ネット喫茶.com

オリジナル小説や二次創作、エッセイ等、自由に投稿できるサイトです。

メニュー

君主な彼女と軍師公明

ジャンル: 現実世界(恋愛) 作者: 山科
目次

第42話

「冠隊、私に続け!」
 声を上げ、冠は兵士の半分を連れて駆け足で校門から外に出る。
 冠が率いるのは、織館高校の生徒の中でも特に運動神経のいい人間を集めた主力部隊。そして、囮でもある。
「伝令!」
 冠隊が出てから数分後、校舎から一人の生徒が現れた。
「どうした?」
「はい! 山中高校の主力部隊が校舎を発ちました。その数、およそ150! 指揮は生徒会長、土田光宙であります!」
「進軍経路は?」
「はい! 街道を直進しております!」
「わかった。竹中隊も出る、と参謀本部に伝えてくれ」
「はっ!」
 駆け去っていく伝令。それを見送る間もなく、俺は全軍に号令を発した。
「竹中隊、出るぞ!」


「前方より敵進軍中! その数およそ150! 総指揮は生徒会長、土田光宙です!」
 山中高校へと続く街道の入り口。そこでアタイは、兵とともに待機していた。
 竹中からの指示で、伝令が来るまで待機となっていたからだ。
 その伝令も、たった今到着した。
「ご苦労様。少し休んだ後で、冠隊が敵軍に突撃します、と後ろにいる竹中隊に伝えてください」
「はい!」
 言って、伝令は市街地の方へと駆け去っていく。
 馬車馬のように働け、と心の中で呟きながら、アタイは愛用しているナイフと小太刀を構える。
「(ったく、なんでアタイが囮なんだよ)」
 竹中孔明の作戦は、アタイが囮となって敵軍と戦闘した後、機を見て退却。追撃してきた敵軍に伏兵が襲いかかり、それとともに冠隊も転進、敵大将首を取ることだけを考えるというもの。
 囮となり、敵軍と真っ向からぶつかるアタイの隊は、運動神経が良い人間だけで編成した織館高校の主力部隊とでも言うべきもの。
 だからといって、敵との戦力差は4倍。しのぎ切れるか心配ではある。
 あの馬鹿に他に策はなかったのかと訊ねたいところだが、まあ劉華ちゃんが竹中孔明を信じろというので、文句は言わない。勝機がないわけではないからな。
「(っし、行くか!)」
 伝令が来てから少し経った。敵軍はすぐ近くまで進軍しているはずだ。
「冠隊、行きますわよ」
『『『『『『『 はいっ! 』』』』』』』
 背後にいる兵に告げる。兵たちは大きく返事をすると、各々が選んだ武器を構えた。なかなかの闘志が伝わってくる。
 アタイが走り出すと、兵たちも後をついてくる。あまりスピードを出し過ぎるとついてこれるだろけど敵軍とぶつかるころに体力がなくなってしまうので、適度なスピードで。
「っ! あれか……」
 少し街道を進んだところで、前方に人の群れが見えた。ご丁寧に、群の中に何本か旗があった。旗印は、『山』。間違いなく、山中高校の軍勢だろう。
「全軍停止。街道を塞ぐように展開しなさい」
 兵に指示を飛ばす。一応、昨日簡単な訓練をしたので、迷うことなく指示に従ってくれる。
「織館高校の軍か?」
 敵軍の先頭にいる男が、大声で問いかけてくる。
「そうですわ。ここから先へは進ませません」
 武器を構え、戦闘態勢をとる。すると、男は高らかに笑い始めた。
「あっはっはっは! その程度の数でか? お前、馬鹿なんじゃないか?」
「…………」
 挑発に乗るな。不用意な怒りは、冷静さを失う。
「ビビッて声も出んか? はっはっは! 織館高校の生徒はクズばかりだな!」
 途端、敵兵が哄笑する。くだらない。この程度で大笑いとは、頭わいてんじゃねえの?
『……野郎っ!』
『ぶっ殺すっ!』
『犯してやるっ!』
『それはアウトだろ!』
 兵たちは敵の挑発に耐え切れなかったのか、今にも突撃してしまいそうな雰囲気だ。
 仕方がない。本当なら、もう少し口で粘って、あの馬鹿が兵を伏せる時間を稼ぎたかったが……。
「冠隊、武器を構えなさい!」
「お? やる気か? わが軍総勢300と。戦力に10倍も差があるではないか」
「くだらない。嘘もまともにつけないのですね、山中高校の生徒会長は」
「……なんだと?」
「ま、山の中にあるサル専用の学校の長ですから、所詮はその程度でしょうけど。まさにサル山の対象ですわね」
「……貴様、今なんて言った?」
「耳まで悪いんですの? ブサイクで知能も低くて童貞で、尚且つ耳も悪い。救いようのないクズですね。クズ」
「……ふはは! 殺す!」
「……やっすい男だな」
「……っ! クソがァ!」
「冠隊、構え! 織館高校のために、皆のために、楽しき日々のために、その死力を尽くして戦え! 自身ではなく、隣にいる友を守れ! さすれば友が守ってくれるぞ!」
「圧倒的数、圧倒的力で殺しつくせ!」

「「 全軍、突撃! 」」

『『『『『『『 おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっッ!! 』』』』』』』

 突撃。
 敵も味方も、目の前にいる相手を倒すために敵へと突撃する。
 アタイは、味方の士気を上げるため、そして敵の士気を下げるために、先頭に立って敵軍へと突っ込んだ。
「らぁっ!」
 敵が突き出してきた槍を小太刀で受け流し、ナイフによって一撃を加える。
「ぐう!」
 だが、シールド発生装置にはなにも変化がなかった。てことは、まだダメージが足りないということなんだろう。
「はぁっ!」
 アタイは、槍を足で踏みつけた後、小太刀による斬撃を加える。
『シールド残量が0になりました。討死です』
 敵の防具から流れる、機械音声。
 どうやら、これでコイツはゲームオーバー。退場となったようだ。
「一番槍、織館高校所属、冠美羽っ!!」
 高らかに宣言する。途端、味方からは鬨が上がった。
「さあ、次だ!」
目次

※会員登録するとコメントが書き込める様になります。