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君主な彼女と軍師公明

ジャンル: 現実世界(恋愛) 作者: 山科
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第23話

「……おっしゃる通りで」
 総大将が全線にいない場合、この作戦で勝つことはほぼ不可能。運よく敵の前線を蹴散らしたとしても、敵には総大将率いる兵がいるはず。その攻撃には耐えられないだろう。
「運が良ければ勝てる作戦だってのは認めてやる。だから五十点。でも甘いな」
「まあ、本当にその通りだから何も言い返せないわけだけども」
「んで?」
「はい?」
「はい? じゃねえよ。おめえ、三つ作戦があるって言ってたじゃねえか。残り二つをさっさと話せ」
「あー、はいはい」
 せっかちだなあと内心呟きつつ、地図上に並べた駒を回収する。
「二つ目の作戦は奇襲」
「奇襲?」
 冠が怪訝そうな表情をして訊ねてくる。
「兵数に劣るから無理、だと思ってるだろ?」
「……わかってんだったら話が早い。その通りだよ竹中孔明」
 その言葉を聞いて、俺はにやりと笑みを浮かべる。
「そう、普通は無理だ。兵数がどうしても足りないから。誰もがそう思うだろうさ」
「ならどーすんだよ。それで終わりだったらぶっ殺すぞ」
「いや、これで作戦は終わりだけ――ひぃっ!? 嘘です嘘ですだから穏便に話し合いを進めましょうよ!」
「はぁ……だったら話せ。いちいち殺そうとするのも疲れるんだからよ」
 だったら殺そうとしないでほしい。
「さっき冠も言ったけど、誰もが奇襲なんて無理だと思う。つまり、敵も奇襲はないと考える。だからこその奇襲」
「敵の裏をかくってことか……」
「その通りぃっ! 細かく説明するならば、さっきの伏兵のときに言ったこの街道の入り口にて敵を足止め。その隙に別働隊が守りの薄くなった敵本陣を奇襲。ババーン! 勝利!」
「ふむ……そうだな」
 再び目を閉じて腕組みする冠。これが冠の考えるときのポーズなのかな? どうでもいい情報をゲットしたぞ! わーい!
 と、情報と言えばさっきから喜多村が全然喋っていない。どうしたのかと思って喜多村の方を見ると、喜多村は、
「僕には二人のように考える力が不足しているからね。聞き役に徹しているよ」
 と柔和な笑みを浮かべながらそう言った。
 むむむ。いつものボーイッシュな表情じゃなくて、こういう優しげな表情も似合うのか。素晴らしい美少女だな。彼氏いるのかな? いるんだろうなぁこんなに可愛いんだもん。
 まあ、今はそんなことは置いておいてっと。冠の評価を待たないとな。
「……五十五点」
 またまた低いなぁ。でも、さっきの伏兵より高い! やったね!
「その理由は?」
「結局のところ運頼みだからだな。もし敵が奇襲に備えていたら、その時点でゲームオーバーだろ」
「まあね。んじゃ、伏兵より点数が高い理由は?」
「誰しもが奇襲はないと考える、その裏をかいたからだな。奇襲に備える可能性は、めちゃくちゃ高いことはないだろうよ」
「なるほど」
「ただ――」
 冠は、「はぁ」と一つ嘆息。そのまま机上に広げられた地図に近づいていく。
 パチン、と小気味のいい音が響かせながら、地図上に将棋の駒を並べていく。ナイスな具合に肉付きが良いお尻が俺の方に向けられている恰好なので、エロチックな気分になる。
「――その考えは、アタイたちと山中高校、この二校だけの戦いだったらの場合だろ?」
 手を止め、冠は俺の方に向き直る。
「実際には、こんな感じでいたるところに敵がいるんだ。第三者がこの戦争に介入してくることだって考えられる。当然、山中高校の生徒会長だって本陣に守兵を置いておくだろうよ。宣戦布告せず戦争を仕掛けても、たしかペナルティとして5万ポイントを払えば大丈夫だったはずだからな」
「……そうか、そういえばそうだった。あうち!」
 第三者の介入があるってこと、完全に失念してた。あふん。軍師失格ですな。知力の鍛錬が必要だわ。
「それを含めると、奇襲作戦は三十点。まだ伏兵の方がましだ」
「だなぁ。いくら猪突猛進な性格でも、本陣には結構な数の守りを残していくだろうし。よっしゃ、三つ目の作戦いってみよーっ!」
 テンションを無理やりに上げる。こういう時は落ち込んでたら駄目だってじっちゃんが言ってた。多分。
「三つ目の作戦、それは……っ! どぅるるるるるるるるるっ!」
 口でドラムロールの効果音を出す。あん! 蔑むような目で見ないでください冠さん!
「三つ目の作戦! それは籠城さね!」
「……籠城?」
「そう、籠城だ(ドヤッ!)」
 再び怪訝な表情をする冠。まあ、最後まで聞くみたいだから、俺はゆっくり作戦を話していこう。
「敵は遠征というわけではなく、敵本拠地はここから然程離れていない。さらに、こちらに援軍がなく、挟撃もできない。籠城戦を行う前提を満たしていないから、ただ籠城するだけなら勝算はほぼないんだけど、それはリアルの戦争だったらの場合だ。この戦争には、いくつかのルールが存在する」
「……ふむ」
 なに言いたげに口が開いたが、すぐに冠はその口を閉じた。聞いてみようという気になったのかもしれない。
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