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いち、にい、さん!

原作: 銀魂 作者: 澪音(れいん)
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44話 「宝石屋」


何とも下らぬことだろうと思う。
人間は、科学では立証不可能な事柄に関しては「虚実」だと「迷信」だとする。
「幽霊」「宇宙人」「超能力者」あらゆるものが、科学的に何ら立証されぬものとして、門前払いを食らったように「架空」のものだと位置づけられた。
しかし、過去の人間は、地球の周りをすべての天体が公転していると「天動説」を信じ込み、今では常識とされている「地動説」を唱えたもの達を異端だとしていた。それが今ではどうだ、「天動説」が真実だとした人間はいつの間にかいなくなり、「虚実」とされていた方の「説」が世界の常識とされ、今まで信じられていたほうが「虚実」のレッテルと貼られた。

現に我々「幽霊」はこうして存在している。
ただ単に、人間との干渉を断ち、見えぬだけだというのにも関わらず、やれ「呪い」だの「肝試し」だの。「あれは作り物」だの「CG技術の賜物」だのやかましい生き物だ。結局のところそう、人間は自分の想像できる範囲の物質以外は拒絶する。恐怖の対象に成り得るものを「ない」ものと位置付けて、自身に降りかかる得体の知れないものから防衛しているにすぎない。そう、あれは一種の自己防衛だ。


カラン、と音を立てて扉につけられたベルが鳴る。
やれ、ここ半年静かに「余生」を過ごせていたと安堵していたというのに何の用だと後ろを向くと、無遠慮に中を覗き込み、見回していた双眼が、私の視線と絡み、ほんの一瞬だけ、息をつくくらいの瞬きの間だけ、驚きを示すように大きく見開いた。
それに手に持っていた「知恵の輪」が軽い音を立てて外れ落ちた。

「何の用だ?」

外れたばかりの知恵の輪を、ぽいっと投げ捨てて、箱の中に乱雑に入れてあるガラクタの中に手を突っ込み物色していると、入り口のほうで様子を伺っていた栗色の髪の少女は一瞬、いや、俺にとっては存分に長い瞬きをひとつしてから、扉から身を離して中へと入ってきた。客はひとりだと思っていたが、もうひとり奥に居たらしい、明るい色とは真逆の、生まれてこの方染めたことなど一度もない、そんな「濡羽色」を持った少女は、不安そうな顔色で後に続いて入ってきた。

「ここは何のお店なの?」

棚の上に置いてある宝石のように光り輝く「鉱石」をみた「栗色」は、ひとつ、ひとつの鉱石を物珍しそうに見つめながら俺の方に視線をよこした。「記憶屋」がなぜこちらの世界にいるのかと疑問に思うが、全くもって興味関心が湧かない今、詮索するのも億劫だった。手元にあった「知恵の輪」がまた軽い音を立てて外れるのを視界の端におさめて、この「趣味」も潮時かと後ろに放り投げた。

「見ての通り「宝石屋」だ」

「綺麗ですね」

「濡羽色」の少女は群所色に光る宝石を見つめながら感嘆の声を上げた。それにしても、あの「色」が美しいとは、これだから女の考えていることは一つも分からない。いや、俺の場合は同じ男が考えていることすら分かりゃしない。分かりたくもない。「知恵の輪」に神経を集中させながら、店内を好きに練り歩く2人はそれぞれ違う棚を見ながら最終的に1つの大きな棚に同時に辿り着き、同じ鉱石を物珍しそうに見つめていた。

目の前の「群青色」がやけに気に入っているのか、「濡羽色」はじっとその鉱石を見つめていると、やがて、「群青色」の中に「珊瑚色」が混ざり込み、あっという間に「紅梅色」にまで変わってしまった鉱石を見て、大きな瞳を更に大きく見開いた。

それには「栗色」の方も驚いた顔をして、鉱石を見つめているものだから、いつもなら見て見ぬふりをするところを、ほんの少しの気まぐれで、単なるそう、定期的に現れる気分の「波」のせいで俺はガラクタを箱に戻すと「撫子色」に変わった鉱石のほうへと歩み寄った。

この棚にある鉱石はどれも不安定でひと時も目を離せずにいたが(知恵の輪をやっていたではないかなどという指摘は必要ない)どうやら持ち堪えたらしい鉱石を手に取った。

「これは、「死者」に対する「生者」の思いを示したものだ」

「撫子色」に染まったそれは、「生者」の「愛しさ」が込められている。
先程までの「群青色」は、死者の死を受け入れられず、暗い沼の底にいるかのように泥濘にはまって抜け出せずにいたのだろう。それが今、何かをきっかけにして悲しみよりも「懐かしさ」や過去に生きていた「死者」への「愛しい」感情で覆い尽くされている。

随分長い間くすぶっていたようだが、どうやら立ち直ったらしかった。
それを手に取り近くにあったダストボックスのような入れ物に放ると、「濡羽色」が何か呟いたような気がしたが、存外興味もなく黙ってダストボックスを見つめる。あの鉱石は、ここから少し離れた場所にある「受取所」まで届けられ、本来あるべき場所に返っていく。

死者はあれを通して、無事に生者が自分の死から立ち直ったことを知り、自身がこれからどうするかを決める「番」を迎える。持ち主がどんな結論に至ろうが、俺の仕事は鉱石の生末を見据えて、持ち主に返すまで。「撫子色」が1つ消えた棚と同じ段にあった「百入茶色」に染まっていた鉱石が砕け落ちた。


「宝石屋」

「死者」ではなく、残された「生者」の気持ちに寄り添う者。「死者」を思い、苦しんだ心が壊れないように「色」を足すことが仕事。
参ツ葉達同様に役目を持った者のひとり。

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