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星の髪飾りに導かれて

ジャンル: 現実世界(恋愛) 作者: 柘榴アリス
目次

彼の本性

遂にこの日が来た。波瑠はドキドキと緊張を胸に抱いた。今日は怜二の誘いで彼の屋敷へ招かれていた。波瑠はギュッとポケットに入ったものを握り締める。それは盗聴器付きのボールペンだ。篠崎が渡してくれたものだった。波瑠は通された部屋でドキドキと彼が来るのを待っていた。出された紅茶に手を付ける気にもならなかった。暫くすると、彼が部屋に入ってきた。
「波瑠。待たせて申し訳ない。」
「い、いえ…。」
波瑠はゆるゆると首を振った。彼は波瑠を見て、目を細めた。
「来てくれて嬉しいよ。波瑠。」
「あ、ありがとう…、ございます。」
どう見ても、たじたじした様子の波瑠に彼は考え込むように無言になった。
「波瑠。君の為に美味しいお菓子を用意したんだ。遠慮せずに食べてくれ。」
「は、はい…。」
正直、食べる気になれない。そう思っていた波瑠だったが運ばれたお菓子を見ると、瞳を輝かせた。
「あ…、苺のケーキ…。」
それは波瑠が一番大好きなスイーツだった。キラキラと瞳を輝かせ、波瑠は美味しそうにケーキを口にする。
「お、美味しい…!」
「気に入ったか?」
「はい!」
「そうか。それは良かった。茶葉もいいものを仕入れたんだ。」
「わあ…!頂きます。」
先程までの緊張感は何処へやらお菓子を前にした波瑠はすっかりそれを忘れて勧められるままに紅茶を口にした。
「あ…、これってアールグレイ?」
「…もしかして、苦手だった?」
「ち、違うんです!私、紅茶では香りが強かったり、癖の強いお茶が好きで…、特にアールグレイは大好きなんです。でも、好き嫌いが分かれる紅茶なんであまり、出されたことがなかったのでびっくりしてしまって…、」
「そう。俺もアールグレイが好きなんだ。」
「そうなんですか。じゃあ、私達、好みが似ているのですね。」
波瑠はそう言って微笑むが何故か怜二は無言になった。
「怜二様?」
「…いや。そうだね。俺と君はきっと、いい夫婦になれるよ。」
気を取り直したように彼はそう言った。
「ところで…、君のその髪飾り…、」
「え?あ、これ…、ですか?」
波瑠はいつもしている星の髪飾りのことかと理解した。
「前もその髪飾りをしていたよね。…でも、そんなに高価そうには見えないな。何でわざわざそんな物を身に着けているの?」
「これは…、大切な物なんです。思い出の宝物で…、」
波瑠はそう言って、懐かしそうに話した。
「…下らない。」
「はい?」
波瑠はよく聞き取れず、顔を上げた。すると、目の前の怜二の表情に顔を強張らせた。彼は冷めた目で波瑠を見据えていた。
「下らないな。思い出か何か知らないがそんな理由でその安っぽい髪飾りを身に着けていたのか?君は。」
「なっ…!」
「君が元は庶民なのは知っている。だが、君は仮にも御堂家の娘で俺の婚約者だ。それなりの装いをしてくれないと困る。」
「れ、怜二様…。」
「…こんな物はもう、不要だろう。」
「あっ…!か、返して!返して下さい!」
怜二はそう言って、波瑠の髪飾りに手を伸ばすとそれを取り上げてしまった。波瑠は反射的に彼の腕を掴んだ。必死にそれを取り返そうとする。
「放せ。こんな安物を身に着けていれば俺が笑われるんだ。ただでさえ、成り上がりだとばかリにされているというのに。」
「お願い!それを返して下さい!あなたの前ではもうそれは着けません!だから…、」
「何故、こんな髪飾りにこだわる?そんなに髪飾りが欲しいなら、俺が代わりの物を買ってやる。」
「そんなの、欲しくない!それじゃないと駄目なんです!それがないと、私は…、」
一生懸命に手を伸ばすが長身の彼には到底敵わない。縋りついて涙を浮かべる波瑠に彼は不快気な表情を隠しもしない。やがて、チッと舌打ちをするとそれを投げつけるように波瑠に返した。慌てて、それを抱き留める。床に座り込んだ波瑠は手の中の物をそっと開くと、そこには星の髪飾りがあった。ホッとして波瑠は髪飾りを大切そうに握りしめた。
「…無様な姿を晒すな。いつまで、これ見よがしに座り込んでいるつもりだ。」
波瑠はその言葉に怜二を見つめた。嘲笑する彼の表情には優しさの欠片もなかった。
「どうして…?どうして私…、なのですか?」
怜二は波瑠を冷たく見下ろした。
「怜二様は…、どうして、私を婚約者に選んだのですか?あんな…、嘘まで吐いて…、本当は私の事なんて、好きでもないのでしょう?」
「…何でそう思う?」
「だって、あなたの私を見る目はどう見たって好きな人を見る目じゃない!本当に私の事を好きなら、こんな酷いことはしないし、暴言だって吐かない!本当は…、あなたは私の事を嫌いなんじゃないですか?」
「…。」
「そんなに御堂家と繋がりを持ちたいのなら…、私ではなく、お姉様と結婚すればいいのに…!」
「言いたいことはそれだけか?」
グイ、と顎を掴まれる。いつの間にか床に膝をついていた怜二が無理矢理波瑠と視線を合わせた。
「知りたいなら、教えてやる。俺がお前を婚約者に選んだのは御堂家の娘だからで違いない。確かに血筋でいうなら江利香にするべきだろうな。けど、あいつは我が強く、嫉妬深くて、婚約したら俺を束縛しそうで面倒だ。その点、お前ならその心配はなさそうだ。大人しくて、従順で逆らわない女。お前を婚約者にした方が都合がいい。」
波瑠は愕然とした。やっぱり、彼の本性はこちらなのだ。篠崎の言った通りの男だった。
「…に。」
「何?」
「あなたのこと…、優しい人だと思ったのに…、それなのに…、本当のあなたはこんなに傲慢で冷たい人だったなんて!」
「お前が見た俺の優しさは偽物だ。あれは、表向きの顔に過ぎない。…勝手に幻想を抱いて、勝手に幻滅するのは勝手だがそれを俺に責められてもな。」
「っ…、あなたの本性がこんな人だと知っていたら、婚約何て絶対にしなかった!あなたの婚約者になんて、なりたくない!」
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