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狂い咲き

ジャンル: 異世界(恋愛) 作者: saran
目次

ユノの後悔

ユノの部屋には、見たくもない血しぶきが飛んだ。


・・・痛いっ・・・


とっさに背中を向いたのか、背中に痛みを感じる。


・・・斬られた・・・



ひなのは倒れて凍りついたまま、顔を上げた。


しかし、斬られていたのはひなのだけではなかった。



ひなのの目の前で麗憐、その先で空牙もー・・・


・・・そんな・・・?!


どうして二人が・・・!






まるで、ひなのを庇ったかのように倒れているではないか。



その先にユノが一人、白い着物に返り血も浴びず、立っている。


ユノ様・・・なんで・・・っ


斬られた痛みと共に、ショックが襲う。


「空牙・・・麗憐、お前ら何してる・・・?」


一人知らない人斬りの男も、唖然として立ちすくむ。



痛々しい静寂。



最後に三人を見下ろすユノの顔を見てから、ひなのはショックと出血で気を失った。





最後のその瞬間、一瞬目があったユノ様の瞳は、なぜだか少し・・・




・・・怯えているかのようだった・・・




気のせい・・・かな。


ユノが刀を振り上げた直後の出来事は、こうだ。


凍りついて動けないひなのを、麗憐が咄嗟に突き飛ばした。
そして二人の前に空牙が滑り込んだが、リーチの長いユノの八龍は、見事に三人共々を斬りつけたー・・・


空牙と麗憐に庇われたひなのは、肩の部分を斬られ致命傷を避けた。


正面から斬られた空牙と麗憐は、当然意識を失っている。






・・・と、そんな感じだ。
同じく意識のないひなのは、その事をまだ知らない。




(・・・俺は・・・)


倒れた三人を運び出させると、ユノは部屋で一人、知らない感情に苛まれていた。



一瞬の殺気を通り越し、今や静かに部屋にいるのだったが・・・



(・・・何だか、気持ちが落ち着かん)




ユノは三人が倒れていた床を、黙って見つめたまま。


(・・・こんな風に、思ったことなどない。

斬った後に倒れる人間を見て、何かを思うなど。


・・・いや、違うな)



自問自答をすると、小さくかぶりを振った。



(そもそも斬った後に、斬った奴の事など見もしないんだ。


それが・・・なぜか、ひなのと目が合ったじゃないか。
俺は斬った奴の顔を、初めて見たのだ)


・・・つまり、この気持ちは何なのだろうかと、悩むユノは微動だにしないまま。



(目があったその顔が、脳裏から離れん。
ひなのの前に立ちはだかった、二人のことも・・・

何だ、これは。

俺は・・・




俺は、・・・斬ったことを・・・


・・・後悔していると・・・??)


(こんな気持ちは初めてだ。
後悔なのかどうかも、分からん。


だが一瞬の殺意が落ち着いた今ー・・・





死んでいなければいいと思っている)




ユノは自分の気持ちを自覚すると、部屋を出た。
自分でも、初めての気持ちに戸惑いを隠せないまま。





ひなのは、相変わらず目を閉じたまま。
隣に空牙と麗憐も寝かされている。

ここは、斬られた人を安置する場所。命が吹きかえらなければ、数日以内に髑髏沼という沼に、沈められるのだ。



扉が開けられ、暗い部屋に光が入る。


ユノと、ユノに引き連れられた人斬り二人分の足音。



「鬼優、ひなのの容体を見てくれ。
あと・・・空牙と麗憐もだ」


ユノに連れられて来たのは、数日前にひなのと初対面した、鬼優だ。


鬼優は三人の体をひっくり返しながら、ライトに当てて確認した。



「・・・どうだ?」

「うーん・・・はい、空牙はもう無理かもしれませんね。
麗憐とひなのさんは、治療を施せば何とかなりそうですが・・・

麗憐はともかく、ひなのさんは人間ですからね。
人間の女の子が、どの程度の傷で死ぬのか分からないんですが・・・


今なら、治療する価値はあるかと。



どうしますか?」

「・・・治療してくれ。すぐにだ」


「珍しいですね・・・というか、初めてですね。
ユノ様が斬った人の治療を依頼されるなんて」


鬼優は場所を変え、三人を見て回りながら、隣で見守るユノに話しかける。


「・・・あぁ、俺も自分が信じられん」

「そんなに大切ですか?このー・・・ひなのさん」

「・・・分からん。大切だと思ったことなどないのだが・・・

倒れた姿を見て、気持ちが落ち着かなくなった」

「八龍の、愛の力を持った人だからでは?
ひなのさんがいないとー・・・愛を教えてもらわないと、最強になれないですよね」



ユノも、当然その結論には辿り着いたのだが。
しかし、そういうものとも、何か違うと感じたのだ。


「それもあるだろうが、それだけでは無さそうでな。

・・・とにかく、ひなのが目を覚ませば、このわけの分からん気持ちも落ち着くはずだ」

「・・・」


鬼優は、三人の傷口に自分の血を数滴付けたり、両手をあてがりながらその言葉を聞いた。


「それにしてもユノ様、さすがですね。空牙の刀も真っ二つにして。
後で直す必要がありますよ、もしも空牙が無事だったらの話ですけど。

その上から返り血も浴びずに、三人諸共肉を切り裂くなんて。
骨までバラバラじゃないのが幸いです」



穏やかな話口調で残酷なことを言うのは、鬼優の癖なのか。


「・・・ひなのを斬ろうとしただけなのだが。
空牙と麗憐は、こいつの前に躍り出たんだ。


・・・こんな人斬りがいるか?


まるで人間のようだ。


・・・町に出て人間を斬ろうとすれば、その時側にいた家族や友人らしき者は、無謀なのに庇おうとする。


それと同じじゃないか・・・」


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