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世界にただ二人だけ

原作: その他 (原作:Axis powers ヘタリア) 作者: 鮭とば
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世界にただ二人だけ

 夜明け前の町の中心地、まだ薄暗い中でも鮮やかな花が咲き乱れる噴水に近付いたアーサーは、そっと水面に手をかざした。
「頼む。応えてくれないか?」
 ほぼ吐息の呼びかけに、水面が揺らめく。波紋が次々と現れるその中心に親指ぐらいの大きさのクリスタルを一つ落とせば水が大きく跳ね、魚の形になった。空中でくるりと回った魚は、そのままアーサーの胸元へダイブして、消えていった。
「…これでよしっと。さて、後一仕事だな」
 ポツリと囁いた言葉が消える前に、アーサーの姿は忽然とその場から掻き消えた。


 リンゴン、リンゴン、リンゴン
「はい。何でしょう…」
「あの双子ここに来ていない!?」
 折角直したばかりのチャイムを壊さんとばかりに連打され、菊が慌ててドアを開ければ、町の住人達が我先にと叫び始めた。
「双子って、アル君とマシュー君のことですか?うちには来ていませんが、どうしたんですか?」
「本当にか!?」
「嘘言ってないでしょうね!?」
「最近ここに入り浸っているって聞いているのよっ!」
 尻尾を逆立てながら言及してくる声に眉を顰めたアーサーが前に出ようとするのを阻止して、菊はおっとり笑って半歩下がった。
「確かにここへ来てからまだ浅い私達が来ていないと言っても納得しにくいですよね。どうぞ、どこでもご確認下さい」
 その言葉が終わるや否やドッと家探しをし始めた町人達に菊はついていき、アーサーの監視でもしたいのか残った数人にアーサーは不機嫌を隠さずに睨み据えた。
「あいつの言う通り俺らはここに来てまだ浅いから信用がないのも頷ける。が、まだ朝の八時から押し掛けるなんざ、マナーがなってねぇな」
「そ、それは悪いとは思うが、これは一刻も争う事態なんだ!」
「どういう事態なんだよ」
「……このままじゃあ噴水の花が枯れちまうかもしれねぇんだ」
「あの噴水の花がどうして双子ちゃんがいないだけで枯れてしまうのですか?」
「……」
 家の捜索が終わったのか、肩を落とした町人達と戻って来た菊が首を傾げる。グッと黙り込んだ町人達の姿に、深く息を吐いてアーサーが今度こそ菊の前に立った。
「言えばいいじゃねぇか。あの双子の家系がお前らにとって良い金蔓の元だってな」
「「「!?」」」
 町人達の反応にニイ、と口の端を上げ、更に続ける。
「隣の町に行った時聞いたぜ?この町にどんな怪我でも治す薬があるってな」
「だ、誰がそれを!?」
「お。本当にそういうタイプの花だったか」
「っ!」
「で、噴水の花が季節を無視して一年中咲き乱れるのはあの噴水の持ち主である家系が何か術を持っているからで、しかもこの村を離れたら枯れてしまう、とか伝わってんじゃねぇか?」
「な、何でアンタがそこまで知ってるんだよ!」
 …大丈夫かこの町の住人達。
 噴水の主に聞いたり聞き込みでほぼ確信はあるが決定的な証拠も確証もちゃんとは得ていないというのに、ここまで簡単に認めるとは。まあ言葉で誤魔化そうにも尻尾と耳の反応で分かるとは思っていたが、少々肩透かしだ。少し気が抜けたアーサーに、町人達が反論する。
「アンタの言っていることはほぼあっているが、一つだけ違う!俺らはあの子達を良い金蔓なんて思ってねぇ!大事な町の仲間だって」
「だまらっしゃい!!」
 菊の大声に、町人達が飛びあがった。
「あの子達はここに来る度外のことを聞きたがっていました。どんな話やお菓子を食べている時よりも明確に瞳が輝いていたことも見てきました。たった数週しかまだここにいない私が気付けたんです。それよりもっと長くこの町にいたあなた達は分かっていたでしょうに、花を枯らさない為だと外に一切出さなかった。それで『大事な町の仲間』だなんて、冗談も程々にして下さい!それに、本当に伝承はあっているのでしょうか?現に今、噴水の花は枯れていますか?」
 ほら、さっさと確認してきなさい!と追い出され、慌てて走っていく町人達を見送り、アーサーがそっと指を振った。
「出ておいて」
 キラキラと星が空間を舞った途端、双子が突如現れた。
「わお!凄いんだぞ!!」
「本当に町の人達に僕達見えてなかったんだね!!」
 キャッキャとはしゃぐ双子の頭を、菊が優しく撫でた。
「これでもうあなた達は自由ですよ」
「…でも、僕達は本当はここにいたし、すぐ枯れるとは限らないから…」
「そもそもお前たちがいようといまいと枯れねぇよ」
「「え?」」
 アーサーにも撫でられた双子が目を丸くする。
「俺が噴水の精霊…ゴホン。調べた所、あの噴水を作ったのはお前らの祖先ってのはあってるが、花が一年中咲くのはあそこの土に魔力が籠っているせいだ。別にお前らに花を維持する力はねぇ。どうせ変に昔話が転がってそう伝わったんだろう」
「だからもうどこにでも行けるんですよ」
「……本当に、かい?」
「ま、暫くは枯れねぇってあの町人達が分かるまではここにいることになるがな」
「それでも嬉しいんだぞ!ありがとう!」
「ありがとうございます、だよ、アル!」
 満面の笑みで飛び上がって喜ぶ双子に、アーサーと菊も笑みを浮かべた。


