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星の髪飾りに導かれて

ジャンル: 現実世界(恋愛) 作者: 柘榴アリス
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工藤怜二

今日は朝から皆、忙しなく働いている。そう波瑠は思った。まあ、それは無理もない。何せ、今日は待ちに待った江利香の縁談相手との顔合わせの日なのだ。気合が入るのは当然の事だった。おかげで最近の江利香は上機嫌で波瑠は平穏に過ごせた。基本的に機嫌が良いと義姉は波瑠を気にもしないのだ。逆に機嫌が悪いと八つ当たりとばかりに波瑠に当たり散らすので大変だが。波瑠は心の中で工藤家の御曹司に感謝した。江利香は朝から、髪型や化粧、服選びに忙しない。この分なら、わざわざ波瑠の部屋まで来て、嫌味や皮肉を言いに来る様子はなさそうだ。波瑠は良かったと安堵した。
「全く…。江利香お嬢様ときたら…、毎度毎度、理不尽な命令ばっかり!これだから、嫌なのよ!あの人のメイドなんて!あーあ。転職しようかなあ。」
「うーん。でもさあ、ここはお給料がいいし…、あたしはいっそのこと波瑠お嬢様に乗り換えたい気分だわ。美晴が羨ましいわ…。」
はあ、と溜息を吐いて愚痴を言い合っているメイド達。ここはメイドの休憩室だった。だから、平気でこんな会話もできるのだ。
「まあ、確かに…。江利香お嬢様の我儘ぶりは頭が痛いわよねえ。」
「この前も自分がタルトを希望したのに、やっぱり、パフェがいいだなんて言い出すし…、」
「お疲れ様ー!聞いて聞いて。お嬢様から手作りのお菓子を頂いたの。皆で食べよ…、ってどうしたの?」
その時、美晴が休憩所に現れた。手には、マドレーヌが入った籠を持っている。
「美晴…。あんたは仕事のストレス何てなさそうよね。」
「ストレス?何で?」
意味が分からないと美晴は首を傾げた。
「聞いてよ!江利香お嬢様ったら…、メイドの私達にドレスを選ばせておいて、全部ダメ出しをしたと思ったら、やれこのドレスがいいだのやっぱり、こっちのドレスがいいだの、髪はこうしろああしろとか我儘ばっかり!お蔭でこっちは朝から着替えや髪型を整えたりするのに必死で…、」
「あー。そういえば、今日は縁談相手が来るんだっけ?昨日、お嬢様の部屋に乗り込んできてたわよ。あの我儘お嬢様。聞いてもいないのに工藤家の御曹司の自慢話をされて、婚約者も縁談相手もいないお嬢様を散々こけにして、好き放題言っていたもの。ああ!今思い出しても、腹立たしい!あの勝ち誇った顔!波瑠お嬢様も何で何も言い返さないんだが!」
言い返すどころか、江利香におめでとうございますと祝いの言葉を述べていた。江利香が立ち去った後も美晴に祝いの贈り物は何がいいと思う?と相談する始末。お人好しにも程があった。美晴は昨夜の事を思い出し、怒りに震えた。
「それは…、波瑠お嬢様は相変わらず人がいいわね。」
屋敷内では表立って言わないが実は波瑠は使用人には絶大な人気を得ている。大人しいが誰にでも平等に接して、優しくて気遣いができるお嬢様。あまり、自己主張せずに贅沢も我儘もほとんど口にしない。元は庶民の感覚が抜けていないのか身の回りの事は極力、自分でしている。養女になったからといって、驕ったり上から目線の態度にならないのも使用人の好感度の高い所だった。それに、周りをよく見ていて、使用人の体調が悪ければすぐに気づいて休むように言ってくれるし、お菓子作りが趣味の波瑠はよくお手製のお菓子を使用人たちに差し入れしてくれるのだ。使用人の間では「波瑠お嬢様を見守り隊」が形成されていることを本人は知らない。意外と近くに味方がいることに気づきもしなかった。その頃、波瑠は呑気に結婚祝いのプレゼント特集という題材の雑誌を読んでいたのだった。
「お嬢様。旦那様がお呼びです。」
きた、波瑠は心の準備をして挑んだ。遂に工藤家の御曹司と対面だ。義理の妹として、しっかりと挨拶をしなくてはと意気込んだ。波瑠はいつものように髪に星の髪飾りをして部屋に向かった。
「お義父様。波瑠です。お呼びでしょうか?」
「入りなさい。」
「失礼します。」
波瑠はドアを開けた。中に入ると、そこには義父ともう一人、美しい男性が座っていた。その男性に波瑠は見覚えがあった。
―あれ?この人、確か前のパーティーで会った…。
波瑠がぶつかった相手だった。何でここに?首を傾げる波瑠だったが男はスッと立ち上がると、見惚れる様な微笑みを浮かべた。
「お久しぶりです。…この間のパーティー以来ですね。」
男は波瑠に近づき、麗しい仕草で一礼した。
「あの時は名も名乗らずに失礼しました。けれど、あのパーティーで出会えて、あなたの名が知れて良かった。」
「は、はあ…。ええと、当家に何の御用で?」
「勿論。あなたに婚約の申し入れをしに。」
波瑠はぽかんと口を開けた。婚約?わたしに?状況が分からずに困惑する波瑠に男はああ。と呟いた。
「失礼。自己紹介がまだでしたね。わたしは、工藤怜二と申します。どうぞ、お見知りおきを。」
そう言って、手を差し出す男の自己紹介を聞き、波瑠はその場で卒倒しそうになった。
―う、嘘でしょ!?こ、この人が…、工藤怜二!?そ、そんな…!
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