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狂い咲き

ジャンル: 異世界(恋愛) 作者: saran
目次

ユノの部屋

「心配・・・か。なぜ、お前が俺の心配などするんだ」

「そりゃ、だって・・・帰ってこないから、何かあったんじゃないかとー・・・」




・・・。


・・・。

「・・・グゥ」


安心したからか、相当眠かったのか。

話の途中、ひなのはそのままクテッと倒れると、突然再び眠りだした。


「・・・!」


これには、ユノもびっくりだ。



(・・・!?話の途中に、寝る者がいるとは・・・)


「ハハッ・・・」



ひなのと会ってこの方、初めて声を出して笑ってしまった。



ひなのが起きていたら、きっと驚いた事だろう。


まだ、出会って二日目。

見えもしない程の変化かもしれない。
それはユノ自身も気づいておらず、ひなのも全くもって気づいてなどいない。



だがユノの中にある何かが、少しずつ変わっていた。

それが分かるのは、もう少しあとの話ー・・・。


「おーい。・・・おーい。もしもーし」



朝、ひたすら寝ているひなのを起こしに来たのは、ユノでも空牙でもない、知らない男だった。


「・・・起きないか・・・」



ユノよりも背が低く、空牙よりも幼い顔の彼は、サラサラとした水色がかった銀髪。



「・・・どうしようかな・・・」



男はだいぶ控えめな様で、起きないひなのを見て戸惑っている。



ガチャッ!!


「・・・あ、麗憐」
「遅いぞ、鬼優(きゆう)!ユノ様が待ってんだ早くしなッ!」
「・・・ごめん、でもこの子起きなくって・・・」
「どけっ」


後から登場した麗憐は、鬼優という男を押しのけると、ひなのの上半身を鷲掴んだ。


「コラァ、起きろ!!ひなの!!早くしやがれ!!」

「そ、そんなに揺らしたら内蔵が飛び散るよ・・・」



鬼優の恐ろしい発想虚しく、麗憐はひなのをバキバキに折らんばかりに揺らし、ものの数秒で起こすことに成功した。



「なだわやっ!!何?!何事?!」


訳のわからない言葉と共に、ひなのは飛び起きた。


「おせーよ、ひなの。朝食の時間だぞ?ユノ様がお呼びなんだ」

「れ、麗憐・・・?!あなた大丈夫なの・・・?」

「あ?あぁ、傷のことか?本調子じゃないが、歩けるようにはなった」



バケモノ並みのスピードで回復した麗憐を見て、ひなのは安堵のため息。
そして、ようやく焦点が合い始めた目で、初めましての男を確認した。



「・・・お、おはようございます。初めまして、弥之亥ひなのと言います」
「あ、うん。おはようございます、知ってます。僕は、眞田 鬼優(さなだ きゆう)です、お見知り置きを」



ペコペコとお互いお辞儀をしながら、何となくやんわりとした空気が流れ始めたが、麗憐がその空気をすかさずかち割る。


「いいから、早く行くぞ!
鬼優、てめーは用済みだ、さっさと広間に降りてろ」




ひなのはその後急いで着替えると、髪を手で梳かしながら、麗憐と部屋を飛び出した。



ついにあの広い和室で、大勢と食事をすることになってしまうのだ。

そう思っていたのだが、連れて行かれたのは別の場所。


最上階の、大きな両扉の前。


「ユノ様の部屋だ」
「え、私ここで食べるんですか?」
「そうだな。早く行ってきな、あたいは広間に行くよ」
「は、はい・・・」


麗憐もいてくれればいいのに・・・。

でも、昨日の今日で、さすがにそれも気まずいか。


ひなのは一応ノックをすると、そっと扉を開けた。


「おはようございます」
「あぁ。やっと起きたか」
「すみません、お待たせしちゃって」



そこは決して華美なわけではなく、しかし雅で豪華な部屋だった。



ワンルームにベッドも机も全て収まっていて、壁いっぱいの大きなガラス窓が、素敵だった。



「朝食だ。今日は日差しが強いから、北側のテラスではなく、ここでどうだ?」

「・・・はい、嬉しいです。

ユノ様の部屋ですか?すごく素敵」



窓の横には、大きな木造のテーブルがあって、二人分の朝食が並んでいる。


「わ、今日はフレンチトーストなんですね!オシャレ!」



朝日が心地よく、思ったよりも開放的な部屋に、ひなのの気分は良かった。


「昨日、ユノ様一瞬部屋に来ましたか?夢かな?・・・でも、ちゃんと帰ってきてるから、夢じゃないか」

「あぁ、行ったがー・・・

話しながら、お前が寝てしまったんだろう」

「えっ、やっぱり!いつの間にか朝だったから・・・」


全然、覚えてない。
でも恥ずかしいな、話しながら寝るって・・・とんだ失礼だし・・・。



そう思いつつ食事をしながら、ひなのはふとユノの手に目がいった。


「えっ、ユノ様その手・・・!」

綺麗な手の甲が、左だけえぐられたようになっていた。
血は止まっているが、出血していたことは明らかで、見ていられる怪我ではない。




なに、なんなのこの怪我!
治療した跡もなさそう・・・!



「あぁ、これか。

・・・昨晩のことだ。
俺に反対する奴らが、俺が人間を迎え入れたことで火がつき、各地でまぁ色々あってな・・・」

「・・・そんな・・・だから、ユノ様帰って来なかったんですね・・・

・・・ひどい傷です」

「それより、今日はお前を連れて行きたいところがある」



ユノは別段気にもしていなさそうに、話題を変えた。


「この人斬り住む平和町が誕生した・・・そもそも、妖刀の発祥地とも言われているところだ」


妖刀の、発祥地・・・?
今はユノ様の怪我もすごい気になるけど、それもすごい気になるかも!

だって私、何も知らずにここにいるんだから。
それに、八龍を操れる者とか言われて、それっきりで・・・



「しかし、今日は二人きりでは行けないことになった。


途中までだが、麗憐と空牙、鬼優という男と一緒だ。
昨日のことを調べさせねばならん」


「あ、そうなんですか。全然、私は大丈夫です」



・・・そうは言ったものの、そのメンバーで出かけたら、どうなるんだろ・・・



「そこに行けば、お前のルーツが分かるはずだ」

「・・・ルーツ?」

「出処と言えばいいのか、原点と言えばいいのかー・・・

お前の力についても、少しは分かるかもしれん」
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