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腐男子、BLを百合と語り、男におちる

ジャンル: 異世界(恋愛) 作者: kirin
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幕開けはいつも唐突に 4

 生駒は優秀だった。

 あの後、すぐに連絡したようだ。生駒と好野の連絡先は繋がったままの状態だったので、彼女の話も聞きながらじっくりと言い聞かせて説得したらしい。好野と大絃が2人きりになってしまわないように互いに友人を同席させてファミリーレストランで話し合いする約束を取り付けた。

 大絃には生駒、好野は入学当初に話に上がった同学部の女子・森見がつくことになった。



 当日、時間より早めに到着した大絃と生駒だが、それよりも早く好野たちは到着していたようで店の前で待っていた。

 彼女の姿を目にした瞬間、大絃は思わず足を止める。

 その様子に好野は寂しげに目を伏せ、少しして深々と頭を下げた。

「ここでそんな事されても目立って変に思われるから。中で話そう」

 大絃は好野の下げられた頭に軽くポンと手を置いて告げると、さっさと中に入って席を確保した。元恋人だった2人は向かい合うようにして席につく。

 お冷が出され、ドリンクバーをとりあえず注文し、その他に注文する場合にはボタンで呼びますと告げて出来るだけ店員が席に寄りつかないように手配した。

「今日は来てくれてありがとう、桃。汐から聞いてるかもしれないけど、俺は特に復縁を望んでここに来たわけじゃないし、怒りをぶつけに来たわけでもない」

「大絃くん……」

 ずっと下を向いたままの好野は大絃の言葉に顔をあげ、少しホッとした様子で彼を見つめた。彼女自身も様々なことで悩んでいたのかもしれない。瞳はうっすらと潤んでいた。

「まあ、無味乾燥なメールだけで別れようとしたその考えに関しては少し怒っていたけど、こうしてちゃんと来てくれたから、それについてももういい」

「ごめんなさい……」

「ただ、ちゃんと桃の口から事情を聞いて、別れたかったんだ。ちゃんと、話してほしい。いいか?」

 優しい口調に大絃の誠実さを感じたのか、大粒の涙を流しながらいつも以上にゆっくりとことの次第が彼女の口から語られた。



 大学の漫画研究サークルに入った好野はいつも夏のイベントに参加することをメンバーに話すと、自分も参加するという人が何人か出てきたそうだ。

 その中の1人がコスプレイヤーで、好野の好きなキャラクターのコスプレをするというので、イベント参戦時のカメコを私にさせてくださいと申し出、一緒に参加する約束をした。

スケジュールや待ち合わせに関して話を詰める中で、イベント参戦前にコスプレの出来の確認と合わせて、どんなポージングがいい等参考に聞かせてほしいということで、相手の家にお邪魔することにした。その時は純粋に好きなキャラクターが見れるという好奇心だけだったようだが、実際にコスプレを目の当たりにして彼女はその姿に一目惚れしてしまった……。

 最初はこの気持ちは好きなキャラクターが二次元から飛び出してきたような錯覚に陥って疑似的な恋心をいただいてしまったのだと思っていたが、その後、コスプレをしていない相手の姿にもときめきを感じ、一緒にいる時間を過ごす中で紳士的な一面をみたりしてだんだんと恋心を募らせていった……。



「本当にすみませんでした。私も、こんな事になるなんて思っていなくて……いろいろ悩んだ結果が、あのメールでした。私がいなくなればいいんだなって、思って……。でもそんなのは言い訳だよね。大絃くんと向き合う勇気がなかっただけです、軽率で卑怯な行為だったと反省しています……ごめんなさい」

 肩を震わせ、可愛らしいタオルに顔を埋めて好野は泣いた。

 しばらくは誰も動かず、喋らず、彼女が泣き止むのを待った。

 少し呼吸が落ち着いてきた頃、彼女はおもむろに1枚の写真を取り出して、大絃の前に差しだした。

「私の恋の相手です。大絃くんのもとに戻れないと思った理由は……私が好きになった相手が、女の子だからです。同性だから共感しあえることが多くて、一緒にいるのが楽しくて、何より……彼女の方が紳士的だった」

 最後の一言にはガツンと頭を殴られたような衝撃を受けた。

 差し出された写真には、凛々しくもどこか儚げな目をした美麗な女性が写っていた。

 以前何かのタイミングで姉が話していた内容を思い出した。

『女の子の理想通りの男なんてなかなか見つからないのよ、男女で感性や考え方が違うんだもの。女の子の理想に一番近い紳士性や男性像は、女の子にしか再現できないかもしれない』

 なるほど……と納得せざるを得なかった。男が描く理想の女性像が基本的に実在しないのと似たようなものだった。彼女の理想とする男性像に合う女性が現れた、それだけの事だ。彼女が言うように、それなら男性である大絃に心が戻らないと確信を持ったことに関しても理解できた。

「そうか。話してくれてありがとう。やっぱりこうやって事情を聞けて良かった。ちゃんと納得できる説明だったから、少し寂しいけど、桃が幸せになれるよう応援する気持ちになれたし。聞けなかったら恨みがましい気持ち持ったままだったと思うからさ。俺と付き合ってくれてありがとうございました。短い間だったけど、夢、見れたよ。じゃあ」

 言い終えると大絃は席を立った。最後は少し声が震えて泣きそうになっていることはバレてしまったかもしれないけど、涙を流すなんてみっともないところは見せたくないという、彼の最後のプライドだ。

「頼んだドリンクバー分についてはこっちで払っておくから、あとは好野さんと森見さんの好きにどうぞ。では」

 生駒は会計を済ませ、大絃の後を追った。
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