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勇者達のこんにちワーク

ジャンル: 異世界(恋愛) 作者: 髙見 青磁
目次

三人の勇者達

地下鉄で王様のお城に向かうと、俺は早速バス待ちの行列に並んだ。
大抵、お城っていうのは郊外にあるものだ。
もうちょっと交通の便のいいところに建ててもいいかと思うが、まあ日照権とか建築基準法とか色々あるんだろうなーと思いながら、せわしなくワイパーを動かすバスに乗り込んだ。
いくつもの停留所が過ぎていくのを、曇ったガラス越しに見ていた。
バスに乗ること15分(だから遠いって!!)、お城の前の停留所に俺は降り立った。
しかし、お城の門は固く閉ざされていた。
「うわっ、あの兵士のやつ、ちゃんと王様に話し通してないなコレは」
仕方ないので、俺はお城の外壁を回り込み、通用門に到達した。
呼び鈴を押す。
「ちわー、三河屋ですぅー」
そう言うと、通用門はカチッというリレーの音を響かせて開いた。
難なく俺はお城の中に入り込むと、慣れた足取りで王様の部屋までたどり着いた。
ノックも無しにいきなり引き戸をガラッと開けた。
頭の上に何かが落ちてきて、ポフッと白い煙が立った。
俺は徐に足元に落ちた黒板消しを取ると、静かにもう一度引き戸にセットした。
「これ、勇者殿! ノックぐらいせんかね?」
「いつも返事もしないのは誰だよ。王様だろ?」
「ふむ、それも一理ある」
「ねーよ!」
そんなやり取りをすると、王様と俺は笑い合った。
「で、何の用だ?」
「実は、またしても魔王のヤツがアレなのだ」
「あー、アレね」
「そうだ」
王様は困ったように微笑んだ。
「なるほど、その世界征服の阻止に対して、交通費は出るんですかね」
「まったく、足元を見おって。しかたない、後で仮払い申請をしてくれい」
「りょーかい。それじゃ、また」
「あー、まてまて。今回は酒場に仲間を用意しておいた。心強かろう」
「風の吹き回しがビミョーだな。俺を最高レベルの勇者と知ってのことかい?」
「おぬしはもう十分に強い。なのに何故、未だに魔王を倒せぬのじゃ?」
「その台詞、聞き飽きた」
「わしも言い飽きた」
俺は鷹揚に足元の宝箱を蹴り上げると、中身を確認した。
「あー、またシケた旅の準備だなー、オイ」
「今はこの国もキビシーのだ、分かってくれぃ」
「はいはい、それでは頂戴して行きますよ。他に何か言っておきたいことは?」
「・・・・・・ああ。魔王にヨロシクと」
こうして、俺は王様との謁見をつつがなく終え、酒場に向かった。
ポフッ。
頭の上にまた黒板消しが落ちてきた。
王様が呆れ顔で見ている。
その顔に向かって、俺は親指をグッと立ててやった。

――酒場にて

場末の路地裏を入ったところにその酒場はあった。
俺はドアを開けて入った。
リンとドアにぶら下げてあるベルがなった。
「いらっしゃい」
カウンターの中から、初老の男が酒を飲みながら接客してきた。
「ご注文は?」
「ホッピーある?」
「かしこまりました。そういえば、お客さん見ない顔だね」
「だろうね、秘密工作員だからね」
「なるほど、では名刺を渡しておきましょう」
そう言われて、受け取った名刺には、こう書いてあった。

―ルイダの酒場―
<マスター>  古口 ルイダ

「・・・・・・。なるほど、おたくも転生組で?」
「ええ、あっちでは、酒場彷徨旅とかで有名だったんですよ」
「ああ、あのサテライト放送の?」
「そうです」
「じゃあ、俺が勇者なのもバレてたんだ?」
「仰るとおりで。只今、仲間をお呼びします」
マスターが指パッチンすると、どこからともなく三人の仲間が現れた。
――今後ともヨロシク
と、三人そろっての定型句の自己紹介を聞いた。
俺はマスターから受け取った、仲間のプロフィールに目を落とした。

フムフム、一人目は・・・・・・。
オタクから引きこもりをこじらせたニート(男)ね。
こういう人が転生するのは、良くある話だ。

二人目は・・・・・・。
夢はIT企業社長だったけど、パワハラとデスマーチで精神やられて、こないだまで入院してたと。なるほど、まあ女だし、結婚という手もあるが・・・・・・。色々あって転生したのね。

三人目は・・・・・・。
難病に冒されて、ネットゲームやっているうちに、ネット上の方が住み心地が良くなったと。なるほど泣ける話系なのね。

こうして、俺たち転生組の勇者は、一路、魔王のトコロへと向かったのであった。
ハズだった。
ガシャコンガシャコン。
ズルズルキーキー。
「・・・・・・。」
全員一致で装備を引きずる音が聞こえる。
どうやら、コイツらには重すぎる装備のようだ。
「あのさ」
「何でしょうか、隊長」
「いいから、黙って聞けよ。装備してるヤツ、全部捨てちゃえよ」
三人は銃口でも向けられたようにフリーズした。
「そ、そんなぁ。これから魔王の所へ向かうんですよ。丸腰で行けって言うんですか?」
「んっ? いいんじゃないか?」
俺は、「当たり前だろ」と言わんばかりに、後ろを振り返りながら言った。
「やだっ、私、下に何も着てないのに!」
「お、おれも、鎧がないと・・・・・・」
まあ、女が嫌がるのは分かるとして、男どもはどうしてダメなんだ。
「鎧がないと困るのか?」
「か、カツアゲされたときとか」
「あのなぁ、お前は本当に勇者か? しっかりしろ。もうわかった、これは命令だ。これから各自、店に行って装備を売ってこい。いいな?!」
勇者達は、重たそうな口を開いて小さく「はい」とだけ言った。
元気がないのは良くないなぁ。
「そうだ、売った金で、童貞でも処女でも捨ててこいよ」
その瞬間、三人の勇者達は固まった。
――ピッ
『それを捨てるなんてとんでもない!!!!』

やれやれ。先が思いやられる。
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