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先輩が〇〇シリーズ

原作: その他 (原作: ペルソナ4) 作者: 雷鳴
目次

先輩とチューハイ

前回の続きのような。
エロは今回ありません


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安い缶チューハイはほろ苦い味がした。

完二は歳の割に老けた顔立ちをしている。上背もあるし、制服でなく私服に身を包んでいれば、ややチンピラの若いにーちゃんぐらいに見える。
なので店員にも親にもバレずにこれまでこっそり缶チューハイを買ってきた。

毎度そんなに大量に飲む訳では無い。ただ何となくアルコールの味と、様々なフルーツのフレーバーが合わさったものが好ましく、一度に1缶ほど自室でちびちび飲むのが常だった。
缶のゴミが出るから、気を付けて捨てても親にバレていないことはないとは思ってるが……今まで一度も指摘されたことはないので、「まぁいいか」と完二は思っていた。

しかし今日は違っていた。


鳴上と喧嘩した。



どちらが悪いのかだとか、悪くないのだとかは、正直今となっては完二には分からない。しかしどちらかと言えば温厚な方の性格である鳴上を、なかなか普段ないように怒らせてしまったのは間違いなく、
けれど完二は完二で納得いかない点があって、
結局譲れず『もういい』「オレだって、もういいっす!」という風に別れたのだった。

完二は自覚していなかったが、相当思い詰めていた。


先の通り、普段は何本と呑んだりなどしない酒を何本も空け、部屋の隅に缶の山が出来てるのが視界の端に入ったが、それでも止まらなかった。
しかしどれほど強くともいずれは酔いは回るもので、完二は落ち込んだような複雑な心境のまま泥酔した。

「…何でだよ……なんでなんだよ……」

ふとその言葉が口をついてでて、数秒の後、目からはらはらと涙の粒が散った。
完二は普段大袈裟に泣くこともない。だから酔いながらも己の状態に驚く気持ちはあったが……それよりもただただ涙の所在を目で追い、畳に染みていくそれらを後から指でなぞった。

自分の心と身体が分裂したような気持ちになった。
泣いている自分と、畳の上の涙の粒をグリグリといじっている自分とは、切り離されているように感じた。
とはいえそれは感覚的なもので、完二にはそれが「何故なのか?」だとか、「どうしてなのか?」みたいな、冷静な考えは浮かばなかった。

グビリ、グビリ、

また缶が一つ空いた。レモンフレーバーのそれを雑に部屋の隅に投げた。
既に室内にある缶は、高校生が悪戯に飲む量ではなく、
少なくとも教師にこれが見つかれば停学間違いなしだな…と思えるほどになっていた。
ぼんやりとそうしていると、同じく部屋の隅に投げられていた完二の携帯にチカチカ、とランプが瞬いた。着信の合図だった。
正直誰からの連絡も取りたくなかったが、何となしに向けた目線の先に"鳴上先輩"の文字を見つけてしまい、余計に気持ちが曇る。

——今さら何つったって話すりゃ良いんだ…
それに、オレの性格に嫌気が差して、別れ話でもされるかも——

などと思い、電話を取れないでいるものの、鳴上はずっと掛けてきているようだ、ランプの瞬きは途切れる事なく続いている。
留守電に切り替わって途切れても、その後も、何度も。
悲しみより苛立ちの方が強くなってきて、根負けしたのもあり、完二は仕方なく出る事にした。

『もしもし』
「もしもし…何すか」
『いや、ちょっとな…泣いてたのか?』
鼻を啜る。汚いが袖で拭う。
「別に…呑んでたから、鼻出ちまってただけっす」
呑んでたって……と呆れ声が少し離れて小さく呟かれ、
『話がしたくて。今いいか?』と言った。
「話つったって、この間散々…」
『オレが悪かったよ』
は?と思わず口に出る。珍しく怒った上にあれだけ固辞しておいて…
『言い方も悪かったし、やり方も悪かったし…ちょっと…子ども過ぎたかもって反省してた。
完二に危ない目に遭って欲しくないのは変わらないし、お前もオレに対してそう思ってるのは変えるつもりはないんだろう?』
「そりゃー、まあ当然っすよ。先輩がいないと始まらないし、終わるんで、オレら」
『別にそれで良いんじゃないかって思ったんだ。オレはどれだけ仲間が危ない目に遭っても助けるし、それはみんなも思ってくれてるんだと受け入れようって思って』
「えっと…じゃあ……」
『完二にも、みんなにも守って欲しいのは、無理は絶対にしない、引く時は引く。リーダーはオレだから、オレが言ったら聞いて欲しい』
「先輩……」
『だからその、ごめん。前は怒ってたからってやり過ぎた。今も不安にさせてごめん。正直一発ぐらい貰っても文句は言えないと思う。……完二?』
「う…うううう……」
堪えきれず決壊した涙が滝…というと大袈裟だが頬を零れ落ち、足元の畳をどんどん濡らしていく。先程の比ではなく、完二はしゃっくり上げながら嗚咽を漏らした。
『あぁ、すまない完二!そんなに泣く事は……』
「だってオレ……すげえ不安だったんすよ本当に……別れ話とかされんじゃねーかって…ふうぐうぅぅ」
『それは無いぞ、絶対に無い。完二、オレは将来どうなったとしてもお前の手を離すことはしないよ』
「本当っすかぁ?」
『本当だ』
良かった、本当に良かった…と安心する傍ら、完二の胸に込み上げるものがあった。
「………やべぇ、吐きそう……」
『ええ!?お前まさか嘘じゃなく本当に呑んでたのか?』
「何つーか…ヤケでみたいな…お、おえ…」
『あぁ、早くゴミ箱に……お前な、身体は大きくてもまだな……』

その後しばらく吐いたり鳴上の苦言を聞きながらも、完二はひどく幸せな気持ちで一杯になるのだった。

ちゃんちゃん。

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