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『あなたになる私の犯行』

ジャンル: ホラー 作者: 渚
目次

第3話

金村と名乗る男の優しさと、昔から知っている友人のような独特な安心感を感じていた浩平は、金村に連れられて警察庁の最上階という一般市民では絶対に入る事が出来ないだろう場所へと連れてこられた。

「ここからは防犯上、申し訳ないが目隠しをしてくれないか?」

「金村さん?・・・新人巡査とはいえ、最高機密のような場所に行くのですからしょうがないですよね。わかりました。お願いします。」

目隠しをすることを納得した浩平は、子供のように金村に手を引かれながら長い長い廊下を抜け、エレベーターに乗り込んだ。警察庁の最上階という場所は、つい最近まで一般市民と変わらない生活を送っていた浩平には想像も付かない場所である。延々と動くエレベーターの中で、浩平は金村に手を繋がれたままだった。

(金村さんて、手が冷たいんだな。きっと冷え性なんだろうなぁ。デスクワークが多いと俺も冷え性とかなっていくのかな・・・)

少し違和感を感じる程に金村の手は冷たかった。しかし、浩平は昔極度の冷え性だった彼女と付き合っていたこともあり、手の冷たさにはあまり興味を持たなかった。それよりも、警察庁の最上階でこれからいったい何があるというのか、その不安だけが浩平の頭の中をぐるぐると廻っていた。

数十秒間動いたエレベーターが止まり、出入り口の扉が開いたようだ。浩平は目隠しをされたまま、金村に手を引かれ、また長い長い廊下を歩いて行った。

――コンコン

「失礼致します。」

「し、しつれいしま~す・・・・・・

何処かの部屋に着いたようだ。金村のキリッとした挨拶は違い、弱々しい小さな声での浩平は、初めて家に連れてこられた子犬のようになっていた。浩平は、目隠しのまま金村に言われるまま椅子に座らされた。そしてやっと目隠しを外されたと思ったが、浩平が目を開けるとそこは辺り一面真っ暗で、金村の姿も何処にあるのかわからない程だった。こんな暗い部屋の中でどうやってこの椅子まで歩いて来たのだろうと疑問も多かったが、とりあえず何もわからないままだった浩平は椅子に座っていることしか出来なかった。

「金村さん?金村さーん?」

真っ暗な中で怖じ気づいた浩平は、辺りを見回しながら小さな声で金村を探した。しかし、返答はなく、暗闇のままだった。浩平は辺りをキョロキョロしている内になんとなく暗闇の中が薄らだったが見えるようになってきた。すると目の前5mくらいだろうか、なんとなく誰かいるような気配があったと感じると、そこから70を越えるくらいだろうか老人の声が聞こえてきた。

「良く来てくれたね鈴木浩平君。君はまだ入ったばかりの新人巡査ということで間違いないかね?」

「はい。そうです。」

「君は、この土地で生まれ育った。間違いないかね?」

「はい。生まれも育ちもずっとこのT県M市です。今は実家を出て一人暮らしをしていますが、実家まで歩いて30分程度なので一人暮らしと言えるかどうか。ハハハ・・・」

「そうかそうか・・・君はずっとこの土地に住む鈴木浩平君で間違いないようだな。」

目の前にいる誰かに質問されているが、浩平には何故その質問をされているのかよくわからない。それよりも、さっきの公園に隠されるようにあった遺体のことや昨日の信じられない殺人事件について色々聞きたい浩平だったが、何故かさっきまで気になっていたはずの事件のことを聞くことが出来なかった。それどころか、真っ暗闇という空間に見知らぬ声だけが聞こえてくるという状況に懐かしさや居心地の良さという違和感を感じていた。

浩平は、おもちゃ売り場で目を輝かせる子供のように周りの暗闇をキョロキョロと見回していると、ガーーーという自動カーテンが動く音がし、目の前にいる誰かの後ろが段々と陽の光が差し込んできた。

