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王子さまはお家騒動から逃げ出したい。

ジャンル: 異世界(恋愛) 作者: 中野安樹
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王子さまはお家騒動から逃げ出したい。

きらびやかな装飾と華やかなレディたち。豪華絢爛といえば聞こえはいいが、単なる見せびらかしだ。品性にかける。わが父ながら、情けない。妻である母はかろうじて、センスはあるものの極端に豪華なものを嫌う傾向が強く、ささやかなお茶会向きといったところだ。


長々と失礼した。何が言いたいのかというと、毎回の催し物やパーティーは、政治の席にかかせないものだということだ。


今日は俺の3回目のお見合いパーティーが開かれている。どの国の令嬢も美しく、父の好みドストライク。自分の側室も探しているのではないかと思ってしまうほどだ。自国の令嬢とて同じ。どの娘も品性があり、おしとやか見目麗しく見える。

「父上の好みで集めたような布陣だな」

幼少の頃からの側近であり、友人のナリウスに話しかけると不服そうに片眉寄せた。ナリウスが、片眉を寄せるのはイラついている証拠だ。本人も気が付いている癖なのだから、わざとらしく誇張しているのかも、しれない。

「お言葉ですが、ラインバルト」

深いため息は、相当にご立腹とみた。

ゴホンと、わざとらしく咳払いをして一気に不満を語り始めた。

「私は、先日も申し上げたはずです。好みの異性をリストアップしてほしいと再三。それはもう、うんざりするとおっしゃるほどだった、と記憶しております。それから、私はリストアップしてもらえないときの対処の話もしましたよね」

にこり、目元涼しげで見目のよく優しい人物の笑顔がこんなにも恐ろしいと誰が、思うだろうか。いや、優しいのだと思い込んでいただけなのかもしれない。

「失礼のないように、お兄さまがたの目に留まる人物にすると申し上げたはずです」

ご令嬢たちは、短い花婿探しの期間を、わざわざ遠くから出向いてくれたのだ。どなたも全く収穫がないとなったら、恐ろしい。しかも、もう、3回目なのだ。そろそろ、婚約辺りまでこぎ着けなくても誰かに声をかけねばなるまい。

「しかし、でもな」

どいつもこいつも、勢力争いの均衡を崩しかねない相手ばかりだ。今の王室のことを思うと、迂闊に誰にも話しかけられない。

「……、わかってて選んでいるお前のたちの悪さを非難してるんだ」

「はて、さて?なんのことやら」

意地悪く、ニヤリと笑って見せた顔が憎らしい。かじりついてやりたくなるほどだ。

「あなたのお相手ごときで、政治が揺らぐとでもお思いですか?第3王子など、誰が肩入れなどするものですか」

やれやれと、つれないため息をつくナリウスにもの申したい。そうじゃないんだと。いや、違う。均衡を保っているがゆえに、自分まで派閥争いの火種にされることが許せないのだ。兄たちのように要職につくこともなく、のんびり過ごしたいと思う一方で、己の力だけで羽ばたいてみたいとも思う。だがこのままだと、何者にもなれずどこにもいけず、ただかごのなかで過ごす鳥だ。冗談じゃない。「ひとつだけ」

ひとつだけ、方法があります。ナリウスが小さく、か細い声でささやいた。危うく聞き漏らすところだった。ゾクリとすくんだところで、クスリとナリウスがほくそ笑む。

「まったく、あなたといい人は」

最後の方はうまく聞き取れなかったが、どうせいつもの嫌味なのだろう。聞かぬが華というやつだ。

「おはなをつみにまいります」

は?な、なんだそこの声は?気色の悪い裏声なんぞ、だしおって。

「私、少しだけ失礼しますわね。あの、こちらでお待ちになってくださいますか?」

トイレに行くなら、堂々と言えばよいものを。しかも、大きな声で、気色の悪い裏声でいうとは、全く。これのどこが秘策だというのだろうか。しかも、こんな物陰で、ひっそりしておかなければならない理由がわからない。ブツブツとナリウスへの不満を呟いていると、やたら背の高い大女がこちらにやってきた。

「お待たせいたしまして、申し訳ありません。ラインバルト殿下」

「……?」

「兄がいつもお世話になっております。先ほどは失礼しました。私、クラリアと申します。」

いささか、ゴツい見た目に反して淑女らしくしおらしい仕草に目を奪われた。ふくよかな胸の、いやそんなには大きくないか。美しい、故紙のラインはさすが一級品のドレスといったところか。装飾品も美しい品々ばかりだ。

「まぁ、どうされましたの」

コロコロと、鈴をならすように笑ったあと、急に顔を近づけてくる。

「おい、なにぼさっとしてんだ。早く、さっさとお茶会にでも誘えよ」

小声なのに、ドスが効いたその声は聞き覚えがある。慣れ親しんだ、ナリウスの声そのものだ。兄妹というものはここまで……。

「まさか、本当に私の妹と勘違いしていらっしゃるのではないでしょうね」

美しいラインの眉が片方、怒れるナリウスと同じ形になった。

「えっ?おま?まさ、か?マジで?」

裏返った声はどうか許してほしい。

おもいっきり、大柄なレディこと、ナリウスに足をヒールで踏みつけられるまで、信じることができなかった。容赦ない足裁きが、重いドレスで身動きがとれない、淑女の動きとは全く違う。俊敏なそれはまさしく、ナリウスそのものだった。


悔しかったのは間違いない。チラリと名案が頭をよぎる。だから、イタズラ心従ってやろう。意地悪い思いつきを賛同したのか、月だけが楽しそうにかがやいていた。

【つづく】
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