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君主な彼女と軍師公明

ジャンル: 現実世界(恋愛) 作者: 山科
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第4話

『――です。趣味は体育座り。特技は体育座りです』
 どんな趣味と特技だよ! とツッコみたいけど抑えておく。どうやら、今は廊下側最後列の人が自己紹介をしているらしい。
 俺の番まであと少し時間がある。さ、なんて自己紹介を――
「ありがとうございましたぁ~。さあ、次はちょっと趣向を凝らして……真ん中の一番後ろの子、自己紹介お願いします!」
「ってなんでだよっ!」
 予想外の出来事があり急に長宗我部先生に指を差されたので、俺は思わず立ち上がって叫んでしまう。

 ――シー――――――――――ン

 と静まり返る室内。
 うわぁ……やっちまった……。
「えーこほん。改めまして、竹中孔明です。趣味は読書。特技は運動。これからよろしくお願いします」
 ゆっくりと椅子に座りなおす。

『『『『『『『…………………………………………………………』』』』』』』

「…………」
 やめてよぉ……みんな無言で俺のこと見ないでよぉ……。
「え、えと……それでは元気いっぱいの竹中くんの前の人、自己紹介をお願いします」
 苦笑いをしながら、長宗我部先生は自己紹介を進行させていく。その心遣いが今はありがたい。
 先生の言葉に従って、俺の前に座る男が立ち上がる。
 ずっと気になっていたんだけど、その男子はなぜか頭にオレンジ色のバンダナを巻いていた。まるで一般人が思い浮かべる典型的なオタクのように。
「あー、ごほん」
 と咳払いをして、オタク君は自己紹介を始めた。

「諸君、我輩の名は、司馬仲達(しばちゅうたつ)。三国志の時代に生まれ、名を轟かせた司馬懿の生まれ変わりである!
 生まれながらにして軍師たる才能と、君主になれる器を兼ね備えている男の中の男だ。
 趣味は自らの頭に降り立った物語を文章にして後世に伝えること、特技はありすぎて困るから割愛させてもらうが……まあ、全て、とだけ言っておこう。
 まず、何故我輩がこの学校に入学したのかだが、それは――「あ、あの司馬くん? あんまり時間がないから、それはまたの機会に……」む? 然様か。まあ、師が言うのならば聞き入れよう。
 では、我輩の数々の武勇伝を――「司馬くん。それもちょっと……」む? それも駄目だと言うのか? ふむ、長宗我部殿は案外器量が小さいな。君主にはなれんぞ。
 では、我輩の――「あの~、司馬くん……」むぅ……了承した。我輩の話は二人きりで聞きたいということだな? ならば、師のために今度時間を空けておこう。なぁに、遠慮することはない。我輩にとってはそれも一興。むしろ歓迎すべきことだ。
 我輩は――「し、司馬くんっ! さすがに先生怒っちゃいますよ?」あ、はい。すみません。怒った先生も可愛いです――すいませんすいませんもうしませんごめんなさい。
 こほん。
 では最後に、これだけは言っておきたい」

 そう言うと、司馬はくるりと俺の方を向く。今まで顔を見ることはできなかったが、いざ見てみればその顔は眼鏡をかけていたり濁った瞳をしていたりと完全にオタク臭を漂わせていた。。
 司馬仲達の名が泣くぞ?
「孔明よ……」
 そんな俺の思考も知らずか、司馬は俺の名前を呼んだ後、左手で眼鏡をくいっと上げ、右手で「ズビシッ!」と自分の口から効果音を発しながら俺を指差す。やめろ。
「孔明! 古の時代は遅れをとったが、この時代では遅れをとらんぞ! 今度こそ、決着をつけようではないか!」
「……はい?」
「うむ。我輩は満足だ。フハハハハハッ! あ、長々とすいませんでした。自己紹介、終わりです」
 高笑いしたかと思うと、今度は周囲のクラスメイトたちに頭を下げて、司馬は席に着いた。いや、まず俺に頭下げろよ。
 一体なんだったのか? こいつは俺に恨みでもあるのか?
 まだ会って間もないのに。そういうトラブルは女の子だけにしてくれよ。
(……あー)
 っと、司馬の言っていたことはわかった俺は内心納得する。
 これは三国志の中でも有名な話なのだが、三国時代には二人の天才的な男がいた。
 その名も、諸葛孔明と司馬仲達。孔明は、諸葛亮と言った方がわかりやすいかもしれないな。
 ともかくだ、その二人は、互いにライバル関係にあったのだが……正史ではなく三国志演義の方では、結局仲達は孔明に勝てなかったとなっている。死せる孔明生きる仲達を走らすということわざもあるくらいだし。
 この中二病症状が今まさに進行しつつある司馬は、そんな感じで俺のことをライバル視してきているんだろう。はた迷惑なやつだ。
 ほら見てみ。クラスメイトもドン引きしてるじゃん。幾らノリがよくたっていきなりこれは受け入れられないよ。
 ……ん? ちょっと待てよ。
 その司馬にライバル視された俺も、クラスメイトからしてみれば関わりたくない人間になるんじゃないか? 
 ただでさえ自己紹介失敗したし。
 あれ。これって便所飯フラグ? 俺の高校生活終了のお知らせ?
 もしかして卒業式の時に、

「女っ気のないむさ苦しい高校生活だったけど、お前と一緒で結構楽しかったぜ。ま、卒業してもよろしくたのむ」

 なんて司馬ENDを迎えるんじゃないのか?
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