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狂い咲き

ジャンル: 異世界(恋愛) 作者: saran
目次

消え行く世界

「・・・!お前のもか?!」


空牙は自分の傍に置かれている刀を、指差した。
やはり麗憐には、錆び付いた刀の一部分が見える。


「今朝の仕事をしている途中から、おかしくなった」

「何なんだよ、これ・・・。今までこんなことがあったか?

みんな・・・みんなそうなのか・・・?!」

「分からない。今は大半が寝てるか巡回かだ。

俺も頭がおかしくなったかと思ったけど、お前もそうならやっぱり何かあるんだな」

「あたいらにはわかんねー・・・ユノ様んとこに行くぞ!」






ユノとひなのは、十士郎からその"話"とやらを聞いた。





「ダメです、十士郎さん・・・!」

「そうは言えど、わしにはどうすることもできん」


ユノ様は私みたいにジタバタはしないで、何かを覚悟するような顔をしていた。


「ひなの、俺はお前との約束を果たせるようだ」



私、帰れるならすごく嬉しいはずなんだよ。なのに、今は・・・まだ帰りたくない。



そう、十士郎が言ったのは、そのことだった。


それにー・・・


ただ、帰るだけじゃない。



「人斬りの世界が消えるって、どういうことですか・・・!?」


「言ったろう、ひなのよ。愛は勝るべきなのだと・・・。
それが、この答えだ。


どうした・・・ユノは案外、随分と素直じゃないか」


「・・・俺は元々が無感情に支配されていた。

喜びや悲しみでもなければ・・・
怒りでも恨みでも、殺意でもない。


今はただ、愛は心地よいと感じるだけだ。



・・・だから、それが人斬りの運命であり、平和への道だというのなら・・・



それを、ひなのが望むなら」


「望まないよ!!

もちろん、平和な世界とか、誰も殺されない町とかは願いだけど!


私が帰ることだって、願いだけど・・・!



ユノ様に会えなくなることは願ってないっ・・・!!」



・・・十士郎さんは、人斬りの世界が消えると言った。

念で作り上げられた世界は、愛に飲まれて消えるのだと。

憎しみも、殺意すらも愛の前には消えてー・・・

もう"人斬り"が存在出来なくなるのだと。



元々、愛を宿した八龍の使い手、弥之亥十士郎は・・・
人斬りなどではなかったのだから・・・



「愛を持つ者は、人斬りには成りえん。

・・・私の願いは、この人斬りの世に愛が植えられることー・・・。




ひなの、君は平和を生み出そうとしているのだ」


そんな・・・そんなわけからないこと言わないでよっ・・・!

いきなりそんな話ってないよ!

ちゃんとー・・・もっとちゃんと説明してよ・・・!!



「私に止められる事ではない・・・」

「そんなっ!町が消えるなんて意味がわからないです!十士郎さん、私ユノ様と離れるなんてー・・・」



バタンッッ



「ユノ様!!」



両扉が開けられると、空牙と麗憐が飛び込んできた。


「お前達・・・」

「な、なんだ・・・?誰だ、この人は・・・

ユノ様、それよりあたいの東雲がっ・・・!」

「・・・!」


麗憐の相棒は、今や半分が、古びた刀に成り変わっていた。


「・・・俺の八龍も、時間の問題という事か・・・」


「ユノ様、何が起こってるんです・・・!?」


空牙も、わけが分からなそうだ。



「・・・もう止められん、な」


「ユノ様・・・?!」


「お前達・・・ジタバタするな」


そう言ったユノの瞳は、あまりにも凛としていた。


「その昔・・・念は刀に取り憑き、刀は妖刀となった・・・。



この人斬りの世界は、一体なんだったのか・・・?

無感情で支配していても、それは分からなかった・・・。
今となっては、実在しているものなのかどうなのか・・・


念とはなんだ・・・?


愛とは、何だろうか。


・・・俺達人斬りは・・・ちっぽけな愛に、飲まれるようだ」


「っ!?」

「ユノ様?何をおっしゃる!?お・・・お前!そこの男!ユノ様に何を言った・・・!?」

「私が見えるか。

・・・私の名は、弥之亥十士郎。人斬りの世の始まりだ。


今日は・・・終わりを告げに来た」



念だとか、愛だとか・・・
なんだか、話がぶっ飛んでるよね?
おかしいよね?

私には、分からないよ・・・!

分かりたくもないよ・・・!!




ユノ様が、大好きな・・・今となっては。

「もうじき、この町は消える。

ひなのよ、扉をくぐらねば帰れなくなるぞ」


「そんな事って・・・
急すぎます。そんなの、聞いてません」

「待てよ、あたいも聞いてねーぞ・・・

何だよ、消えるって・・・!?」

「この刀のことと関係がありそうな話だな・・・ユノ様、ご説明を!」



どれだけ説明を要求しようと、答えは変わらなかった。


もはや、ユノが言った通りー・・・
人斬りの世界の実在すらが疑われるようだ。


「わしらの時代に、無感情が愛に勝ることで、生まれたこの世界。
今、その逆のことが起ころうとしておる。それだけだ。何も、不思議ではない」

「・・・不思議でたまんねーだろ、そんなの・・・
期限付きの町なんて聞いたことないけど」

「ともかく、長く話す時間はそうないぞ。

わしも、ここにとどまる力はもうない。・・・ユノよ、後は頼むぞ」



十士郎さんが、薄れていく。

残された私達は、まるで抜け殻のようだった。
ユノ様だけが、覚悟を決めたようにしっかりとしている。


「ひなの、お前をお前の町に帰さねばならん」

「・・・ユノ様、嫌です。待ってください!」

「帰れなくなっても良いのか?」

「そ、それは・・・でも」

「ユノ様!平和町が消えるなんてことは、あたいは理解に苦しみます!
ユノ様は、本当にそんなことがあると思われますか・・・!?」


当然ながら、皆混乱している。

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