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君主な彼女と軍師公明

ジャンル: 現実世界(恋愛) 作者: 山科
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第30話

「まあね。っと、そういえば、ボイスレコーダーありがとな」
「どういたしまして。ただ、あれはボイスレコーダーじゃなくて、盗聴器だけどね」
「……いいのか、盗聴って」
「見つからなければ、ね。っと、戸野川君と接触したみたいだよ」
「よっしゃ。じゃあ司馬の携帯に電話をかけて、っと」
 数秒のコールの後、司馬の携帯と通話状態になる。これで俺の声はイヤホンをとおして司馬だけに聞こえるはずだ。
「あー、聞こえるか司馬。聞こえたらお前の携帯を叩いてくれ」
 ――トントン
「うぃー。聞こえてるみたいだな。じゃあ、後は山中高校生徒会長さんに会うまでこのまま通話状態を維持してくれ。おーけー?」
 ――トントン
 再び携帯が叩かれた音が聞こえてくる。
 それを確認し、司馬にこちらの声が聞こえないよう、携帯電話を少し離れた場所に止めてある司馬の自転車の籠に入れる。
「はい、これ」
「おう?」
 喜多村が何かを手渡してくる? なんだろう?
 ラブレターだと思った?
 イヤホンでしたー!
「盗聴音声の受信機だ。司馬君たちの会話が聞こえてくるよ。多分、携帯を通して聞くよりは鮮明に聞こえてくると思う」
「おお、そりゃ助かる。サンキュー!」
 早速イヤホンを耳に着ける。なるほど、たしかに司馬と戸野川らしき男の会話が、鮮明に聞こえてきた。

『ところで司馬君。君の学校に喜多村実里さんっているだろう?』
『うむ』
『可愛いよね』
『まあ、客観的に見れば』
『彼氏とかいるのかな?』
『わからん』
『じゃあ、好きな人とかは?』
『わからん』
『じゃあ、仲のいい男友達は?』
『わからん』
『じゃあ、僕が告白して付き合えるかな?』
『無理だな』

「…………。……喜多村」
「なにかな?」
「今、喜多村も盗聴してる音声を聞いてるのか?」
「いや、聞いてないよ。生憎盗聴している音声を受信できる機械は、それ一つしかないからね。後で録音したものを聞くだろうけど……それがどうかしたのかい?」
「……いや」
 録音したやつを聞いた時、喜多村はなんて思うのだろうか。気になる。けど、今はそれを気にしている場合でもない。
『さ、着いたよ。ここが生徒会室だ』
「っ! ついにきたか……」
 イヤホンから聞こえてきた戸野川の声。それを聞いて、急いで携帯電話を手に持つ。
 さて、上手くやらないとな。仲山の為にも。 
 ギィーっと、扉を開ける音が聞こえてくる。

『ようこそ。オレが生徒会長の土田だ』
『どうも、織館高校一年の司馬です』
『聞いている。戸野川、帰っていいぞ』
『え、俺の出番これだけ? ちくしょう、やなかんじー』
『さて、司馬。我が校に寝返りたいそうだが?』

 さっそく本題に入ったな。よし。
「司馬、今から俺が言う通りに喋れよ? いくぞ?」

『うむ。我輩の力が是非ともほしいと聞いていたからな』
『……たしかに。では、さっそくこの書類にサインを』
『いや、待て』
『ん? なにか不具合が?』
『貴様は、我輩の力がほしいのだろう?』
『……っ! あ、ああ。そうだ』
『ならば、頭の一つでも下げてみろ』
『なんだと……』
『ほれ、下げろよ』
『…………』
『あん? どうした? 命令されないとだめなのか? さすが光宙君だな。よし、ピカチュウ! 土下座だ!』
『……れ』
『あん? 聞こえないよ?』
『黙れと言っているんだッ!!』
『ひぃいっ!?』
『もう貴様はいらん! さっさと帰れ!』
『は、話が違うじゃないか! 寝返りは受け入れるって!』
『受け入れるか! あれは織館の連中を簡単につぶすための計略だ! だいたい、織館の生徒なぞ、貴様のようなクズばかりなのだろう? もし受け入れても、せいぜい奴隷か死に兵の扱いしかするつもりはないわ!』
『ひ、ひどい!』
『ひどい? 黙れクズが! ほら、さっさと豚小屋に帰れ。貴様らなど、戦争によって叩き潰してくれるわ! 聞いているぞ、貴様らの学校は、兵が一人もいないのだろう? 生徒会長すら、臨時だとか』
『な、なぜそれを?』
『貴様らクズの仲間が、我が校に寝返る為にと教えてくれたのよ。ま、そいつも受け入れるつもりはないがな。簡単に人を裏切るやつなど、信用できねえからな』
『最低だな』
『なんとでも言え。ほら、さっさと帰れ』

「よし、司馬。帰ってきていいぞ」
 最期の指示を出し、通話を切る。
「ふぅ……」
「終わったみたいだね。どうだった?」
「おう! 最高の結果だったぞ!」
「へえ……ということは、うちの生徒の考え方も変わるかな?」
「ああ。可能性はあるだろうな」
「そうかい。ならよかったよ」
「おう。悪いけど、録音した音声の編集と、それの流布を頼む」
「心得た。すぐに取り掛かろう」
 そう言うと、喜多村は俺から受信機を受け取り、イヤホンを装着してそれを操作し始める。情報の流布は、喜多村に任せておけばいいだろう。
 それから数分後。
「今帰ったぞ」
 疲れた様子の司馬が帰ってきた。行く前はあんなに元気だったのに。
「おう、お疲れさん」
「うむ。感謝しろよ」
「おう。感謝してもしきれねえくらいだ」
「フハハ! そうかそうか!」
 さっきまでの疲れた表情はどこへやら、嬉しそうに高笑いする司馬。
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