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どうせいと黒猫

ジャンル: 現実世界(恋愛) 作者: ノリィさん
目次

どうせいと黒猫2話

息苦しさを覚えて目を覚ますと、黒猫が私の胸の上でゴロゴロと喉を鳴らしていた。
なんだ、夢か…と思い、しかしこの息苦しさは確実にこの黒猫が発生源としか思えない。

ふと、天井を見るとそこはネカフェの天井でもなければ、実家のそれでも、センパイの家のそれでもないことに気付いた。

(どこ?ここ)

黒猫を退かして起き上がると、見たことのない部屋のベッドに寝ていて、横には見覚えのあるスーツケースが置かれていた。

(マジでここどこ?)

黒猫はドアの隙間から出て行き、向こう側でにゃーんと甘えた声で鳴いた。
すると、「あ、起きたー?」と言う女の声が聞こえ、同い年くらいのショートヘアの女性が部屋に入ってきた。

「えっ、えっ!?誰!?」と声をあげるが、自分の声は蚊の鳴くような覇気のなさだった。

女性はにこにこと穏やかにそして有無を言わさない勢いで
「私、ヒガシナカツキコ。
お風呂出来てるから入ってきちゃって!着替えは洗面所に置いておくから。玄関の横が洗面所とお風呂とトイレだから。とにかくさっぱりしてきて。」と、私を洗面所に連れて行った。


なし崩し的にしばらくぶりの湯船に浸かりつつ、必死に何でここにいるのか、ヒガシナカさんとは誰なのか考えて、そういえば、昨日、ビアンバーに行ったところから記憶が無いことに気付いた。

(お持ち帰りと言うやつをされたのだろうか?)
でも、ジャケット以外、お店に着ていったままの格好をしているし、風呂に入るまで髪も結ったままだ。


洗面所には新品のブラトップワンピースと、パッケージにコンビニのテープが貼られたショーツが用意されていて、迷った末にそれを着て風呂を出た。

(この人は何がしたい人なんだろう?私はどうしたら正解なんだろう?)


洗面所のドアを開けると、すごく美味しそうな匂いがした。
猛烈にお腹が空いた。

リビングに続くキッチンに立っていたヒガシナカさんが
「さっぱりしたー?
もう13時だよ。とりあえずごはんにしよう。うどんでいい?」 と、
やはり、有無を言わさない勢いでにこやかに言い、促されるままリビングで肉うどんを食べた。

というか、私は貪るように食べていたと思う。

私が食べ終わるとヒガシナカさんは「よかったー、めっちゃ痩せてるからごはん食べない人かと思ってたよー。安心したわー」と笑った。

確かに、洗面所で見た自分の顔はげっそりしていた。


「ねえ、昨日のこと覚えてる?」ヒガシナカさんが私の顔を覗きこんだ。
「二丁目のバーに行ったことは覚えてます。
あの、ここは何処なんですか?あなたは誰なんですか?」
さっきよりも自分の声に力がこもってることに安心して、疑問をぶつけた。

「ここは茨城県のつくば市で、あっ、ちょっと良いものがある。来て」
ヒガシナカさんがベランダに誘った。


風景から自分がそこそこの高層階に居ることが判った。
そして、目の前には何故かロケットが立っていた。

「ここはつくば市の駅前でね、あれはエキスポセンターってとこのロケット。その下のドームがプラネタリウム。
そこから少し先に見えるのがつくば駅。
秋葉原まで1時間弱で行けるし、1時間に数本東京駅までの高速バスも出てるから、地元に帰るなら駅まで送るよ。

でもさ、本当に帰って大丈夫?本当に帰りたい?」

ベランダからリビングにヒガシナカさんは戻り話を続けた。

私は昨夜、バーで泥酔し、都内で就活をしていたことと、上京するに至った地元での出来事を喋ったそうだ。
それに加え、私の激やせぶりを見たヒガシナカさんは私が拒食症なのではないかと思ったらしい。

実際はお金がなくて食費を削っていただけなんだけど、その姿が拒食症の末に亡くなった姉に重なり、放っておけなくて連れて帰ってしまったと言うことだった。

リビングのラグに差し向かって座り、真っ直ぐこちらを見つめて、ヒガシナカさんは話を続ける。
「拒食症は誤解って、うどん食べる姿を見てわかったよ。
摂食障害の人は他人に食事を見られるのもイヤって人も多いし、何よりあなたはちゃんと食欲あったしね。

今いる部屋は姉と一緒に住んでいた部屋だから、1部屋、さっきあなたが寝てた部屋は使ってないの。
でね、姫、あ、うちの猫の名前ね、この子持病があるんだけど、私、平日は夜の7時から夜中3時までバイトしてて看てあげられなくて。
ずっと起きてる必要はないし、ただこの子と一緒に居てくれたら安心なんだ。
だから、ちょっとの間ここに居てもらうことは出来ないかな?

あなたの地元の話を聞いてしまったから、私はあなたをそういう場所に帰すのは抵抗がある。
勿論強制はできないけど。

不安なら、私の携帯の番号も教えるし、なんなら免許証のコピーをとってもらっても構わない」

どう答えて言いかわからない。
とりあえず、私の地元で起こった出来事を私自身がかなり詳細に語ったと言うことは察しがついた。

確かに、地元には戻りたくない。
かといって、都内で働き口も見付からなかった。
他の場所にいくお金は無い。

沈黙のなか思案していると、ヒガシナカさんはこう切り出した。
「試しに1週間だけここにいてみない?」
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