眩しく最初は目が開けられなかった浩平も、次第に明るさに慣れてくる。ゆっくりと眩しい光の方を見ると、浩平の目の前には警察学校時代に写真で見たことのある顔や、テレビで見たことあるような顔がずらりと並んでいたが、それもそのはず。浩平の目の前で座っている人物達は、警察庁長官や警視総監。さらには防衛庁長官など国を守る為に存在する組織のトップ達だったのだ。

改めて場違いな場所へ来てしまったと感じた浩平の体は全身寒気と鳥肌まみれになり、止まらない冷や汗が額から床へ落ちるだけでなく、脇なども汗でぐっしょりと湿っている。

「どうしたんだい?やはりこれだけの人間に囲まれると落ち着かないようだね。少しお茶でも飲んで落ち着くと良いよ。」

そういって金村から手渡されたお茶を浩平は一気に飲み干したが、状況はあまり変わらなかった。ただ失った水分を吸収しただけで、その水分も次から次へと冷や汗となって体から放出されていく。

やれやれといった表情の金村は、浩平の目の前にいる錚々たる面々の横へ言った。すると、一番中心で座る老人改め、警察庁長官が浩平をまっすぐ見ながら話し始めた。

「君が、何故ここに来たか。その意味は理解出来ているかね?」

「い、いいえ。わ、私には、な、何故ここにいるのか、理解出来ていません。」

「ハハハ。そう堅くなることはないよ。しかし、これだけのメンバーを前に緊張する方が難しいか。では話を変えよう。君は、何を目撃したのか覚えているかね?」

「はい・・・そ、それは・・・異常とも言える殺事件の犯行現場でしょうか」

「他には?」

「は、はい・・・あとは・・・その殺人事件に関する被害者の遺体を発見したということでしょうか・・・」

「まぁ、そういうことなんだが。それで、こんな所につれてこられた理由になると思うかね?」

「え?それはどういうことでしょうか?」

「君は、今回の事件について何か知っている、もしくは聞いたことがあるかね?」

「え?いいあ、何も・・・そういえば、噂で理解出来ない殺人事件が起こっているらしいという話を少し耳にしました。」

「誰からとは聞かないでおこう。きっとその人物に悪気はないだろうし、本当に噂でしか聞いていないだろうからな。で、その噂話とはどういった内容なのかね?」

「噂では、死んだはずの被害者が実は生きていて、遺体発見から1週間するともう一度死んでしまうという内容でした。ですが、人間が二度死ぬなんて自分でも信じられず、都市伝説的なものだろうと思っていました。」

「そうだね。そんな事件があったら世間は大騒ぎだ。ニュースでも連日取り上げられることだろう。だが、そんな事実はない。」

「はい・・・・・・」

「ところで、金村君が連れてきたということは、君はその事件現場を見たのかね?」

「・・・・・・はい・・・・・・ですが、自分でも何がなんだかわからず、どう説明してよいのかも分かりません。ただ、人が死んでいるのか生きているのか・・・」

「君が見たのはどっちだい?」

「どっちというのは?」

「殺人の現場を見たのか。それとも、被害者の遺体を見たのかということだよ。」

「・・・はい・・・(ゴクリ)」

浩平はからからになった喉で微かに残った唾を飲み込んだ。きっとこの話が終わる頃には、自分も殺されるのではないかという恐怖を感じていた。まだ質問が始まって数分程度だが、浩平には半時間も拷問を受け続けているかのような苦痛で吐きそうになっていた。時折込み上げてくる胃酸を無理矢理飲み込むと、喉が焼けるようになり胃酸特有の苦みと異臭が口や鼻を抜けていく。

「どうしたのかね?私たちは君に何かをする気はないから安心したまえ。

質問にもどろう。さっきの話だが、君はどっちを目撃したのかね?」

「は、はい・・・自分は・・・殺人事件の現場を見てしまいました。ですが、ですがあれは偶然で、本当に偶然目の前で信じられない光景を見ただけで、自分は何も出来ず隠れていただけです!だから・・・だから・・・」

