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狂い咲き

ジャンル: 異世界(恋愛) 作者: saran
目次

愛など簡単には伝わらない

昼前になり、仕度を終えたひなのは、城の入り口でユノを待っていた。


ユノ様が選んでくれた、白の羽織りを着てみたんだけど・・・ユノ様、気がついてくれるかな?



しかしユノが来るよりも先に、空牙と麗憐、そして鬼優という男が集合した。



「ひなのさん、早いですね」

「俺たちが遅れたんだよ、鬼優」

「ユノ様を襲った奴らを、調べ上げに行くんだぞ!気合い入れな!」



結構、メンツが異色な気がしてならない。

ところで、他の人斬りとは明らかに違う仕事をするこの三人は、ちょっと特別な存在なのかな?


「ねぇ、どうして麗憐たちがその仕事をするの?」

「どうしてってのは、どういう意味だ?
あたいら、何人かの人斬りを率いてる、班長達なんだよ。

ユノ様にも信用されてんだ」


麗憐の顔は誇らしげ。
昨日、ユノ様本人に、刀で斬られたっていうのに・・・
この人は、それを恨んでいないのかな・・・?
怖くもないの?そんなわけある?

それでも尚、今ユノ様を慕う顔してるなんて。


「班長は五人、それぞれ十人ずつの人斬りを管理してる。
城に仕える者たちをね」

空牙が加えて教えてくれた。


「ユノ様、遅いね。どうする、昨日みたいに皮膚が剥ぎ取られて、血管が切り刻まれてたら・・・


・・・あ、来た来た」



鬼優の、失礼な妄想を遮るかのように、ユノは優雅に扉から出てきた。



「待たせたな・・・行くぞ」

ひなのの期待通りと言うべきか、ユノは歩き出すとすぐに、ひなのの羽織りに目を留めた。



「・・・それは」
「あ、そう!そうなんです」


そう言うとユノは黙って頷き返したが、その真意は不明だ。
良いと思っているのか、似合わないと思っているのか。



するとユノは不意に、ひなのの背にスッと触れた。




なっ、なな何?!



「あぁ、思った通りだ。シルクは肌触りが良い」

「あ、そ、そうですか・・・」



・・・びっくりするよ!やめてよ本当!!


ひなのはバフンと鳴った心臓を、押さえつける。



「でもこれ、本当に柔らかくて涼しいです。日除けにもなるし」
「あぁ、そうだろうな」


・・・なんか、イマイチ反応が分からないな・・・
まぁ、すごい褒めてくれたり、すごいけなされるのも想像出来ないけどさ・・・



「ひなのさんも、着物を来ないんですね」


そう言った鬼優以外は、確かに皆着物だ。



「あ、はい。本当は、和柄の服も着ないです」

「そうですか~。僕が言うのもあれですが、着物も良いと思います」

「何言ってんだよ鬼優、こんなちっさいサイズの着物なんてねーよ!

子供用のハッピになるじゃないか」



何言ってんのよ、麗憐。私言っとくけどそこまでちっさくないから!
確かに、人斬りの人達はみんな大きいけど!



「ところで、ユノ様。少しは"愛"ってもんが分かったんですか?」


突如、空牙はユノにそんなことを尋ねる。


ちょっと待って、デリカシーなさすぎない?それを必死に頑張ってる、私がいるのに!!



「いや、何も分からんな」



・・・ほら、やっぱりね。


そうだと思った。


・・・そうだと、思ったよ?


そうなんだよ、この人は。
何したって、そんな簡単に愛なんて感じてくれやしないよ。



(これが愛ってもんなら、案外心地良いものだな)



ふと、昨日の麗憐の言葉が蘇る。



「・・・ごめん、なさい」


ひなのはどうすることもできず、とりあえず謝った。



・・・違う、違うよ。

私、まだそこまで一生懸命にできてない。
だって特に面白い会話もなく食事して、買い物付き合わせて、挙げ句の果てには怖くなって帰った・・・



何も、出来てないじゃん!
そんなんで、愛なんか伝わるわけないよ!



「ユノ様、あたいはこの女に少しだけだが教わったんです」

「・・・なんだと?・・・何故、俺には教えずに・・・!」


えっ、何か怒り始めた!



「ち、違います!私、ユノ様にもそうしていたつもりなんです!

でも・・・確かに、足りなかったですよね。
私がもっと、頑張らなきゃいけないのにごめんなさい。


今日こそ、少しでも感じてもらえるように、頑張りますね」




ひなのがそう言うと、ユノに突発的に湧いてきた情が、スッと静まった。
さすがは"無感情"だ。



・・・って、私何必死に説得してるんだろ。

でも、帰りたいし。


それに・・・


なんでだろう?

こんなにも心動かない人斬りがー・・・麗憐のように、少しでも動いてくれたことが嬉しくて。


だから、いつかこの人にもー・・・


ユノ様にも、笑ってみて欲しい。
というか、笑わせてみたいし、愛って心地良いなって言わせてみたい。


これはね、きっと私の意地だと思うんだ。


どうしようかな。
いきなり手をつないだり、体を寄せて歩いても、きっと愛なんか感じる人じゃないよね。

びっくりされて終わるか、ドン引きされるかー・・・



ひなのは一人で頭を振り、そんなナンセンスな考えを振り払う。







そんな風に頭を悩ませつつ町を歩きながら、色んな珍しいものが目に飛び込んでくる。



例えば、七色のソフトクリーム。


人斬りの町に、七色の可愛いソフトクリームなんて、似合わない!
でもすごい気になって、ずっと見てたら、麗憐が買ってきてくれた。



「なんかあいつ、どうしたの?ちょっと雰囲気変わったんじゃない」

「いや、いつもの麗憐だよ。僕朝一で怒鳴られたし、役立たず扱いされて広間に追い返されたよ」


一目散にソフトクリームを買いに行った麗憐に、空牙は少し驚いたようだった。


「ありがとう、麗憐!」


あっ・・・
そうだよ、これだよこれ。


「これも、愛ですよユノ様!麗憐が、これ買ってきてくれたことも」

「・・・何、これがか・・・?」

「はい!優しさです」

「やっぱりな!お前があたいの家に来た時、花を買ってきただろ?

それが、愛だと言っていた。だから、同じことをしてみたんだ。


・・・そうか、これが愛か。何となくわかった気がする」



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