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剣の少年と愉快な世界

ジャンル: ハイ・ファンタジー 作者: 天涅ヒカル
目次

エピローグ

 ザグルが山を出ることになったのは、それから三日後の話であった。
 剣の稽古も一通りしてもらったし、山でやることは殆どすべてやり、ザグルの目的は達成されたからだ。
 しかし、まだまだ、目的の一つである剣の稽古でハンクには勝てなかった。
 それどころか足元にも及ばず、ハンクに遊ばされた。
 ハンクの実力は昔とあまり変わっていない。
 本当に歳を取っているのか? 気になるくらい衰えることを知らない人だった。
 そもそもザグルは兄弟子のルミアにも力で勝った記憶がない。
 当面の目標は不本意だがルミアだとずっと思っている。
「もう行くのか?」
 ハンクとライト、そして、ミーファが並んで立っていた。
「ああ、いつまでここにいても、ろくなこと無いし」
 もう少し、剣の修行はしたかったが、同時にそろそろ新たにパシられるとも思った。
「そりゃ、残念だ」
 ハンクが小さく舌打ちをした。
 小さかったが、ザグルには聞こえていたので、なにかとんでも無いことを、また頼むつもりでいたようだ。
 まさかとは思うがライト家族の仲裁を任されるのではないかと感じた。
(だとしたら、それは絶対、あんたの仕事だからな!)
 早々に旅立つ準備をして正解だったようだ。
「いつでもここに来て下さいね」
 ライトは笑顔で言う。
「その前にあんたは親父さんと和解しろよ!」
「ええ、分かっていますよ」
 自信に満ち目が輝いていた。
 もう、前の自分では無いからだ。
 今なら、自分の父親にも理解をして貰えると思っていた。
 その上でまた、ここにいるつもりでいる。
「だったら、いいんだけどな」
「ところで、次は何処へ行くのだ?」
 ハンクが話しを切り替えた。
「さあ、決まって無い。そもそもここに来たのも目的が無かったからな」
「そうか、だったら……」
「絶対嫌だ」
 ハンクが話す前にザグルが素早く断る。
「まだ、なにも言っていないだろうが!」
「なん回も言っただろう? 師匠の考えはろくなことが無いって、どうせ、大したこと言わないだろうが!」
 二人が喧嘩腰になった。
 ライトがあたふたしながら止めようとした。
「そんなことは無い」
 しかし、すぐに収まった。
 ここはハンクが大人だった。
「じゃあ、なんだよ?」
 ザグルの語気は荒かったが、結局聞くことにした。
「別の大陸に行くのさ」
「……はぁ? なんで?」
 意外な発言に驚いてしまった。
「わしも行ったから、なにごとも経験が必要じゃからな」
「それで、オレにも?」
「そうじゃが? 経験が不足しているからな。ジェイもそうだが特にお主は」
「……うるさい!」
「それに異大陸で自分に合った剣を探すのも目的としてはありではないのか? そろそろ新しい剣にしてもよかろう」
 剣の実力は充分備わっている。
 ただ、まだまだ、ハンクには劣るし世界には通用しないが……。
 いくら魔法の世界でも剣の世界も広いのだ。
「えっ、師匠の剣も異大陸の物なのですか?」
 驚いたライトが声を出した。
「そうじゃよ。別大陸には別大陸の伝説があるからな。その伝説に基づきながらな」
 この大陸ではドラゴンは伝説とされているけど、場所によってはドラゴンが一つの街を作って、暮らしている街もある。
 精霊もそうだった。
 魔物も召喚術師と呼ばれ、生業にし操っている場所ところもある。
 世界はとても広かった。
「……確かにその手、ありだな。目的も無いし行ってみるか」
 ザグルは少し考え答えを出した。
 今回は素直に聞くことにした。
 ザグルだって異大陸を眼中に入れていなかった訳ではなかった。
 ただ、きっかけが無かったのだ。
「おう、行け、行け」
(それが、きっとお主の為にもなるからな)
 ハンクは弟子を後押しすることしか出来なかった。
 幸運には見放されているだろうが、悪運は見放されている訳ではないので、きっと大丈夫だろうと思ったが、しかし心配だってことには変わりなかった。
 ザグルに対する親心からなるものだ。
 しかし、ルミア同様、ハンクの気持ちもザグルは気付いていなかった。
 それが、返って心配だったが、今は見守ることにしていた。
 ザグルは歩き始めた。
「元気でいろよ」
「おう」
 ザグルは『迷宮(ラビリンス)』へと入り山を降りた。
 三人に温かく見守られながら……。

 こうして次の目的が決まった。
 次のステップへと続く旅だ。
 この先どんなことがあるか分からない。
 楽しくても、険しくても、ザグルは後悔することは無いだろう。
 それがザグルの目指す夢の為だから……。
「あっ、でも、オレ金がなかったわ。どうするか……」
 ザグルの旅は何処までも前途多難だった。
「ま、なんとかなるか」
 ザグルはいつもそうやって旅をしていたので、特に気にすることなく前に進んだ。


おわり
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