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赦されざる者たちは霧の中に

原作: その他 (原作:かつて神だった獣たちへ) 作者: 十五穀米
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思惑

「ええ、そうですよ。どこかの間抜けさんが手放してしまうから」
 と、こんな感じで話題は堂々巡り。
 どうしたってクロードは不利なのだ。
 黙って言われていればよいのにと思うジェラルドだった。

「ところで……」
 と、頃合いのいいところでジェラルドが話題を変えてきた。
「ひとつ、不確かな情報があるのですが」
 ジェラルドのふりに、ふたりは耳を傾け、次の言葉を待つ。
 だが、一向にその先を言う気配がない。
「どうした?」
 クロードが先を急かす。
「いえ。よく考えてみれば情報というほどのことでもないような気がしまして」
「なに? どんなことでいい。気になること、あがっている情報を上官に報告する義務があると思うが?」
「確かにおっしゃる通りなのですが」
「ならば報告をしろ」
「では……」
「ああ」
「実は、荒れ地に木々が生い茂るのだとか」
「……」
「……」
 クロードとライザは無言で返す。
 当然、そう反応されるであろうことは予測済みであるジェラルドは、
「ですから、報告するほどの情報ではないと申したのです」
 と、自分を正当化した。
 しかし、ライザはすぐに真顔に戻り、彼女らしからぬほどの真面目な声で言う。
「でも、なにか思うことがあるから報告しようと思ったのよね?」と。
「そうなのか?」とクロード。
 ジェラルドは、こういう時にハンクがいてくれたらと小声でいう。
 さすがにそこまで言われるとクロードにもわかってくる。
 擬神兵の仕業、もしくは実の兄、ケインが関わっているのではないかと。
「荒れ地に木々が、突然……そういう技術が存在するのか? もしくは可能なのか?」
 クロードの問いはライザに向けられている。
「情報部では掴んでないわね。だけど、擬神兵を造ることができたエレインなら、可能だったかもしれないわね」
 その彼女はもうこの世にはいない。
 ハンクの証言を信じれば……の話だが。
「彼女は行方不明だったな。死亡の確認もできていない」
「ええ。だけどハンクの証言は信憑性があるし、その状態で生きていたという方がかなりオカルト的ではあるわね。となれば、常に彼女の近くにいたケインがその知識を受け継いだ。そう考えると、彼が擬神兵を増やしていることの説明がつくのよ。もちろん、死んだはずの擬神兵が生き返ったということも含めね」
「そうか。その場所はどこだ、ジェラルド」
「確か、このほど開通した汽車の線路近くであったかと。まだ未開の地であり治安が不安定であるとの報告もあり、軍の派遣依頼もあったかと」
「もしかして、その経路、ハンクたちが向かっている方角じゃないかしら?」
 ライザの言葉に、場のふたりが無言で目を見開く。
「あら、そんな目でみないでよ。確かな情報は入っていないけれど、向かった方向と彼の思考回路から計算すると、そういう行動をとるんじゃないかと思ったのよ。今はシャールも同行しているから、危険なルートは通らない。となれば、汽車を使って……と思っただけよ」
 しかし、ライザの説明でさらにクロードの表情が変わる。
 やや歯を食いしばるような顔つきになり、拳を握った。
「バカな。なぜ早く言わない?」
「だって、聞かれなかったから。それに少佐には関係ないことでしょう? 監視をつけたのだし」
「そうだ、その監視。ジェルド、いますぐに連絡を取れ」
「はっ、すぐに。で、なんと?」
「ケインはハンクを諦めてはいなかったな。軍と別行動をとれば接触しやすくなるだろう。その突然生い茂る木々の情報を逆手にとって、仕掛けるかもしれん」
「わかりました。同時に、その情報の確証を得るために動くよう、指示を出しておきます」
「頼む。そして我々も動くぞ。その荒れ地に向かう」
「は?」
「要請があるのだろう? ならば我々が向かうと言え」
「しかし」
「荒れ地に木々が……擬神兵の特殊能力かもしれないだろうが。だとすれば、対処できるのは我々だけだ。ハンクに先を越されるな!」

 こうしてクロードはつい先日別れたばかりのハンクのあとを追うことになった。
 ただしくは追いかけるではなく、先回りをする……なのである。

「私も同行するわ」
「なに?」
「だって、元々こちらの事後処理が終わり次第、追いかけるつもりだったんだから、いいじゃない。それに、面白そうだし」
「貴様の興味などどうでもいい。邪魔だけはするな」
「はいはい。わかってるわよ。じゃあ、さっさと向かっちゃいましょう!」
「だから、貴様が指図をするなっ!」
「もう、少佐ったらノリが悪いんだから」
「ノリだと? 任務にノリなど不必用だ!」
「……ホント、ノリが悪いんだから」
「まだ言うか!」

 そんなふたりのやりとりに、ジェラルドは軽く肩の力が抜けるのだった。

※※※

 荒れ地を抜ければあとは終着駅に着くばかり……状態のハンクとシャールのふたりは、目的地の前に異常事態が起きているなど、まったく知らない。
 そもそも、そんな情報を鉄道会社の者でも知らないだろう。
 荒れ地は広い。
 汽車の進行方向にそれが出現したという情報がでない限り知るはずもない。
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