。敵の気配があって……」
「私たちは武装なんてしていません。ハンクさんやライザさんは軍が支給している服装ですが、私は私服です。黒のワンピースに父から譲り受けたライフル、そして最小限の荷物が入ったトランク。そういえば少佐にも私のいでたちはわかりますよね?」
「ああ。言われてみればそうだ。私はきみのことを民間人と言っておきながら、なぜ武装していると思ったのだろうか。なぜそう見えているのだろうか。そもそも、なぜ戦地なのだ?」
「そうですね。私たちは汽車の中で再会をしました。少佐は蔦の撤去、私とハンクさんはライザさんの指示で軍のテントに一時避難するはずでした。でも、軍のテントには辿りつけず、少佐と合流することにしたんです。爆音を頼りにやっと少佐と合流できたと思ったら、少佐はいもしない部下を失ったといい、いもしない敵がいると断言し、ひとり芝居のように戦闘をしていました」
「そうだ。我々は汽車の前方に移動をして、蔦を根本から焼き尽くそうとした。外にでて爆薬をセットしながら、襲いかかる蔦を切り落としたり、先端に火をつけたり。だが、いつのまにか共にいたはずの部下の姿が消え、私は荒野のど真ん中で敵と応戦していた。そしたらおまえたちが現れて……なぜ撤去作業から戦地に? 霧はどうした? 蔦は?」
「ありがとうございます。少佐。少佐にはそのように見えていても、私たちにはそうは見えていません。今、私には森の中の館にいるという光景が広がっています。ハンクさんは密林の中にいる光景が広がっていましたが、私と同じものをみれるよう情報を共有し、成功しました。ですから、少佐にも応じてほしいのです。ダメですか?」
「……そんなことが、できるのか?」
「はい。たぶん」
「なに?」
「あ、いえ。大丈夫です。たぶん、子供の頃に一度は読んだか聞いたかしたと思いますから」
「なにを?」
「子供向けの童話です。少佐は知りませんか? 貧乏人が草原を歩いていると森に出くわして、その中にある館で一晩あかすと、テーブルに朝食が用意されていたという話です。森の館にいることにしたいので、結末は考えないでください」
「それで本当にきみと見ているものを共有できるのか?」
「わかりませんが、ハンクさんとは共有できました。ハンクさんは密林の中にある洞窟に入ったのですが、私と共有することで同じものを今、見ています」
「ライザ少尉は? ハンクでさえ知っている童話なのだろう? 彼女が知らないという方が不思議だ」
「それはお答えできません」
「なぜだ? できないということは、少尉とは共有できなかったということだろう?」
「お答えできません。今は、少佐自身のことを優先してください」
 ハンクがシャールの指示に従えと、無言で銃のトリガーに指をかける。
「……っう。わかった。その童話だが、貧乏人の男は食事ほしさにもう一晩泊まるのだったな」
「はい、そうです。ではお願いします」
 クロードは瞑想するかのように目を閉じ、今見えている光景を拒絶した。
 脳内で断片的ではあるが、その童話の話を思い浮かべ、森の中に入り館を見つける。
 その中に三人がいるということに疑問を抱きながらも、扉をあけて中に入り、目をあけた。
「どうですか、少佐。なにが見えますか?」
 クロードはあたりを見回してから、
「テーブルと六脚の椅子、そして草原の絵、暖炉。三人もいる。服装は汽車で再会した時と同じだ」
 といった。
 クロードの言葉を受け、ハンクが銃口を下げる。
 そしてシャールとライザ、ふたりの顔を見た。
「成功のようだな。となると、なぜライザだけ成功しないのか、だ。俺たち三人とライザでなにが違う? 霧が原因なら浴びている」
 するとクロードが「どういうことだ。説明をしろ。命令だ!」と叫ぶ。
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