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君主な彼女と軍師公明

ジャンル: 現実世界(恋愛) 作者: 山科
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第31話

 まあ、今回は確かに司馬のおかげってところもあるから、まあいっか。
「よし、じゃあ帰るか。喜多村ー、帰るぞー」
 イヤホンを付けているため、少し大きめの声で呼びかける。
 すると喜多村は、イヤホンをはずして、受信機をポケットにしまった。
「ん。大丈夫、聞こえてるよ。それじゃあ帰ろうか。このままだと、五限目どころか六限目まで欠席扱いになってしまうよ」
「六限目……?」
 もしやと思い、携帯電話を開く。ディスプレイに表示されている時計は、たしかに『13:35』となっている。
「げ、もうこんな時間だったのか」
「うん。楽しい時間が経つのは早いものだね」
 くすくすと笑う喜多村。はたしてこれは楽しい時間だったのだろうかという疑問が浮かんだけど、言わないことにしておく。
 そんなこんなで、俺たちは織館高校へと帰っていった。

◇ ◇ ◇ ◇

 俺たちが織館高校に着いたのは、五限目の授業が半分ほど終わった頃だった。
「じゃあ、僕は早速流言飛語の準備にかかるよ」
「おう。頼む」
 校門で別れ、喜多村は昇降口の中へ、俺と司馬は駐輪場へと向かう。
「ところで孔明」
「おう?」
 サイクロンマグナムを止めていると、司馬が話しかけてきた。なんだよ。
「そろそろ、貴様の策とやら、聞かせてくれてもいいのでは?」
「んー、まあ、いいか」
 もう仕上げの段階だし。司馬は十分役に立ってくれたし。
 というわけで、今回の作戦の内容を全て司馬に話す。
「なるほどな……流石は我がライバル」
「お褒めに預かり光栄ですよ」
 誰がライバルなんだよ、とは思っても口にはしない。面倒くさいことになりそうだし。
「これは、本当に……」
「ん? なんか言ったか司馬?」
「いや、なんでもないぞ。さ、教室に行こうではないか」
「? ああ」
 駐輪場を後にして、一年一組の教室へと向かう。授業途中で入室するのにはためらいがあったが、しようがないだろう。
 入室時に皆の視線が集まったが、それ以外は普通に五限目の授業を受ける。
 授業が終わると、喜多村からメールが。

【件名】報告
【本文】流言飛語、完了。

 随分と短いメールだけど、内容は十分理解できた。
 後は、この流言が放課後までに校内中に広がることを願うだけだ。
 そう思っていると、急にクラスメイトたちがやけに騒がしくなってきた。

『おい、聞いたかよ』
『あん? どした? ついにお前の好きな子に彼氏ができたか?』
『ちっげえよ! あの娘は一生処女だよ! そうじゃなくて、山中高校のこと』
『山中高校? なんかあったのか?』
『いや、俺も今聞いたばっかなんだけどさ、これ聞いてくれよ』
『あん? どれ?』
『落ち着けって、再生するぞ』

《は、話が違うじゃないか! 寝返りは受け入れるって!》
《受け入れるか! あれは織館の連中を簡単につぶすための計略だ! だいたい、織館の生徒なぞ、貴様のようなクズばかりなのだろう? もし受け入れても、せいぜい奴隷か死に兵の扱いしかするつもりはないわ!》
《ひ、ひどい!》
《ひどい? 黙れクズが! ほら、さっさと豚小屋に帰れ。貴様らなど、戦争によって叩き潰してくれるわ! 聞いているぞ、貴様らの学校は、兵が一人もいないのだろう? 生徒会長すら、臨時だとか》
《な、なぜそれを?》
《貴様らクズの仲間が、我が校に寝返る為にと教えてくれたのよ。ま、そいつも受け入れるつもりはないがな。簡単に人を裏切るやつなど、信用できねえからな》
《最低だな》
《なんとでも言え。ほら、さっさと帰れ》

『ってことだ』
『なんだよこれ……』

 話しを聞いた男子生徒は勿論、それを盗み聞き――というか、声が大きくてみんなに聞こえたんだけど――していたクラスメイトたちはざわめきだす。

『おいおい、どうすんべこれ』
『山中高校に移動できねえの?』
『つか、何様のつもりだよその生徒会長』
『ちっ、ぶん殴りてえ!』
『なあ、これって戦争で勝つしかないってことか?』
『負けたら奴隷、ってことだろうしな』
『やるべやるべ! ってか、もともと俺戦争賛成派だったし。あんときは三年の雰囲気に流されちったけど』
『俺も俺も』
『わたしもわたしも』

「っし!」
 ほぼ期待通りの流れになってきてる。作戦は大成功だ。
 でも、これ全て喜多村の力なんだよな。頼りになる間諜だけど、自分が情けなくなるね。
「おい、竹中孔明」
 落ち込んでいると、いつの間にか冠がそばにいて、小声で話しかけてきた。
「これ、全部お前の仕業か?」
「……いや、喜多村の力さね」
「喜多村実里の? へぇ……」
 感心したような声を上げる。まあ、このクラスだけかもしれないけど、これだけの成果を上げたんだから、当然と言えば当然だろう。
「……ふむ。劉華ちゃーん」
 急に、自分の席で読書に励む仲山の名前を呼ぶ。仲山はこちらを見ると、とてちてとてちてとでも効果音が付きそうな感じで、俺の席まで歩いてくる。
「なんで仲山を?」
「ま、ちょっとな」
 はぐらかされてしまう。なんだよ気になるじゃないか。
「美羽ちゃん、どうしたんですか?」
「ええ。劉華ちゃんに少し聞いてもらいたいことがあるんですの」
 
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