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狂い咲き

ジャンル: 異世界(恋愛) 作者: saran
目次

狙われし者

鬼優は、返り討つ気満々のようで、ひなのを後ろにさげたまま、立ち止まっている。


「・・・鬼、優」
「大丈夫ですよ」

ひなのが心配そうに鬼優を呼ぶが、鬼優の返事はその一言。



しかしー・・・

鬼優が村雨を振る前に、空気が変わった。男もそれに気づいたのか、数メートル先ではたと立ち止まった。



・・・これ、この感覚はー・・・!


流れる空気が、ツンと針を刺したように冷やされるー・・・


この空気は他でもない。


「ユノ様・・・!」

ひなのは鬼優の背中越しからでも、男の背後からやってくるユノを、しっかりと捉えた。


間違えようがないよ。だって、ユノ様と毎日一緒にいるんだから。
ユノ様がまとう、独特な冷たい空気もすぐに分かる。



「貴様か、城の一班まるごと潰したという奴は」


ユノ様が来たから、もう大丈夫だー・・・


「・・・?!お前は・・・!!」



しかし、ユノは男の背後で立ち止まると、その瞳に動揺が走った。

男の見えない刀が抜かれ、まるでスローモーションかのように、ユノの八龍と弾き合うー・・・


「・・・なぜ・・・!?」


ユノが動揺するのも当然。
目の前の男は、ユノの手に傷をつけた張本人。
そして、ユノがこの手で殺したはずの男ー・・・


「死んでいなかっただと・・・?」



男は無言だったが、不敵に笑うとユノに斬りかかっていく。


「ユノ様・・・!」

「ちょっとまずい感じだね・・・ひなのさん、ユノ様に任せて城へ行きましょう!」

「えっ・・・」




ひなのは、ユノの戦闘を初めて見た。
白い着物が、そしてユノの長い髪が暗闇に舞う。



ユノ様は最強だから、大丈夫。
そんなことは分かっているのに、置いていきたくなかった。
自分がいたところで、何も出来ないというのに・・・


「でもっ」


「鬼優、ひなのを頼む」
「はい」

鬼優はそんなユノの言葉に頷くと、渋るひなのをよそに、強くその手を引いた。


「抱えてでも連れて行きますよ。・・・走って、ひなのさん!ユノ様のご命令です!」

「ユノ様っ・・・」


嫌だっ・・・!
怪我しないで下さい・・・
心配なんか、かけないで下さい・・・!



ひなのは鬼優に引かれ、城へと走って行った。


これが、事件の始まりー・・・


鬼優とひなのは、城へと直行。

仕事真っ最中のこの時間は、城にはほぼ人がいなかった。


「・・・ユノ様が出ているから、人手が薄いですね。
僕は城に残った方がよさそうだな・・・

ひなのさんは、もう休みますか?
それとも、ユノ様の帰りを待ちますか?」

「待ちますっ」

「じゃあ、ユノ様の部屋をお借りしましょう。帰ってきたらすぐ分かります」


鬼優はひなのと共にユノの部屋へ向かうと、見張りで残っていた男と交代した。


「ユノ様のことです。すぐ戻りますよ」


心配そうなひなのに、鬼優は穏やかに微笑んだ。


「・・・うん、ありがとうございます」



しかしその穏やかな笑みが・・・ひどく強張っていたことに、ひなのは気がつかなかった・・・



「・・・ユノ様が戻る前に・・・
僕は、やらなきゃいけないことがあります」

「あ、そうなんでか?私、大丈夫ですよ。一人で待ってられるから」

「いや・・・そうもいかないんですよ」

「・・・?」



鬼優は声を落としたかと思うと、静かに腰にある鞘に手をかけた。


「・・・っ」

「鬼、優・・・?」


鬼優の握る刀が、突然ブルブルっと震え出したではないか。
まるでそれは、鬼優の意志ではないかのようだった。


なっ・・・何!?何事!?



「・・・僕は・・・

・・・!!このために耐えてきたんだ・・・!!」

「鬼優、どうしー・・・」

「!!」



「ぅわぁああ!!」


人が変わったかのように叫ぶ鬼優。妖刀村雨を引き抜ぬいた彼の力は、とても優しいものではなかった。
そしてー・・・

事もあろうことに


ひなのに斬りかかった。


あまりにも突然すぎる出来事ー・・・。
同じ日の今日、ひなのに斬りかかってきたユノ様野姿と、鬼優の姿が重なったー・・・



「鬼優!!」


まさかの出来事に仰天したひなのの絶叫が、部屋に響いた。


「・・・っ」


「・・・!」


「・・・!?」




長い沈黙があった。


ひなのの心臓の目の前で、その刃先はプルプルと停止したー・・・



・・・な・・・に・・・?


鬼優・・・?


やめて・・・?


何が起きてるの・・・!



村雨をひなのに向けた鬼優の顔は、見慣れないほど鋭いものであったが、蒼白だった。



「・・・くっ・・・」

「鬼優・・・!?」


鬼優は何かに耐えるかのように、震える妖刀を手に食いしばっている。


・・・やだよ・・・

どうしたの・・・!?



鬼優は額の隅に汗をにじませると、見たこともないような・・・


まるで、何かに怯えて苦しんでいるようなー・・・


そんな顔で、ひなのを見てきた。



ひなのはとっさに、村雨を握る鬼優の両手を、その上から握りしめた。



わからない。刃先を向けられているのは自分なのに、彼の顔がー・・・


助けを求めているような気がしたからだ。



「鬼優・・・?」


「くっ・・・!



や・・・めろ・・・


やめるんだ、【村雨】・・・!!」

ひなのが混乱しながら鬼優を見守る中、しばらくすると妖刀の震えはおさまり、鬼優はドサッと床に片足をついた。



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