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狂い咲き

ジャンル: 異世界(恋愛) 作者: saran
目次

麗憐の見舞い

そんなわけで、ひなのは空牙に連れられ、瓦屋根の一軒の家にたどり着いたわけなのだが。


ピンポーン・・・



インターホンを鳴らすが、しばらく待っても出てこのない。
空牙は仕方なしに、玄関を開けると勝手に入って行った。


「何しに来た・・・?!帰れ!!」



家にいた麗憐は布団から動けない様だったが、予想通りひなのを見て驚愕した叫びをあげる。


「空牙、お前ってやつは何を考えてるんだ!」

「俺じゃないから。この人が、来たいって言っただけ。
じゃ、俺帰るわ」



ひなのは意を決していた。

麗憐が動けないのをいいことに、黙って布団の横まで行き腰を下ろす。


「来るな!汚らわしい!!」
「傷はどうですか?」
「黙れ!何しに来たんだ!」

「・・・お見舞いに来ました。コレ、そこのお花屋さんで買ってきたの。

ここに、飾っときますね」



・・・何でこの人、いつもこんなに怒ってるんだろ。


・・・でも、ユノ様を見る目は違った。こんなんじゃ、なかった。


「あなたは、ユノ様が好きなんですね」



暗い部屋にランプだけが灯っている。とても静かだ。
いつの間にか、空牙は出て行っていた。



「なっ・・・何だって・・・?」

「あなた、ユノ様がお好きなんでしょう?

・・・だから、あんなことがあって、すごい辛いだろうと思って」



麗憐は、唖然とした様な顔で、ひなのを凝視してくる。


「ふ、ぶざけるな・・・慰めに来たとでも言うのか・・・!?

何なんだお前・・・!」


なんなんだろう?自分でも分からない。こんなひどいこと言われるのに。


でもね、何故かー・・・
人斬りの人って、みんな可哀想に見えるんだ・・・。


「教えて下さい。人斬りにも、愛ってあるんですか・・・?


昼間あなたを見て、思いました。


・・・私が、あなたなら良かったのに。そうしたらきっと、ユノ様に愛を教えるのも簡単だったかも」

「何だと・・・?」

「私、ユノ様に愛を教えないと、帰れないんです。

でもあの人は、本当に無感情で・・・


あなたの愛が、あの人に伝わればいいのに」



人間の女子はよく、恋話をする。
多分この世界に、そんなガールズトーク何て甘いものはない。


その予想はきっと当たってて、麗憐のは殺気を放つのをやめると、ポカンとして口をわずかに開けた。



「・・・お前、本当に何なんだ・・・?人間とは不思議だな・・・。




・・・あたいは、ユノ様を愛しているんじゃないさ。
慕っているだけだ。愛ではなく恋に近いかもしれんな」



あぁ、やっと普通に話してくれた。


「愛がなくても恋はできる。

あたいはユノ様に仕えるだけで十分だし、ユノ様が最強でいてくれればそれでいいんだ。


ユノ様が最高の場にいて、美しくあってくれればいい。

だからお前みたいな小娘が、うろちょろするのが目障りだったんだ」


・・・う、ん。なるほどね。結局私は悪者扱いだけど・・・
でも確かに、これは愛ではないかも。


「愛がなくても恋はできる・・・

その反対も、あると思いますか・・・?

恋する事がなくも、愛を示せるでしょうか・・・」

「なんだ、今度は相談か?」

「そんなんじゃないけど・・・!」


そんなんじゃ、ないけどさ。


「あたいにだって、愛なんか分からないさ。愛された記憶も、愛したこともない。

ただ、ユノ様は堂々と凛とした姿で、あたい達に命令を下さるしー・・・

部下達は従順に、あたいに従ってくる。


それが愛じゃなくても、あたいにとってそれは感情の源だ」



・・・なんかこの人、案外難しいこと言うな・・・
ただ、キレっぽいだけの乱暴な人じゃないみたい。


「わ、私も正直愛って何って聞かれたら、分からないんですけど。

でも、こうやってあなたの事を訪ねてきたりとか、お花選んだりとかー・・・


一応、これは愛を形にしたつもりなんです」



麗憐はキレイな長い瞳を細めると、ひなのがそばに置いた花束を見つめた。


「・・・そうか、これが愛か・・・」



こんな感じで、伝わるのかな?
普通に友達や家族にすることで、この人達に伝わるの?


何をしたら、ユノ様に伝わるの・・・。


なんか、もう既に挫折しそうだよ。


「これが愛と言うなら、案外心地いいものだな」


「えっ」


挫折しそうな矢先の、その一言。
ひなのはびっくりして、非常にアホ面で顔を上げてしまった。



「え、本当に?」
「何だ、その顔は」
「本当に、本当にそう思いました?」
「・・・あたい達にとっちゃ、珍しいんだよ。こんなことされること自体が」



・・・良かった・・・
人斬りの人達にも、ちょっとは伝わるんだ・・・



「人間共は、あたい達にとっちゃ非常識だ。

夜、お前達の町に出るたびに、汚らわしい悪い姿をたくさん見てきた。


・・・人斬りはな・・・


妖刀の力を溜めるために、人を斬るんだ。
正確に言えば、人を斬ることで"念"とか"感情"とか・・・
そういうものが、力となって妖刀に吸い取られる。



我々にとっちゃ、妖刀は命だ。
お前達人間を斬ることで、あたい達が生きているわけだ」



麗憐は突然、人斬りについて説明し始めた。


「えっと・・・」


えー、私はその斬られる側の人間なわけで。
そんな事言われちゃうと、何て言えばいいのか分からないじゃん。



「でも、私たちは斬られたら困るわけで」

「そんな事はわかっている。だから、あたい達と人間は相容れない関係なんだ。


だが、お前の事情も分かった。
ユノ様に愛とやらを教えてくれるならー・・・

それでユノ様の望みが叶うなら、あたいはそれを全力で応援してやろう」



わ、この人初めて笑った。


赤い唇、色素の薄いキレイな瞳。
すごく美人で、妖魅な感じだ。



「・・・私、弥之亥ひなのと言います」



とりあえず、自己紹介ね。


「ひなのか。・・・あたいの名は麗憐、妖刀は東雲(シノノメ)だ」



友達になろうなんて、高望みはしてないよ。
でも、すごく嬉しかったんだ。
こんな風に、女性の人斬りと話ができて、自己紹介もできてー・・・



この恐ろしい世界で、"怖くない人"を増やしていく事は、私にとってすごく重要だと思うから。
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