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赦されざる者たちは霧の中に

原作: その他 (原作:かつて神だった獣たちへ) 作者: 十五穀米
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騒ぎ

 ひとりが意見を言えば、周りがそれに同調しはやし立てる、そんな感じである。
「停車?」
 シャールは徐行運転になると聞いていたので、停車するとは初耳である。
「いや、どうやらすでに停車をしているみたいだな」
 ハンクは体感からすでに汽車が途中で止まっているのだと確信した。
「でも、揺れてませんか?」
 シャールには汽車独特の揺れを感じているので、徐行運転をしているのだといまでも思っている。
「たしかに揺れてはいるが、線路の上を走行する際の音がしない」
 言われて耳を澄ます。
 人の会話ではなく車体の外に意識を持っていき、日中耳にしていた線路の上を走行していた時の音を思い出す。
「……そう言われるとしていませんね、音」
 シャールは周りを見渡し、声をかけられそうな人を捜した。
 遠巻きに静観している人たちの中に、人の良さそうな中年女性を見つけ声をかける。
「なにがあったんですか?」
 シャールがそう声をかけ終える頃にハンクはさりげなく彼女の背後にまわり、あたりの気配に気を配りながら、話し出した女性の声に耳を傾ける。
「部屋に戻るようにと言われたんだけどね、ひとりでいるのが嫌で、ここにいたら……」
 女性はこう言って話し出した。
 彼女と同じように、ひとりで部屋にいたくない人がぱらぱらと集まりだし、無事に荒れ地を抜け出ることを祈っていた。
「そしたら、なにかが車窓の横を通ったんだよ」
 カーテンを閉め窓は開けないようにと言われていたのだが、車内の明かりがカーテンを透かしてうっすらだが外が見えたのだという。
「この濃霧で見えたのですか?」
「すぐ横を通れば、どんなに濃い霧だって見えるもんだよ」
「そうなんですね。それでなにをみたんですか?」
「それがね、紐のようなものでね」
「紐……でも実際は紐ではなかったから、この騒ぎなんですね?」
「まあ、発端はそうなんだけどね。その、カーテンをあけて見ちまったんだよ。そしたら、蔦のようなものが巻き付いていてね……」
 語尾では体を震わせていた。
 それ以上は話してくれそうもなく、シャールは丁寧にお礼をいい、場所を移動した。
 連結部分にいけば窓から外を見るより確実に状態がわかるかかもしれない。
 ただ連結部分は屋根がかかっている。
 自分たちがここまで移動してきた時には気づくこともできないほど、屋根以外にも側面側にも移動中、人が落ちないようにと囲いがしてある。
 ではどのあたりの連結部分から外を確認しようと思っているのか。
「先頭車両と運転車両の連結部分は囲いがありませんでしたよね?」
 乗客が入れるのは先頭車両のラウンジまで、その先は関係者しか入れない。
 そのようにロープなどで仕切られている。
 それを外し、先にその部分にでたのはハンクだった。
 そのハンクの動きが止まる。
「ハンクさん?」
 シャールも自身の目で確認しようと外にでた。
 そこにある現実はまるでこの世のものとは思えない状況だった。

※※※

 ハンクとシャールが乗った汽車が濃霧に阻まれていた頃、ライザやクロードは目的の場所まで移動をしていた。
 すでに監視者からハンクに接触した際の結果の報告も受け終えていた。
「ふん。もとよりあてにはしていなかったが」
 クロードは想定内だといいながらも、納得はしていないという口振りである。
「もう、素真じゃないんだから。頼むって言えばいいじゃないの」
「だから、頼むほどのことでもないと言っただろうが。で、そっちはどうなんだ? 調査報告」
「先行させた者からの報告は受けているわ」
「だったら無駄口たたかずに報告を済ませろ」
「はいはい。なんでも霧が発生しているらしいわよ」
「霧だと?」
 ライザの報告に疑問を抱いたクロードに対し、ジェラルドが「珍しいこともありますね」と口を挟んだ。
「そうなのよ。あのあたりで霧なんてね」
「で、木々が生えるって方は?」
「その目撃報告はないけれど、どうやらハンクたちの乗った汽車はその霧で足止めになるのではないかってことだけど」
「足止めだと? バカな。あの場所でそんなことを……自殺行為だ」
「まだ決定ではないですよ。あくまでも先行隊が客観的に見て想像しただけの内容よ」
「ならば鉄道会社に確認をとれ。もし足止め停車になるのであれば、乗客を保護、ないし護衛できるだけの人員が必要になる。ジェラルド」
「承知いたしました」
 クロードの下した命を受けジェラルドが退室する。
 すると入れ違いに別の隊員が敬礼をして入室した。
「報告です」
「言え」
「得体の知れない物体が出現をし、汽車を飲み込んだとのことです」
「得体の知れないとはなんだ? もっと的確に報告をしろ」とクロード。
「ちょっと、その汽車ってハンクたちの乗っている? 飲み込んだってどういうこと? ちゃんと報告しなさい」とライザ。
 すると隊員はどちらを優先すべきか戸惑い始める。
 階級的にはクロードなのだが、直接的な上司はライザになる。
 先行隊とは別にライザは情報部員もその場所に向かわせていた。
 入った入電を受けたこの隊員も情報部のひとりであった。
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