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君主な彼女と軍師公明

ジャンル: 現実世界(恋愛) 作者: 山科
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第29話

「だね。ちなみに、乗り気な人は三年と一年に多かったよ。三年生は前生徒会長が逃げたことで、一年生は、入学して間もないからってことらしい」
「……ふーむ」
 予想通りの答え。予想外だったのは、寝返りに乗り気な人が百人もいるということか。
 これを聞く限りでは、仲山と冠の行動はあまり成果を出せていないらしい。
 やはり、一年生が生徒会長を務めるのに不満と不安があるのだろう。しかも、その生徒会長は全校集会のとき頼りなさそうだったと印象付けてしまった。
 となると、うちの生徒を戦争に引っ張り出すには――
「――ん――竹中君!」
「ん?」
 背中を叩かれる。もちろん叩いているのは喜多村だろう。
「なんだ?」
「前見てみなよ。山中高校に着いたよ。このまま自転車で正門から入るのはマズイんじゃないのかい? 今の時間は昼休みだろうし」
 喜多村の言う通り、すぐ目の前には山中高校の校舎があった。
 前情報通り、校舎の周りは山が囲んでいる。やはり攻めるのは難しそうだ。
「ん。そうだな。じゃあこの辺りで」
 自転車を止め、街道脇の森の中へと移動する。
「よし、司馬。ここからはお前の力が頼みだ」
「我輩の?」
「ああ。お前には、今から山中高校の生徒会長に会ってもらう。校門の外で待っている『戸野川』ってやつに、司馬だって名乗れば連れて行ってもらえることになってるから」
「む、何故我輩が? 敵に寝返れと言うのか?」
「違うさ。生徒会長に会って、俺の指示通りに会話してくれればいい」
「指示通り? その指示はどうやって出すのだ?」
「ほれ、このイヤホンを付けてくれ。指示は携帯から出す」
「むぅ……だがイヤホンなんてつけていたらバレるのではないか?」
「そのバンダナで隠せばなんとかなるっしょ。一応、イヤホンも目立ちにくい奴を購入したから」
「うむむ……だが、何故我輩なのだ? 指示なんか出さなくとも、貴様が直接行けばいいではないか」
「んー、それだと意味がないと言うか……ともかく、お前じゃなきゃだめなんだ! 頼む!」
 深々と頭を下げる。
「……我輩でないと、駄目?」
「ああ。お前じゃないとできないんだ。だから頼む!」
「ふ……ふふ……ふは、フハハハ! いいだろう! そこまで言うのならば、やってやろう! 我輩にしかできないのだからな」
「おう!」
 扱いやすいなぁー。なんていい人なんだろう、司馬は。
 司馬はそのままイヤホンを受け取ると、携帯に取り付け、バンダナと髪の毛と制服を上手く使いながら、傍目では分からないように耳へと装着。
「ようし。では行ってくるぞ」
「あ、待ってくれ司馬君」
 今まで黙ってなにか作業をしていた喜多村が、司馬を呼び止める。
「う、な、なな、なんでしょうか喜多村さん」
 明らかに挙動不審な司馬。今警察が通りかかったら完璧アウトだろう。
「これをポケットに入れておいてくれないかな」
 小型の機械を取り出す喜多村。多分、俺が頼んでおいたもの。ボイスレコーダーだろう。
「な、なんですかこれは?」
「んー、まあ、お守りみたいなものと思ってくれて構わない」
「お守り……ブヒ、それはなんとも言い難い興奮を覚えますな」
「帰ってきたら返してくれよ」
「は、はは、はい。ありがとうございますです」
 疑うことなく、それをポケットに入れる司馬。
「では、漢司馬仲達、行ってくるぞ!」
 敬礼し、司馬は山中高校へと向かう。これでどうにか作戦は動き出した。後は指示をだし、うまく敵生徒会長を挑発するだけだ。
 ここで、復習のために今回の作戦の内容を頭の中で思い浮かべる。

 1・司馬を敵生徒会長に面会させる。
 2・司馬が敵生徒会長を挑発。敵生徒会長に、『お前を受け入れない』『戦争で叩き潰してくれる』といった単語を引き出させる。
3・それを喜多村が編集。司馬の挑発を上手く消し、敵生徒会長の言葉だけを残す。
4・その音声と、『寝返ることはできない』『山中高校の生徒会長は最低』『むしろ山中高校が最低』という情報を織館高校内に流す。

 というものだ。
 これが成功すれば、少なくとも山中高校に寝返ろうとする人間はいなくなるだろうし、上手くいけば山中高校に負けるわけにはいかないと戦争に協力してくれるかもしれない。
 まあ、上手くいくのが最高だけど、とりあえずは寝返りを防げればいい。徴兵は、仲山と冠に任せておけばいいだろう。
「さて。司馬君は上手くいくかな」
「さあな。まあ、戸野川が生徒会長さんのとこまでは連れてってくれるだろうし、大丈夫だろ」
 ちなみに戸野川というのは、喜多村が紹介してくれた山中高校の生徒だ。今回、作戦を実行するにあたり、彼の力は絶対必要なものだった。快く引き受けてくれてよかったよ。
 もっとも、彼は『寝返りたい者がいるので生徒会長のところまで連れてってくれ』と頼んであるが。すまない戸野川君。君はいい人だった……。
「後は会話を上手く誘導できれば」
「そこが一番の問題だね」
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