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剣の少年と愉快な世界

ジャンル: ハイ・ファンタジー 作者: 天涅ヒカル
目次

剣の少年と愉快な冒険者たち(後編)②

 その後も幾つか部屋を見つけ、その都度部屋には入ったが、どこも物気の殻で、宝や魔物の姿は愚か、手がかりすらも無かった。
「なあ、本当に魔物いるのか?」
 ザグルがルミアに質問する。
「いるって、いなきゃなんのためにここに来ていると思っているんだ!」
 なんの発展がない事にザグルは苛々していたが、ザグル以上にルミアも落ち着かなかった。
 他のメンバーもそれは同じで、クランはザグルの事を抱きつき始めるし、ロベリーは欠伸をしながら、どこかに茸の一つでも落ちていないか、探し始めた。
 しかし、ルーベだけは、ずっと、態度が最初と変わらず、なにも喋らずただ黙々と歩いていた。
「なあ、ルーベって、いつもなに考えているんだ?」
 ザグルは嫌々ながらもベッタリ抱きついているクランに、こそっと聞いた。
 ちなみに、抱きついている事への突っ込みもなん度かしたが、無駄に終わっていた。
 クランの細身で長身な身体がザグルの小柄な身体を覆っている。
 そうやってじゃれ合っている時に、たまたまルーベと目が合った。
 ルーベは興味が全くないのか、表情を変える事は無かった。
 ザグルとルーベが顔を合わせるのは今回が二度目で、ルーベがパーティに入ってさほど時間が経っていない。
 だから、なにを考えているのか、理解に苦しんだ。
「う~ん。よく分からないけど、悪い人じゃないと思っているよ」
 クランは答える。
「ふうん」
「それに冒険者としての実力もすごいらしいよ。なんでも、他の大陸にもいたみたいだし」
「へ~」
「まあ、悪ければルミアが、スカウトするはずないし~」
 クランもロベリーもルミアがスカウトしたのだ。
 どんな経緯でスカウトしたかは不明だが……。
 このパーティの七不思議第二弾である。
「それもそーか」
 クランもザグルも、勿論、ロベリーもルミアの本質を知っている。
 ルミアはあれでもしっかりしているのだ。
 そうでなければリーダーなんかとても務まらない。
 ただ、いつもヘラヘラしていて頼り無い男ではあったが……。
「ああ! 腹立つ!」
 いきなりルミアが大声をあげた。
 人望はあったが、もともとは短気で血の気が多い方なので、我慢が出来る体質ではないのだ。
 苛々は頂点にまで達し、はっきり言って限界がきた。
 近くにあった壊れかけの壁を八つ当たりで殴った。
 壁の脆く崩れる音がしたかと思えば、中から仄かに明るい部屋が出てきた。
「あっ! 部屋だ」
 地図で確認したら、確かに部屋らしい所はあったが、瓦礫で埋まっていて、入れない事になっていた。
「部屋だね?」
 クランは部屋を覗いた。
 さっきから見ていた部屋と構造はなにも変わらなかったが、明かりといい、明らかになにかがある。
 あるいは、いた形跡があった。
 まあ、瓦礫を取り除いたのだから、いてもおかしく無い。
「おっ、ラッキー」
 ルミアが警戒する事無く、無防備に中に入った。
 注意力が苛々で散漫しており、罠のチェックを全くしなかった。
 これで盗賊をやっていられるのだから、世の中、謎だらけなのだ。
 冷静な判断力と臨機応変な対応が完全に無力化していた。
「おい、ルミア! いいのかよ!」
 遠くなっていく中でザグルが叫んだ。
「いいって」
 どこからでる自信か全く分からないまま、一人、部屋へ侵入し、周りを見た。
 埃とカビの臭いが充満している部屋。
 なん回入っても、気持ちがいいものではない。
 しばらく部屋の中を物色していると、がさがさと、物音が聞こえた。
「なっ、なんだ?」
 ルミアはクランにアイコンタクトをして、音の元へと静かに向かった。
 音のした物は生きている物で、それは姿を隠していた訳では無かった為、茶色の毛が見えた。
 ルミアは一目で、人間では無く魔物だと分かった。
 盗賊のスキルで、極限まで気配を消していたものの、あまりにも注意力が無い魔物だった。
 どうやら、気付いていないのか、魔物はさりげなく振り向いた。
 そして、ルミアと目が合った。
「あっ?」
 ルミアが思わず声を漏らした。
「あっ!」
 目が合った魔物はオスのゴブリンだった。
 ルミアも声を漏らす。
「あああぁぁぁぁぁ!」
 一人と一匹が同時に声を上げた。
「どっ、どうしよう……」
 何故かゴブリンの方が挙動不審だった。
 そして、ルミアの足の長さほどしかない、小柄な体を生かし、ルミアの身体の隙間に入り込みゴブリンは走り出した。
「あっ、逃げた」
 捕まえようと思ったが、とても足が速く、追いつかなかった。
 ゴブリンはルミアが開けた穴から出て行った。
 その際、背中が見え、背中に『きいろ』と、黒いペンキで書いてあった。
 ザグルはそれを見逃さなかった。
「あいつは……」
 その事実が間違いであって欲しかった。
「あいつ、ゴブリンのくせに逃げ足、速すぎだろう」
 ルミアが部屋から出てきた。
「どうするの~?」
 ロベリーの間の抜けた声が聞こえた。
「そうだな、とりあえず、あのゴブリンがなにをしていたか調べるか。ロベリー頼む」
「は~い」
 ロベリーはポケットに入れていた厚みのある眼鏡を取り出し、それをかけた。
 ルミアと一緒に部屋に入り、残りは外で見張りをしていた。
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