「まぁまぁ。そう慌てることはない。見てしまったんだね。そうかそうか・・・」

その後数十秒の沈黙が続き、生きた心地がせず冷や汗も止まらない浩平は、微動だにできない椅子の上でずっと小さく震えていた。

「ところで・・・」

「は、はい!!」

「悪いね。大丈夫だから。

浩平君。君は今日その殺人事件があった現場で遺体を見たんだろう?その遺体に見覚えはなかったのかい?」

「いや。遺体に見覚えは・・・」

浩平は恐ろしい記憶として葬り去りたい昨日と今日の出来事だったが、よくよく思い出していくとあることに気がついた。それは、さっき公園で発見した遺体は、昨日殺人を犯していた女性の顔と一致していた。だが、昨日は昆虫の蛹から出てきた時に男の姿になっていたはず。そういえば、あの女性の体は何処にいったのだろうと事件を思いだしいながら浩平は首を傾げた。

「やはり、見覚えがあるんだね?」

「はい・・・確か昨日の殺人をした方の女性と同じ顔だったと思います。」

「そう。君はこの事件の両方を目撃しているのだよ。わかってきたいんじゃないか?」

「え・・・いや・・・自分は・・・」

「そう混乱することはない。久しぶりのことで頭が追いついていないということだろうから。」

「え?何を言っているのですか?自分はこんな事件初めてです。それに以前同じ事件に遭遇していたら多分忘れないと思いますし・・・」

浩平は目の前にいる警察庁長官の顔をまともに見ることは出来なかったが、それよりも久しぶりと言われたことが引っかかっていた。

「浩平君。君は、その事件を見た時、何か感じなかったかい?」

「いえ・・・恐怖しか・・・」

「そうか。それは仕方がないことだ。では、コレを見てくれないか?」

警察庁長官が立ち上がると同時に、横に座っていた錚々たる面々も立ち上がると体をうねうねとくねらせた。すると、国のトップとされている人物達の体は首から下の胴体が段々と一枚の布ようにひらひらとし始めた。その姿はまさに昨日目の当たりにした殺人事件を起こし男の体を喰らった女性の姿そのものだった。

「う、うわーーーーーー!」

驚いた浩平は、叫び声をあげながら座っていた椅子ごと後ろに勢いよく倒れた。絶対に自分も殺されると思った浩平はその場で小さく蹲り震えている。しかし、異星人や怪物のような見た目となった彼らは浩平を襲うことなく、ゆっくりと体を元の形へと戻していった。

そして、小さくなった浩平に向けて語られる警察庁長官の口調を変えず優しく話しかけてきた。

「君が驚くことは無理はない。しかし、君にも知っていて欲しいのだよ。我々は、最初から地球人なんだ。」

どうみてもバケモノにしか見えない彼らの話を、浩平は蹲りながら聞いている。

「我々は、地球人の元素とも言える人種で、今の地球上で生きている人型地球人が本当は宇宙から移住してきた地球外生命なのだよ。信じられないかもしれないが、これは本当のことなのだよ。彼らが住みやすいように地球上の空気濃度を調整すると、我々の殆どが死滅していった。なんとか現在の地球上を覆っている空気成分に順応出来た種族だけが生き残りとして今でも細々と暮らしている。しかし、どうしてもこの空間では長い時間生存する事が出来ないのだよ。だから彼ら、人型地球人の体を乗っ取り肉体を維持していかなくてはならない。そして、我々元素地球人類がこのことを公にされると完全に滅ぼされてしまう。だからこうして国のトップという形をとり、医療技術を急速に発展させなんとか生命を維持できる環境を整えている。我々も特殊な薬がなくては1週間しか生きることができない。これは生存本能としてしょうがないことなんだ。理解してくれるかい?」

