ネット喫茶.com

オリジナル小説や二次創作、エッセイ等、自由に投稿できるサイトです。

メニュー

君主な彼女と軍師公明

ジャンル: 現実世界(恋愛) 作者: 山科
目次

第40話

 視聴覚室。戦争中は、参謀本部として各部隊に指示を出したり、斥候部隊からの報告をまとめて作戦の変更を考えたりする。
 本来ならば俺も戦争中はここにいるべきなのだけど、部隊の将として兵を率いることができる人間が、現時点ではルールと作戦を理解していてなおかつ運動能力に多少自信のある俺と冠しかいない以上、俺も前線に赴かなくてはならないだろう。
 この戦争が終わったら、指揮官みたいな人間も育てないといけないな。兵の訓練も必要だし、この学校を守り続けようとするのならば色々とやることが多そうだ。
 力をつけた後は、学園都市統一を目指してみたいし。
「あの、孔明くん」
「……ん、なんだ?」
 考え事をしながら戦争に向かう準備をしていると、後ろから仲山に話しかけられる。そういえば、この前の全校集会から俺の『孔明くん』って呼んでるけど、ずっとそのままなんだろうか? ちょっと恥ずかしい。
「わたしは、生徒会長なのに学校に残っていてもいいのでしょうか?」
「ああ。寡兵を持って大軍にぶつかるときは、総大将が先頭に立って戦うのも士気を上げるために必要なことだけど、すでに兵の士気はこれ以上ないくらい高いからな」
「でも、みなさんが頑張っているときに、わたしはただ待っているだけなんて……っ!」
「ん。まあ、気持ちはわからなくもないけど……でも、仲山が倒されたらその瞬間に負けになるからな。冷たいことを言うようで悪いけど、あんまり前線に出てほしくないんだ」
「はぅ……そうですか、なら仕方がないですね」
 あからさまに落ち込んでいる仲山だったけど、慰めてる時間もないし……。
「勝ってくるから、心配すんな」
 結局、そう言ってごまかすことにした。
「……はいっ! お願いします!」
 深々と頭を下げる仲山。俺は仲山の頭を小突きながら、
「……行ってくるな」
 そう言って、視聴覚室を後にした。
「……いちゃつくなら他でやってほしいね」
 背後から喜多村のそんな声が聞こえてきたけど、気のせいだよね。

◇ ◇ ◇ ◇

「遅いですわよ。もしかして、今まで劉華ちゃんといやらしいことをしていたのではなくて? もしそうだとしたら――」
「んなことするか!」
 昇降口前の広けた場所。
 ジャージ姿の全兵士六十名が、隊列を組んで待機していた。
 それら兵士の前に立ち俺を出迎えたのは、指揮官を務める一人制服姿の冠だった。
「だいたい、なんで私が指揮官なんですか? 私、あれほど劉華ちゃんの護衛がいいと言いましたよね?」
 笑顔で詰め寄ってくる。その笑顔が恐いです。
「いや、言っただろ? お前しかいないって」
「ええ聞きましたよ。だから?」
「だからって……」
「それでもなんとかして私を劉華ちゃんの隣に配置するよう努力するのが軍師たる者の役目なのではなくて?」
「んなわけあるかいっ!」
「……アトデコロス」
 ぼそっと俺にしか聞こえないくらい小さな声で告げた後、冠は「しかし……」と言葉を続ける。どうやら切り替えたようで、殺気は表面上感じることはなくなった。
「勝てるのですか? これだけの兵で」
 待機している兵を見ながら訊ねてくる冠に、俺は、
「さあな」
 と答える。
「さあな、って……もし負けたら……どうなるかわかってますわよね?」
「わかってるから、殺気を出さないでくれ。怖い」
「……はぁ。まあ、武器の都合上、集められる兵は多くないとわかっていましたけど、今あるポイントを全て使えばもう少し集められたのでは?」
「たしかに、もう少し集められただろうけど、そうすると戦争が終わった後、ポイント不足で困ることになる。戦争に勝つことだけを考えるならそれでいいけど、仲山の考えは三年間織館高校を守りきることだからな」
「……そう、ですわね。私が浅はかでしたわ」
「……珍しいな。お前が自分の非を認めるなんてすみませんでしたナイフはしまってください!」
「……大丈夫、これは戦争用の武器ですわ。これでめった刺しにしても死ぬほど痛いだけで死ぬことはありません」
「そっか、それならいいわけないだろ! 痛いんじゃねえか!」
「刺されているうちに気持ち良くなるかも」
「ならねえよっ! 俺に特殊性癖はないよ! これからもなるつもりはないよっ!」
「それは残念」
 微笑を浮かべ、ナイフをしまう冠。そして、一転真剣な表情になる。
「誰か来ましたわね」
「え?」
「ほら、あそこ」
 校門の方を指差す冠。つられて見れば、たしかに誰かが校門の外からやって来ていた。
 今の時間は校門を使わないようにと全校生徒に呼びかけているので、うちの生徒じゃないはずだ。
「敵の斥候ですかね? 捕まえますわ」
「ああ、頼む」
「了解」
 途端、猛スピードでその人物の方へと走り出す冠。凄い、もうあんなところまで。
「誰だテメエは。返答次第じゃ殺すぞ」
 ナイフと小太刀を構え、問いかける冠。あの冠と向かい合うときの圧力は、並みのものではないと体験者たる俺はよく理解している。相手が一般人なら、怯えて声もでないだろう。だからと言って、いきなり威嚇しないでくれとも思うけど。
目次

※会員登録するとコメントが書き込める様になります。