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君主な彼女と軍師公明

ジャンル: 現実世界(恋愛) 作者: 山科
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第26話

「いや、こっちの話。それで喜多村。たしか喜多村って諜報活動が得意って言ってたよな?」
「諜報活動とは言ってないけど、情報収集能力はそこそこにあると自負しているよ」
「ん。ならさ、盗聴器とか、ボイスレコーダーとか、ある場所で行われる会話を録音できたりする?」
「ふむ……」
 顎に手を当て、少し逡巡する喜多村。
「盗聴はあまりしたくないけど、それだったらボイスレコーダーを使えば大丈夫じゃないかな」
「そかそか。ちなみに、その録音した音声を編集とかってできる? 不要な部分をカットして繋ぎ合わせるくらいでいいんだけど」
「できるよ」
「どれくらいかかる?」
「作業内容にもよるけど、かかっても三十分くらいだね」
「そっか。よっしゃ! ならいける!」
「いける?」
「ああ。まずはこれを見てくれ」
 司馬が敵校から受け取った手紙を、喜多村に手渡す。
「? ふむ、了解した」
 疑問顔をしていた喜多村だったが、手紙を読むなり難しい顔をする。
「……なるほど、クラスメイトが僕に隠すようにしていたのはこれだったのか」
 言いながら手紙を返してくる。読むの早いな。
「これはマズイね。こんな手紙でも、かなりの数が裏切るのではないかな?」
「ああ、多分な」
「なにか手は?」
「ある」
「ほう……」
 感心した様子の喜多村。好感度アップかな? だったら嬉しい。
「聞かせてもらえるかな?」
 そうして、俺は自分が考えた対抗策を喜多村へと話す。
「――という感じなんだけど」
「なるほど。敵の行動を逆手にとって、しかも逆転の一手につなげる、ということか」
「ああ。上手くいけば、寝返りも防げるし、生徒の士気も高まるかもしれない」
「おそらくそうなるだろうね。うん。僕は、賛成だよ」
 僕は、というところに喜多村は何かを込めた気がした。多分、冠はどうなんだ? ということだと思う。
「冠の意見も聞いてみてから、ってことになるだろけど……」
「その前に、どの程度の人間に引き抜き工作が行われているのか、情報を集めておくってことかな?」
「ああ。そうなるだろうね」
「了解した。任せておいてくれ」
「頼んだ。うちのクラスは俺が調べておくから」
「僕は、僕のクラスと他の学年ってことだね?」
「ああ。悪いな、大変な作業頼んじまって」
「構わないよ。僕が好きでやってるんだ。なんていうか、最初は戦争に負けてもいいと思っていたけど、こうして竹中君や仲山さん、冠さんと一緒に行動して、色々と思うことがあってね。離れがたいという感情が芽生えてきているんだよ」
 自分でもびっくりだけどね、と続ける喜多村。普通に司馬の名前がなかったけど、もはや言うまい。
「だから、勝つために諜報活動は僕が担当する。だから、戦争のことは頼んだよ、軍師殿」
「軍師って……」
「性が竹中、名は孔明。両方軍師として有名な名前じゃないか。もう、君も軍師って名乗った方がいいと思うよ? それに、軍師がいるってだけで戦争に勝利するイメージが湧くかもしれない。あんまり変わらないとも思うけど、兵が寝返る確率は減らしておいた方がいい」
「んー、そういうものなのかなぁ」
「そういうものだよ。っと、そろそろHRが始まってしまうね。行こうか」
「ん、だな」
「じゃあ、諜報と、軍師竹中孔明の噂の流布は任せておいてくれ」
「……頼んだ。喜多村」
「了解、だよ。それじゃあ、また後で」
 一年一組の教室前にたどり着くと、喜多村は駆け足気味で自分の教室へと向かっていく。
 その途中、くるりと華麗に俺の方へと向き直り、
「頼りにしてるよ、軍師殿」
 笑顔で、そう言った。
「はぁ~……」
 もう、頑張るしかないじゃん。単純だな、俺。

◇ ◇ ◇ ◇

 一時限目の授業中。
【件名】相談が……
【本文】実はさ、山中高校から寝返れって手紙が来たんだけどさ、お前んとこにも来た?
    もし来てたら、どうするつもりか教えてほしいんだけど。俺めっちゃ悩んでてさ。
    追伸:他に手紙貰ってるやつがいたら、そいつがどうするのか聞いてくれると助かる
(んー、こんな感じだろうか?)
 打ち終わったメールの文面を見ながら、考える。
 なんか露骨すぎる気もするんだよなぁ。俺が生徒会に所属してるってみんな知ってることだし。
 そうなると、俺以外の人に聞いてもらった方が早いのか? 俺の頼みを聞いてくれそうで、かつこれをみんなに聞いても生徒会の罠だってことに気付かれない人。
 うーむ、難しい。
「……あ」
 いるじゃないか。目の前に。
「むふふ……千世ちゅわぁ~~~ん……でゅふふ」
 俺の命れ――頼みを聞いてくれそうで、かつ真っ先に寝返りそうだから自然に寝返りのことを聞ける人物。
 司馬仲達。
 ……なんか、司馬仲達ってだけだと、歴史上の人物を貶してる感覚に襲われるんだけど。なんとかならないのかな。
 と、今はそんなことはどうでもいい。
「なあ、司馬」
 授業が終わり次第、早速司馬に声をかける。
「おお! なんだ孔明! なんの用だ?」
 どことなく嬉しそうな司馬。気持ち悪い。
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