ネット喫茶.com

オリジナル小説や二次創作、エッセイ等、自由に投稿できるサイトです。

メニュー

ローを牢屋敷から助けたのは誰でしょう?

原作: ONE PIECE 作者: 茶木代とら
目次

その三 キャベンディッシュの場合

ここはワノ国花の都羅刹町。花魁の葬儀と康イエの処刑が引き起こした混乱がいまだに冷め止まぬ中、秘かに牢屋敷に侵入したものがあった。
それは、白馬のキャベンディッシュであった。

キャベンディッシュは、誰にも気付かれずにトラファルガー・ローが閉じ込められている牢屋に近付いた。拷問から少しの間解放されたローは目を閉じていた。眠っているのかもしれない。
キャベンディッシュは牢の前に立って小さな声で呟いた。

「トラファルガー・ロー…、君はまた帽子が脱げたのか…」
「…?」

その声でローは目を開いた。しばらく視界がぼんやりとしていたが、やがてキャベンディッシュの姿を確認することができた。

「キャベンディッシュ…お前がどうしてここに…」
「自殺願望は聞き入れられないって言ったろう?それとも無鉄砲なだけなのかい?」

キャベンディッシュはわずかに微笑んでいるように見えた。それに、この口ぶりはローを助けに来たかのように聞こえる。
しかし、キャベンディッシュはこう続けた。

「麦わらのルフィとは、また少し違った感じの無鉄砲さ…。いつもは冷静で抜け目がないくせに、時に麦わら以上に不器用で一直線になる。そのくせ平和な時にはちょっと天然というキャラクターが、読者から絶大な支持を得ている。ぼくはそれが気に食わない…」

「…何を言ってるんだ?!」

ローはキャベンディッシュの物言いに腹を立てたが、内心少し焦っていた。
以前、キャベンディッシュは「最悪の世代」が自分よりも世間の注目を集めているからという理由でローに剣を向けたことがあった。もしかしたら、今回も同じ理由でローの首を取りに来たのかもしれない。
ローはホーキンス達によって海楼石の鎖で繋がれている。今攻撃されたら、助かることはできないだろう。

「それから…」

キャベンディッシュはわずかに眉間に皺を寄せて、いまいまし気に呟いた。

「君のその帽子…。その帽子は、戦闘や敵から暴行を受けるたびに脱げるんだよ…。そしてその都度、読者が反応する。あたかも、女子が暑い時に上着を脱いで半袖のシャツだけになっただけで男子がドキドキするが如くにね。もしかして、君もそれを分かってて、わざと帽子をポロリと落としているのかい?」

「いや、別にそういう訳じゃあ…」

キャベンディッシュは鋭い視線をローに向けた。その瞳にひそむ殺気に、ローは恐怖を抱いた。

「その髪型も妙に女心をくすぐるのかもな…。初期の頃の君は、ちょっとひねくれた感じのキャラクターだった。当時予想されていた髪型は、丸刈りとかドレッドヘアとかモヒカンとかクルクルパーマヘアとかだったが、パンクハザード編で帽子が脱げて、意外にもごくスタンダードな髪型であることが判明した。そのギャップが良かったのと、主人公の麦わらのルフィとちょっと似ていて、しかも主人公の青年版を思わせるような髪型が、主人公支持の読者(つまり老若男女問わず多くの読者)の心を無意識のうちにつかんだと言えなくもないような気がする。一時期はルフィの実の兄ではないかという説も生まれたし…」

「…」

キャベンディッシュは冷酷な表情でローを見下ろしていた。

「でも一番はね…、君はイケメンだからか、帽子が脱げると変にかわいらしいんだよ…。気絶するか眠るかしてて、目をつぶってる時は余計に…」

「…(こ、怖え…)」

ローは湧きあがる恐怖を押し殺した。顔が青ざめて膝が震えてくるが、悟られないように必死でこらえた。

「ぼくも髪型を変えてみようかとも思ったけど、この髪型も含めてぼくのキャラクターは既に確立されているし…」

「…」

「または、ぼくも敵に捕まって拷問を受けて、傷だらけになればいいのかもしれないと思った。でも困ったことに、君と違ってぼくは剣の天才だから強いし、無鉄砲でもないから敵の罠に自分から飛び込むようなこともないし…。ぼくはクールな頭脳派だからね。君と違って…」

話しの内容が自画自賛の方向に傾くにつれ、キャベンディッシュの目から殺気が消えつつあった。

(良かった…。このままコイツの機嫌が直れば助かるかもしれねえ…)

ローは一縷の望みを見た気がした。
しかし、キャベンディッシュはローの胸の内をずばりと言い当てた。

「君、今ぼくをおだてれば助かるとか考えなかったかい?」
(ううっ!)

ローは秘かに覚悟した。しかし、キャベンディッシュはさっきとはコロリと態度を変えた。

「まあいい。ぼくがここに来たのは、君を助けるためだ」

キャベンディッシュはバラを弄びながら話した。

「君をお姫様抱っこしただけで驚くほどの反響があった。危機に陥った君を助ければ、ぼくの人気はさらに高まるに違いない。これがぼくの陰謀だ。手枷の鍵を外してあげよう。…さあ、手を出せ」

(手を切られるかもしれねえ…。だが、逆らう勇気はおれにはねえ…)

ローは恐怖を押し殺して、キャベンディッシュに手を差し出した。ローの不安とは裏腹に、何事もなく手枷の鍵が外された。

「おれを逃がす事がお前の陰謀なら…、乗ってやるよ(し、死ぬかと思ったぜ…)」

「覚えておくがいい。現時点で君の出番が保障されているのはワノ国編までだが、ぼくは何年後かに派手に再登場することがすでに決まっている」

この少し後、ローとキャベンディッシュは、半分にちょん切られたホーキンスを残して牢屋敷から立ち去った。
目次

※会員登録するとコメントが書き込める様になります。