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赦されざる者たちは霧の中に

原作: その他 (原作:かつて神だった獣たちへ) 作者: 十五穀米
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デリカシー

「シャール……」
「……難しいですね。でも、できることならクロード少佐より早く見つけて救える道を示してあげたい……かなって」
「シャール……そうだな。人であることを捨て擬神兵になると決めた理由は人によって違うが、多くの者はそれで戦争が早く終わるならと信じて選択をした。だが、終わってみれば……てやつだ。絶望して狂ってしまった者、理性を保ちながら悲観している者もいるだろう。トリスのことに関しては、すまなかった。いや、最期を見届けてくれてありがとうというべきか。彼女はもう一度舞台に立つことを願っていた」
「ええ。だけど、最後にすてきな歌を聞かせてくださいました」
「そうか……」
「じゃあ、ハンクさん、気ままな旅ではないけれど、少しは急ぐって感じですか?」
 ハンクは思う。
 しばらく別行動をしていたる間に、ずいぶんと考え方が変わったものだ……と。
 そして、自分と似たような考えを持つようになった……と。
 できることなら救ってやりたい。
 その気持ちに偽りはない。
 エレインは殺すしか救いはないと言っていたが、もしかしたら……
 その期待は持っていても邪魔にはならないだろう。
 シャールのためにも、殺すことしか救いの道はないという結論だけにはしたくない。
「そうだな。終着駅は比較的大きな街だ。情報収集するには都合がいい。そこに数日滞在していればライザも合流してくるだろう。彼女の得た情報は捨てがたい」
「そうですね。軍の動きもわかるでしょうし。軍より先に擬神兵を見つけることができるかもしれません」
「ああ。ところでシャール。デザートはいいのか?」
「え?」
「以前、汽車の食堂車で食べた時は、最後にデザートを頼んでいただろう?」
「……ハンクさん」
「ん?」
「ハンクさんはどうしても私を太らせたいんですね?」
「え? あ、うわっ!」
 どす黒いオーラを漂わせるシャールの顔が迫る。
「ま、待て。シャール、ここで殴ってくるな」
「私だって、ところかまわず力を振りかざしたりはしません。それくらいの分別は持っています。もう、本当にデリカシーがないんだから。少しは女心っていうのを察してくださいっ!」
 バンッ! と大きく一度だけテーブルを叩くと、残りのブドウジュースを一気に飲み干して、シャールは食堂車を出て行った。
 どうやら彼女の地雷を踏んでしまったらしいと悟った時は、もうすでに遅かったのだった。

※※※

 その頃、クロード少佐の方は。
「やはり、ハンク曹長との別行動はこちらとしてはマイナスだったのではないでしょうか」
 と、クロード少佐の補佐をしているジェラルド軍曹がボヤく。
 ジロリとクロードが彼を見ても、
「ただのひとりごとですので、おきになさらずに」
 と、しれっとした態度をとる。
 一向に情報が得られない状態続きのため、軽く嫌味を言っているのだということくらい、クロードにもわかっている分、言葉に出さず睨む程度で済ませていた。
「それはそうと、情報部からの情報も皆無で?」
 ジェラルドは同席しているライザに問う。
「あったらもったいぶらずに流すわよ。私だって、こんなむっつりとした少佐と一緒にいたくはないもの」
「同感ですな」
 ライザも内心はハンクと休戦した状態を続けてくれていた方が都合がいいと思っていた。
 多くの擬神兵を従えているのはケイン・マッドハウスなのだが、その彼が執拗にハンクを誘っているのだから、ハンクと共にいれば向こうからやってくる確率は高いのだ。
「だいたい、別れてからまだ三日、二日だったかしら? そうホイホイ情報が掴めるほど技術も能力も長けてないわよ。まったく、過去や未来をみる夢のような能力者でないかぎり、わからないことだらけよ。で、擬神兵にそういう能力を持っている人がいたとして、それがケインの元にいるのだとしたら、こちらの動きなんて筒抜けよね」
「……なにが言いたい、ライザ少尉」
 トゲトゲしい言われ方を続けられれば、さすがのクロードもカチーンとはくる。
 それを耐えていれば、この話題はここで終わったはずなのだが……
「あ~ら、なにか文句でもあるのでしょうか、クロード少佐」
「あ?」
「擬神兵のことに関してはハンクの方が知っているのに。その彼の別行動を許すなんて。あれほどターゲットはハンクだ! とかいってシャールを困らせていた人が、今更ね……」
「別行動を許可したとはいえ、討伐対象であることには変わりはない。ハンクにはちゃんと監視がついているのだろう? 問題はない」
「巻かれなければいいけれどね」
「なに? 貴様は、私の部下を愚弄するのか?」
「別に。ただ、監視をつけるなんて浪費だな~と思って。まあ、いいわ。私も彼の後を追うから」
「なんだって?」
「あら、仕事のうちよ。彼の持つ情報は軍としてもほしいもの。それに民間人のシャールが同行している。ハンクは強いし頼りにもなるけど、擬神兵。なにかあった時のために、軍人の誰かが同行していた方がいいでしょう?」
「それを、情報部のおまえがやるのか?」
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