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君主な彼女と軍師公明

ジャンル: 現実世界(恋愛) 作者: 山科
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第8話

 そこには、腕を組みながら仁王立ちをしている女生徒の姿があった。
 風に靡く腰まで伸びた黒髪。きりりとしたクールビューティー系の整った顔立ち。制服を着ていてもわかる完璧なプロポーション。
 そして、こうして向かい合うだけで威圧されるような感覚。
 間違いない。
「……お久しぶりです。孟徳さん」
 早倉孟徳(はやくらもうとく)さん。俺の幼馴染みで、許婚のような関係……なのかな? 後者に関しては、よくわからない。
「どうしたのだ? こんなところをうろついて」
「今から寮に帰るところなんですよ。孟徳さんは?」
「…………」
 突如黙り込む孟徳さん。その瞳は、射抜くように俺のことを睨んできている。なんで?
「? 孟徳さん?」
「……むぅ。昔のように『もうねえちゃん』とは呼んでくれないのか?」
「呼ぶわけないでしょっ! この年になって!」
 いけない、敬語使うの忘れた。
「……そうか。残念だ」
 がっくりとうなだれる孟徳さん。悪いことしたかなぁって思ってしまうけど……嫌なものは嫌だから仕方がない。
「ところで、孟徳さんはどうしてここに?」
「…………」
「……あの、孟徳さん?」
「あ、ああ……すまない。少しへこんでいた」
 どんだけショック受けてるんだよ!
「私は、ショッピングモールで孔明らしき後ろ姿を見かけたからな。追いかけてきたのだ」
「そうですか」
「うむ。そうでもないと、このような場所にくるわけがないだろう?」
「? それってどういう……」
「む? どういうって、私がこのような弱小高校の学生寮が集まるエリアに望んで来るわけがないという意味だが……そういえば」
 何かに気が付いたように、孟徳さんが俺のことをジッと見てくる。
 あーっと、これはもしかして……。
「孔明、さっき寮に帰るところと言っていたが……お前、どこの高校に入学することになったのだ?」
「……ええと」
「……答えろ、孔明」
「ひっ!?」
 威圧感が増した!? こ、殺される!?
「お、織館高校……です」
「おり……たて? ふむ、そこは確か――」
「この第十五学区の最東端にある、生徒数二百に満たない弱小校です」
 孟徳さんの言葉を遮るかのように、淡々とした声が聞こえてきた。
「む。この声は、弦姫か?」
「はい。私です」
 孟徳さんの後ろ、ショッピングモールの方向から歩いて来たのは、孟徳さんと同じ制服に身を包んだ少女だった。
 烏羽色の艶やかな髪を後ろでくくったポニーテール、少し低めの身長に凹凸のない身体。
 孟徳さんとは、違うベクトルで美少女と呼べる少女だった。
 ……ただ、左目に黒い眼帯をしていたのが気になったけど。それに腰に差した木刀も気になってるけど。
「困ります、孟徳様。勝手にどこかへ行かれては」
「すまないな、弦姫。だが、そう拘束する必要もないだろう。私にだって、一人でどこかへ行きたいこともある」
 あれ? なんか二人で会話始めちゃったけど? 俺蚊帳の外なんだけど。
「承知しかねます。孟徳様は今や蒼龍館学院の長。この学園都市内ではありえないとは思いますが、闇討ちなども警戒すべきです」
「むぅ。だが、私はそんじょそこらの男には負けないと思うが……」
「確かに孟徳様はお強い。ですが、もしもがないとは言い切れません。それに、早倉の名を狙う者もおるやもしれませんし」
 余談だが、早倉の実家は古くから栄える一族らしい。名家というやつなのだろう。
 そんなお嬢様と俺みたいな一般庶民が何故幼馴染みなんて関係になることができているのかというと、なんでも俺の祖先が早倉の血筋なんだとか。
 言ってしまえば、俺と孟徳さんは遠い親戚みたいなものらしい。俺も俺の両親もあんまり実感はないけど。
「わかったわかった。今後は気を付ける」
「……その言葉、本日十七回目ですが」
 どれだけ言ってるんだよ!
「さて、それでは……」
 そう言って、少女、たしか弦姫とか呼ばれてたっけ? 弦姫さんは、腰に差した木刀を抜き、それを構えて――
「――って、えぇぇっ!?」
「はぁっ!」
 一気に俺に肉薄したかと思うと、その木刀を俺の喉元へと突きつける。
 凄い速さだ。避ける暇がなかったって冷静にそんなこと考えてる場合じゃなかった。
「な、なにするんだよ!」
「黙れっ! 貴様、孟徳様に近づいて、何が目的だ?」
 いや、近づいてきたのは孟徳さんの方なんだけど。
 助けを求めて孟徳さんに熱い視線を送るけど、孟徳さんはくっくっくと楽しげな表情を浮かべていて助けてくれる様子がない。
「答えろっ!」
 誤解を解こうと目の前にいる弦姫さんを見るけど、話を聞いてくれる雰囲気じゃない。
 ってか、近くで見ると凄い可愛い。ヤバい! 心臓がドキドキで壊れそう1000%LOVE! ヘイッ!
 そんなことやってる場合じゃないっつうの!
「も、孟徳さーん。助けてぇ~」
 視線じゃ伝わらないようなので、声に出して助けを求める。
 それと同時に、
「気安く孟徳様の名を呼ぶんじゃないっ!」
 と目の前の美少女の殺気が尋常じゃないくらい増えてるんだけど。
「……ふむ。昔みたいに『もう姉ちゃん』と呼んでくれれば考えてやろう」
 あんたは鬼畜ですかっ!?
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