「じゃ、行くぞ」
「はい…。うう、折角内装整ったばかりなのに」
 そっと家の裏口から音もなく抜け出し、アーサーと菊はまだ暗い道を町の外へと歩き出した。
 あの騒動から一週間。昨日双子を町へ帰した二人は、双子に平謝りする町人達と笑顔で許していた双子の姿に胸をなでおろして、この町を去ることに決めた。
「俺達が目立った騒動は起こしてねぇが、隠すためとはいえあの双子に俺が魔法をかけちゃったしな。尻尾捕まれるより先に出た方がいい」
「仕事も終えましたもんね」
「ああ。俺らが求めるものはこの付近にもないようだ。取りあえず一回あの情報屋をぶん殴りに戻るか?菊」
「はい。流石に私も一発入れたいです。行きましょうか、アーサーさん」
「へぇ。本当はアーサーとキクって言うんだね?」
 背後から聞こえて来た声に、にっこりと微笑み合っていた二人が固まる。ギギギ、と振り返れば、旅装束を着こんだ双子が愛らしい笑みを浮かべていた。
「な、ななななな……!?」
「君達猫族じゃないんだろ?みんなは猫耳あるって言ってたけどね」
「僕達には猫耳見えてなかったので…」
「はぁ!?」
 あっさり魔法を見破られていたことに大声を上げるアーサーの口を咄嗟に塞いで、やっぱり猫耳&尻尾作れば良かったか、と菊が唸る。
「…それは置いといて、どうしてアル君とマシュー君がここにいるんですか?」
「君達がこの町を出てくんじゃないかってマシューが言ってさ」
「ついていこうってアルが言い出したんです」
 まさかの発言に、アーサーも菊も顔色を真っ青に染め上げる。
「つ、ついてくるんですか!?」
「それは危ねぇからやめとけ!」
「やなんだぞ!もし連れて行ってくれないなら、君達が【人間】だって言いふらしちゃうんだぞ!」
「「そこまでいつ気付いたんだ(ですか)!?」
「……君達、よく今まで大丈夫だったね」
「流石に心配するレベルだね…」
 町人達をもう笑えまい、と地面に突っ伏すアーサーと菊に、双子は呆れたように肩を竦めた。
「ま、これからは俺達がいるから大丈夫なんだぞ!」
「そうだね、アル。だって僕達」
「「“神秘の双子”だもんね」」
「それただの伝承ミスだろうがっ!」
「けど君の魔法?っていうのは効かなかったし、俺達あの町で一番耳も良かったんだぞ!」
「何せ二人が来たのに最初に気付いたの、僕達だったので」
「じゃああの新聞の元はお前らかよ!」
「アーサーさん!とりあえずちょっとボリューム下げましょう!!ね、ね!?」

 こうして、アーサーと菊の旅に加わったアルフレッドとマシューが、この先も長い付き合いになることを、まだ誰も知らないまま四人の旅路が始まったのであった。
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