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狂い咲き

ジャンル: 異世界(恋愛) 作者: saran
目次

人斬りと呼ばれる者たち

「ユノ様、こんな女に触れてはなりません!」



・・・あぁ、やばい!

とっさに、そう思った。押してはいけない爆弾スイッチを、この女は押してしまった気がしたのだ。



「麗憐・・・」



それだけ呟いたユノの声に、もはや感情はなかった。
ひなのは反射的に目を閉じて耳も塞いだ。



皮膚がピリピリするような、冷気がその場を覆い隠すー・・・


・・・


・・・



たったの5秒くらいが、何分にも相当して感じられた。




・・・やってしまった気がする。




しばらくして薄眼を開けると、ユノの目の前には、赤い着物の麗憐が哀れに倒れていた。



その下の土が、赤く染まっていくその様もー・・・

ひなのの目には酷すぎた。




・・・嘘でしょ・・・!!




「さぁ、立て。行くぞ」



・・・これが・・・人斬り・・・!!




ひなのはその後何も言葉も出ず、瞬きすら忘れて、されるがままにユノに連れられ歩かされた。



「本当に・・・」
「どうした?」



しかし、しばらくして、ひなのの足は動かなくなる。


「ほ・・・本当に、簡単に殺してしまうのね・・・!あなた達って・・・!」



震えが止まらない。一瞬の殺気、倒れた麗憐、地面の血痕ー・・・


「今のは、殺してはいない。そのうち起き上がるはずだ」

「嘘でしょう・・・!?あんなに血が出ていたのに、起き上がれるわけない・・・!」



殺してないの一言に、ほっとさせられたが、そういう問題ではないのだ。



「俺に逆らうような者は、斬られる運命だ。皆それを分かって生きている。

あいつも、それを分かっていたはずだ」




愛も何もないよ、こんな人に・・・。

せっかく、怖くないと思えてきたのに。


こんな場面に遭遇するだなんて・・・



「もういいです。今日はもう、どこも行きたくない。帰りましょう」



怒ってる?悲しい?怖い?


どれが今の感情なのか、ひなのにも分からなかった。だけど今は、これ以上この人とどこにも行きたくない。



ユノはなぜひなのがそんなことを言うのか、本当に何も分からないような顔だった。



「・・・もう買い物はすんだのか?」

「済みました、もういいです!」



やだ、なんか泣きそう。


「そうか。・・・なら、戻って昼食にしよう」


ユノは何事も無かったかのようだったが、帰る途中もひなのは、ずっと倒れた麗憐の姿が頭から消えなかった。


ひなのが城に閉じこもっている頃、巡回に出ていた空牙は、たまたま倒れている麗憐を発見。



「あれぇ、麗憐。君みたいな人が斬られるなんて、よっぽどだな」


麗憐は意識があるようなないようなで、覗き込んでくる空牙を見つめた。


「あ、生きてたんだ。どうする?城まで運んでやるか?」

「・・・・・・い」

「ん?」

「・・・いい」



(城へなど、戻れるわけがないじゃないか。
ユノ様がいる、城へなどー・・・)



「あ、そう。じゃ、このままでいい?」
「・・・」



いいと言えば、この男は本当に、あっさりと去っていくだろう。


「・・・家・・・に」
「何?・・・家まで運べばいいの?」
「・・・た・・・のむ」



しょうがないなぁといいながら、麗憐を抱え上げる空牙。
ぐったりとしたその体に付いた血が、空牙の紺色の着物に、見えないように染みていった。


「で、誰にやられたわけ?」
「・・・」

「傷相当深いよ、見た感じ。よく生きてるよね」
「・・・ユノ様・・・に」
「えっ、マジで言ってんの?ユノ様が?・・・そうかぁ、本当よく生きてるな」


「・・・はっ。・・・あたいの・・・妖刀の力・・・なめんなよ・・・」

「あぁ、"強靭(きょうじん)"だっけ?本当ぴったりだ」




空牙はそのまま麗憐を自宅へと運び、夕飯前に帰宅したところを・・・
今、夕飯を食べようとするひなのに捕まった。


ひなのはユノと共に夕飯を食べる気にはならなかったが、幸いユノは夜間巡回に出るらしく、夜には戻ると言って出て行った。



・・・はぁ、良かった。
私を優先するっていうから、ずっといるのかと思った。
そうだよね、全く仕事しないってことは無いよね。



それでもひなのは大広間で食事をするのも嫌で、空牙を誘って北側のテラスへ行くことにしたのだ。



「ふーん、俺ここで飯食うのは初めてだな」

「・・・はぁ。なんか疲れちゃった」


なんだろう、空牙といる方が断然気が楽だ。
歳が近いからか、何も害を与えられていないからか。



「今日ね・・・麗憐って人が、ユノ様に斬られちゃったの・・・」

「あー、うん。らしいね」
「知ってるの?」
「巡回中に遭遇してさ。家まで送ったよ」
「本当?!良かったぁ・・・!大丈夫だった・・・?」
「大丈夫、大丈夫あいつは」



・・・はぁ。やだな、本当。
こんな世界にいつまでいなきゃならないんだろう。



「で、ユノ様からちょっと聞いたけど君、愛を教えるまで帰らないんだって?」


"帰らない"ではなく、"帰れない"の間違い!
と、ひなのは心の中で突っ込む。


「まぁ、頑張ってよ」
「他人事なんだから・・・!だいたい、あなたがいなければ、私こんな事にならなかったんだから!」

「うん、知ってるけどさ。だから応援してるんじゃん。頑張ってって」



ひなのは今日何度目かの、ため息をついた。


「・・・ねぇ、麗憐って人の家、教えて欲しいんだけど」
「え、なんで?」
「お見舞いに行きたいの」
「・・・へぇ、物好きだなぁ。人斬りの町で、斬られたやつの見舞いなんて初めて聞いたよ」


空牙は心底不思議そうに、ひなのを凝視してきた。

「嫌なことされたし、あの人に会うのは正直怖いよ。
でも、目の前であんなに血だらけになって・・・

それにあの人、ユノ様のことすごい慕ってるみたいだった。
そんな人に斬られるなんて、いくらなんでも苦しいに決まってるよ」


「ユノ様が斬った理由は、だいたい想像つく。君が行ってどうすんの?事を荒立てて終わりそうなんだけど」



そうだけど・・・。


「お願い、今しか行けないから」

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