ネット喫茶.com

オリジナル小説や二次創作、エッセイ等、自由に投稿できるサイトです。

メニュー

君主な彼女と軍師公明

ジャンル: 現実世界(恋愛) 作者: 山科
目次

第21話

「封鎖なんてできないしお前一人で足止めできるわけないだろこのダホが!」
 立案される作戦のほとんどが、こういった馬鹿みたいなものだけど……。
 俺が司馬を罵倒するのとほぼ同時に、生徒会室の扉が開いた。
 見れば、そこには疲れた表情の冠の姿。
「おっす。お疲れ、冠」
「うぃー。あー、疲れたわー」
 肩を揉みながら、空いていた俺の右隣のパイプ椅子に座る。
「フハハ! 我輩は少し疲れた。仮眠を取ろう。ZZZ……」
 女子が室内に入ってきたためか、急に目を閉じる司馬。
 喜多村も女子だけど、その容姿も雰囲気も、中性的な感じがするから大丈夫とは以前司馬から聞いていた。けど、冠は中身はともかく見た目は大和撫子な美少女だから、このヒキオタニートは緊張してしまうんだろう。慣れろよ。
 ていうか、自分で『ゼットゼットゼット』って言うとか、こいつはひょっとして馬鹿なんじゃなかろうか。知ってたけど。
 まあ、そんな司馬は放っておいて。
「どうだ? 兵と資金は」
「……あー、そうだなぁ」
 言って、俺、司馬、喜多村の顔を見回す。
「……劉華ちゃんには言うんじゃねーぞ」
 と前置きしてから、冠はポケットからゴミクズのようなものを取り出し、それを長机の上に投げる。
 見た感じ、どうやらくしゃくしゃに丸められた紙のようだけど……。
「これは?」
「広げてみろ」
 喜多村が手に取り訊ねると、冠はどこから取り出したのか、ペットボトルの緑茶でのどを潤していながらそう言う。喜多村は頷くと、ゆっくりとそれを広げていった。
「……これは……なるほど、理解したよ」
 広げた紙を見て、難しい顔をする喜多村。
「む? どういうことだってばよ?」
「…………」
 無言で紙を手渡される。一体何なのかと、俺は少し心の準備をしてから、紙の表面を俺の方に向けた。
「…………」
『一緒に、この織館高校を守る為に戦ってください!
織館高校臨時生徒会長 仲山劉華』
 それは、ポスターだった。
 かわいいイラストと一緒に書かれた、力強い、大きな文字。
 全てが手書きの為か、仲山の思いがよく伝わってくる。
 でも、これがくしゃくしゃに丸められていた。冠はそんなことをする奴じゃないから、きっと生徒の誰かがやったんだろう。
「……三十枚作って、校内のいたるところに貼ったんだけどな。全部、はがされたり落書きされたりしていたよ」
 怒りではなく、呆れは混ざった声の冠。
「このこと、仲山は?」
「……劉華ちゃんは、貼り終わった後すぐに長宗我部に職員室まで呼び出されたからな。知らないはずだ。一応、悪戯されたポスターは全部回収してきた。顔見知りにも悪戯されたものがあればすぐに回収してくれって頼んであるから、まあ大丈夫だろ」
「……そうか」
 握りこぶしを作る。どこのどいつだ、こんなことをしやがったのは。体育館裏にこいやオラァ!
「……まあ、怒っても始まらないからな。割り切れ、竹中孔明」
「でもよ……」
「阿呆。今はこんなクズに構ってる時間はないだろ? 戦争が終わったら、ゆっくり料理してやればいい」
「むぅ……」
 一番怒っているはずの冠が我慢してるんだ。俺が我慢しないでどうする。
「わぁったよ。冠の言う通りだ。まずは戦争だな」
 しかしまあ、案外冠って大人なんだな。普段の様子からしたら『血祭りだぁ!』とか言いながら悪戯したやつのとこまで行ってボッコボコにしそうなのに。これは冠に対する評価を変えないと――
「おう。これが終わったら血祭りにしてやればいいんだ。ボコって服剥いて写真撮って脅して金搾り取って写真ばら撒いて社会的に殺してやる……フフフ」
 ――訂正。やっぱりこういう人だった。
「つーことで、兵と資金は現状厳しいな。内心手伝ってもいいってやつは何人もいるんだが、校内に漂う戦争に協力したらダメっていう空気が邪魔してるらしい。だからこそ、まずはこの空気を変えないといけないな」
「なるほど」
「なるほど、じゃねえよ。てめーはどうなんだ? ちゃんと戦争で勝つ作戦、考えられたんだろうな?」
「んー、その前に敵の情報がほしいな」
 言って、喜多村の方を向く。喜多村は微笑を浮かべた後、手帳を取り出して話し始めた。
「山中高校。全校生徒数五百人弱。校舎数一つ。この第十五学区内にある八つの学校の中では、第六位の勢力を持つ。生徒会長は土田光宙。学校の特徴としては、本校舎の周りは山で囲まれているということだね」
 地図を見る。山中高校は、織館高校から西に五キロほど離れた高校だ。
 指で地図をなぞりながら山中高校の場所を見れば、喜多村の言う通り織館高校へと続く街道があるだけで、周りのほとんどは中々に高い山に囲まれている。ちょっと格好よさげに言えば、天然の要塞というやつだろう。攻めるには苦労しそうだ。
 ただ、今回は防衛戦。攻める必要はなく、守ればいい。
 いくつか考えはあるけど、この山は使えそうだよなぁ。
「次に、詳しい内情だけど」
 喜多村が言葉を続けたので、思考を一旦中断して喜多村の方へと顔を向ける。
目次

※会員登録するとコメントが書き込める様になります。