「ど、どうして自分にそんな話をするのですか?」

警察庁長官として座っている人物は周りと目を合わせ、力強く頷くとゆっくりとまた話始めた。

「君がここに呼ばれた理由は、一つ。君も我々と同じだからだよ。」

「え?だって自分は今まで普通に人間として生きてきました。それに人間を喰ったこともないし、20年以上この体で生きてきました。」

「そう、そこなんだよ。君は我々元素人類の中でも唯一幼児期の肉体を摂取したんだ。地球外生命体の肉体は幼児期から成人になるまでとても長い年月を必要とする。だからこそ我々は今まで大人の体を乗っ取り続けてきた。しかし君は違う。君はその体を乳幼児の段階で手に入れている。しかしそのせいか、元素人類としての記憶もなくしてしまっているようだ。このことが分かったのは君が警察官の試験を受けたときだ。試験前に警察病院で健康診断を受けてもらったと思うが、その時に行った血液検査で判明した。我々も驚き、是非とも君を手元に置いて色々と話を聞きたいと思っていたのだよ。」

「・・・・・・・・・」

「どうか我々に協力してくれないだろうか?」

「いや・・・でも・・・だって・・・俺は人間で・・・」

「驚くこともしょうがない。しかし、我々の進化の課程では君の存在が必須事項なのだよ。どうか理解してくれないだろうか?」

「だって・・・俺は普通の人間で・・・」

「そろそろ聞いてくる頃です。浩平君。君の自分体を見てみるといい。」

ずっと黙ったままの金村が近づき、小さく蹲ったままの浩平にそっと話しかけてきた。浩平は恐怖で顔を上げる事も出来ず、堅く目を瞑ったままだった。しかし、金村の優しい声に応えるようにゆっくりと目をあけ自分の腹を見た。すると、自分の体が昨日の殺人犯や長官達と同じようにひらひらの体に変わっていたのだ。

「う、うわーーーーー!!なんだ?なんだこれ!俺の体が!俺の体が!!

わ、わーーーー、わーーーーーー!!」

しかし、驚く浩平の意思とは関係なく、その体はゆっくりといつもの見慣れた体へと変化していった。

「これで分かったもらえただろうか。君も我々と同じ人種なのだということが。」

「いや・・・え?・・・・いや・・・あれ?・・・俺の体が・・・俺の体が・・・」

「混乱しているところ申し訳ないが、君が昨日目の当たりにした犯人は我々が追っている裏切り者なのだよ。そいつは犯罪を起こしてしまった元素人類を収容する為の特殊監獄がから逃げ出した逃走犯なのだ。元素人類である君にも協力してもらえると色々と助かるのだが、どうだろう。協力してもらえないだろうか?」

「自分は・・・自分は・・・」

浩平は自分の体に起こった異変にばかり意識がいってしまい、長官や周りの声が全く入ってこなかった。そんな浩平を見ながら長官以外の彼らはため息や首を横にふったり、やはりという声が次々に漏れ出していた。

「そうか・・・君はダメか。金村。浩平君をあそこへ連れて行ってくれ。」

「長官!ですが、彼は大事な・・・」

「いや、こいつは使い物にならんようだ。存在価値のない人材は違う活用に期待するしかないのだよ。」

「そうですか・・・わかりました。」

金村は浩平の肩を優しくそっと叩くと、そのまま浩平の両手に手錠を掛けた。

「え?金村さん!なんですかこれは?」

「君の存在価値が下がったと言うことだ。まぁ君の精神状態ならしょうがないが、これから君の肉体は我々の研究材料として使用させてもらうよ。我々も、人型人類同様に少しでも長生きしたいと思っているのだから。」

金村は優しい表情のまま、人間とは思えないほどの怪力で浩平を拘束し部屋から出て行った。

「やはりダメだったか。解剖室で彼の肉体は我々の研究として生きていくだろう。だが、検証対象はまだまだたくさんいるさ。彼のように乳幼児の肉体を搾取した存在はいないが、幼児期の肉体を搾取し今でも生存出来ている元素人類はたくさんいるのだから。」

「それもそうだな。“鈴木”という名字の人型人類はたくさんいるのだ。我々の先祖が金属と木材を冷却しながら融合したことから“鈴木”という名を元素として用いるようになりすでに数千年の月が経った。これだけの目印があるのだから、まだ交渉対象や実験対象を探せばいいだけの話か。」



ここは警察庁の地下150階。最上階とはかけ離れた地中深くで元素人類の研究は日々秘密裏に進められているのである。
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