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勇者達のこんにちワーク

ジャンル: 異世界(恋愛) 作者: 髙見 青磁
目次

勇者達のお買い物事情

しばらくして、勇者達が戻ってきた。
三人とも普段着のようだが、アニメ柄のTシャツに、ロリータファッション、そして病院のパジャマのヤツもいる。
どうやったらこうなるのかねぇ。
「おい、その格好じゃダメだ。まずは防具を買いに行くぞ」
こうして、勇者達を引き連れて装備調達の旅に出た。
とりあえず近場の紳士服店にやってきた。
「よし、男どもはスーツだ。そして、女もスーツだ」
勇者達がにわかにざわついた。
「あの、何故スーツなのですか?」
「何を言う! スーツは最高の防具なのだ」
「はあ、よく分かりませんが」
「どんな怪しい人物も、スーツを着ておけばなんとなく強い勇者に見えるのだ」
とかなんとか、言っておき、勇者達にスーツをあつらえてやった。
裾上げが終わるまでの間、レジ前の椅子に腰掛け待っていると、女勇者がなにやら名刺入れを珍しそうに見ている。
「んっ? 気になるのか?」
「はい、私も以前使っていた名刺入れがあるのですが、それはプラスチック製でした」
「なるほど、それで革製の名刺入れに興味を持ったと。キミはなかなかいい着眼点をしている」
「そ、そうなんですか?」
「そうだ、名刺交換は、まさに命の交換なのだ」
「は、はあ。そういうモノですか」
「キミもいずれ分かるときが来る」
裾上げが終わり、勇者達にスーツを着せた。ついでに名刺入れも買ってやった。
店の主人が恭しく支払いの伝票を持ってきたので、間髪入れずに王様のツケにしてやった。
次は名刺屋さんだ。名刺は勇者の命なのだ。
ここは俺の行きつけのスピード名刺屋だ。
程なくして、名刺ができあがる。それを勇者達の名刺入れに入れさせた。
「いいか? 敵が現れたらまずは名刺交換だ」
「はい、わかりました」
三人がそろって返事をする。うむ、いい傾向だ。
そろそろ腹が減ったので、打ち合わせと称したランチに行くことにした。
――某高級焼肉店にてランチミーティング
「スゲぇ、この肉旨いっす」
「どうだ? 勇者になるとこんなに旨いモノが食えるのだ」
まあ、後で王様に経費申請するのだが。
食後。腹ごなしに街を散策する。
すると、勇者のうちの一人から、まだ武器を買っていないという話になり、どうせなら良い武器が欲しいという話になった。
「お前ら、最強の武器はなんだか分かるか?」
「わ、分かります。ハヤブサのペンです」
「いや、名刀マサムネでは?」
「私は、勇者専用魔法だと思う」
なるほど、三者三様の答えが返ってきたが。
「どれも違うな」
『違うの?』
「違う。勇者の最強の武器は、智慧と勇気だ」
なーんだ。という反応が返ってきたので、俺はビシッと言ってやった。
「智慧なき者は堕落する。勇気なき者に勝利はない。智慧も勇気もないから、お前らはダメなんじゃないのか?」
そう言うと、ウッという息を呑む音が聞こえてくるようだった。
「今の自分を変えたいと思わないのか?」
『お、思います』
「では、智慧と勇気を高めることだ」
『分かりました』
うむ、よろしい。
「ところで、最強の勇者様の智慧と勇気のステータスが気になります」
「マジで? 見る?」
三人は、ゴクリと生唾を飲み込みながら頷いた。
――ピッ
俺は、自分のステータス画面を開いてやった。
三人は目を見張った。
「こ、コレは?!」
☆智慧:ヨえろすん
☆勇気:黄イロと黒
『バグってる!!!』
三人は腰を抜かしたように言った。
「そうだ、俺は智慧と勇気をバグるぐらい上げたのだ」
「この人はスゴイ」
「他のステータスは、私達と大して変わらないのに」
「これだけ智慧が高かったら、臨機応変の神様だ」
「もしかして、愛と勇気だけが友達なんじゃないのか?」
「顔が交換できるのでは?」
「火星だ、火星に行って、最後に異星人の遺跡で空気を生み出すんだ」
「シュワちゃん?」
「いや、顔が変わると言ってもそっちじゃない」
とかなんとか、勝手なことを言っている。
「コラコラ、変な妄想を膨らまさないように」
『すいませんでした!! 見くびってましたっ』
三人が声をそろえて言った。
おーい、見くびってたんかーい。
「まったく、俺はお前らに旅の準備をしてやる、優しいパパじゃないんだぞ」
そう言うと、三人はキョトンとした。
コラ、キョトンするな。
そんなやり取りをしていると、前の方から、ちょっと厳ついお兄さん達がやってきた。
どうやら、三人と目が合ったようだ。
「よおー、兄ちゃん達、女連れか?」
早速、絡まれたようなので、俺はすかさず名刺交換のサインを三人に送った。
三人は、ハッと気付いて、素早く懐に手を入れ、名刺入れから名刺を差し出した。
――ビシッ
『私達、こういう者です』
リーダー格であろうか、一際異彩を放つお兄さんが受け取った。
「ほー、勇者やってんの? あんた達。まあ、別に興味ないから今日は行っていいや」
そう言うと、三人達はお兄さんの鋭い眼光を浴びながらも、その場を退散することができた。
しばらくして、緊張が解けたのか、三人はハイタッチした。
「スゴイよ! カツアゲされなかった」
「思わず名刺入れじゃなくて、財布出そうとしてたけど、助かった!」
「名刺交換って、サイコーだね」
そして、三人は俺に向かって。
『ありがとうございました』と一礼した。
うむ、だが礼を言うのはまだ早いぞ。
これから、魔王のトコロに行くのだから。
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