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神様はアタシの胸に

ジャンル: ロー・ファンタジー 作者: 山科
目次

第34話

エピローグ

 あれから、1週間が過ぎた。
「ふぁぁーあ」
 大きな欠伸をしながら、あたしは学校までの道のりを、少しずつ消化していた。

 『モザイク化計画』は無事阻止することができ、奈々子は二度とそんなことはしないと誓ってくれた。
 守護部隊に言おうか悩んだけど、結局、あたしは言わなかった。
 友達としてそれは正しいのかわからないけど、あたしは、間違いだとは思ってない。
 現在は仲良くなり、頻繁にメールのやり取りをしている。と言っても、奈々子から送ってくることが9割だけど。
 なんでも、奈々子は世界中の不幸な子供たちを救うために、活動することを決めたらしい。
 そして、なんと奈々子の姉から連絡があったらしいのだ。
 姉が奈々子の前からいなくなったのは、奈々子が住んでいた親戚が、邪魔だからと遠く離れた孤児院に無理やり入れたらしい。
 それを聞いた奈々子は、姉と和解。
 今は、ちょっとばかりぎくしゃくしているらしいけど、一緒に暮らし始めたとのこと。
 今まで不幸だった分、幸福が一気に押し寄せたのですわ、と、奈々子は歓喜している。
 ちなみに、奴隷となっていた人間たちは、今は普通に暮らしている。
 奴隷時の記憶は持っていないそうな。
 それも、一つの幸福だろう。
 余談だが、『モザイク化計画』という言葉の意味は、『ウイルスにかかってしまうと、モザイク処理をしなければいけなくなるほど発狂する』ということからきているらしい。
 ホント、くだらないウイルスだと思う。

 『モザイク化計画』の影響を受けていた翔平太や他の犠牲者も、奈々子が作ったワクチンにより回復。全員が後遺症もなく退院したらしい。
 植物人間になっていた智は、意識は取り戻したもののまだ入院している。
 奴隷たちとの戦闘で怪我をしたアダムも、智と同じ病院に入院していた。
 奈々子と一緒に二人のお見舞いに行ったとき、奈々子は、二人に何度も謝っていた。
 智は、そんな奈々子を見て、
「さっすが飛鳥だね。あんなに冷徹だったこの人を、ここまで変えるなんて」
 と。
 アダムは、
「ならば、お詫びに私のナニを見て下さい。そうすれば、許してあげばしょぐらっ!?」
 と、あたしに殴られながら言っていた。

 そんなわけで、あたしのここ数週間の非日常は、こうして日常へと戻っていた。
 一時休校となっていた学校も再開され、少し憂鬱な気分になっている。
「…………」
 隣を歩く翔平太に視線を移す。
 それでも、こうして翔平太と一緒に登校できるっていうのは久しぶりのことなので、嬉しいといった気持ちも、ないこともない。
「なに? どうしたの、お姉ちゃん?」
 あたしの視線に気が付いたのか、尋ねてくる翔平太。
「……なんでもないさ」
 翔平太が無事でよかった、などと思いつつ、あたしと翔平太は、それぞれの学校への分かれ道へと差し掛かった。
「お、お姉ちゃん、ぼくやだよ! せっかく治ったのに、またお姉ちゃんと離れ離れになるなんて!」
「…………」
「お、お姉ちゃん!」
「…………」
「おーねーえーちゃーんー!」
 泣き喚く翔平太を無視して、学校へと向かう。
 これは、あたしと翔平太の日課だった。
 それでも、こうしていつもの日常を送っているんだなと思うと、少し顔が緩んでしまう。
 ちょっと、気持ち悪い娘だな、あたし。
「お、飛鳥!」
「……涼太か」
 後ろから声が聞こえてきたので、振り返ってみると、そこには涼太の姿があった。
「……どうも」
 その隣には、涼太の神様、リグレットの姿もある。
 リグレットは、前回の戦闘で力を使いすぎたため、当分は涼太と、というより、ペンダントと同化できないらしい。
 同様に、能力も使えないとのこと。
 現在は、人間の姿で涼太と同棲生活中とか。
「……どうしました? 私の顔に、何か付いていますか?」
「……いや、なにも」
「……そうですか。もしかして、涼太と同棲生活中な私が気に入らないから、睨んでいたのではないかと思ってしまいました」
「なっ――」
「ホントか飛鳥!?」
 食いついてくる涼太。
 ええい! 顔をあたしに近づけるな!
「焼きもち? ひょっとして、焼きもちなのか?」
「そ、そんなわけないだろっ!」
「な、なんだ……ちょっと、がっかり」
「ん? 後半聞こえなかったんだけど」
「いや、なんでもない」
「…………」
「痛いっ! ちょっ!? 痛いよリグレット! なんで足を踏むんだよっ!」
「……涼太の、ばーか」
「……なんで怒っているんですか? リグレットさん?」
「……知らない。私は、先に行く」
 すたすたと、あたしたちを置いて歩き始めるリグレット。
 リグレットは、あたしたちが通う学校へ転校してきたことになっていた。
 『炎髪灼眼の美少女転校生』というのが、転校初日にリグレットにつけられた肩書きのようなもの。
 なんというか……ねえ?
「……俺たちも行くか」
「……ああ」
 あたしたちは肩を並べ、リグレットの後を追うように歩き出す。
「…………」
「? どした? 悩みごとか?」
「……いや、なんでも」
 涼太にはそう答えたが、あたしは、少しだけ、さっきリグレットに言われたことが気になっていた。
 たしかに、あたしはリグレットにが涼太と同棲するって聞いたときに、何とも言えない気分に襲われた。
 それは、嫉妬に近い感情――って、んなわけない!
 焼きもち? あたしが涼太に?
 あるわけないっしょ!
 そうだ! 幼馴染み兼悪友の涼太に、あたしより先に彼女ができることに怒っていたんだ!
 なんだ。そうかそうか。
『うむうむ。青春じゃのう』
 あたしがそんなことを考えていると、不意におっぱいが揺れた。
「揺れるな喋るな気絶しろ」
『……飛鳥、酷いのじゃ』
 『モザイク化計画』を阻止したはずなのに、シャルはあたしの元を去らなかった。
 なんでも、最初にあたしがシャルとした『契約』とやらは、『こちらの世界に来ている、『絶対神』に反乱を起こした神様全てを捕らえるまで協力すること』だったらしい。
 要するに、騙されたのだ、あたしは。
 シャル曰く、「それに、飛鳥のおっぱいは居心地がいいからな。当分は離れたくない」とのことらしいが……こっちにしたら、いい迷惑だ。
「……はぁ」
 あたしの非日常は、日常へと戻りつつある。
 それでも、また神様とやらが現れたら、あたしは非日常に巻き込まれるわけで。
 少し勘弁してほしい。
「……しばらくは、あたしの平穏無事な生活は戻ってきそうにないな……」
「おう? なにか言ったか、飛鳥?」
「……はぁー」
 涼太の質問に答えるかのように、あたしは盛大なため息をついた。



《終わり》

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