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いち、にい、さん!

原作: 銀魂 作者: 澪音(れいん)
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37話 「記憶の中」

「いらっしゃい!驚いた?」

いたずらが成功したことを喜ぶ子供のように、無邪気に笑った参ツ葉さんに私は唖然としたまま、なかなか言葉を返せずにいた私に、怒ったと判断したのか眉を下げた参ツ葉さんに慌てて手を振り「驚いた」と伝えると、安堵したように笑った参ツ葉さんが伸ばしてくれた手を掴んで立ち上がった。

ここは何処だろう。江戸で壱橋さんが拠点にしている部屋に負けないくらい広い室内にいくつもの机が並べられていた。室内は、和室ではなく、洋室。きょろきょろと辺りを見回していると、その様子がおかしかったらしい参ツ葉さんが、ここは「学校」と呼ばれる場所なのだと教えてくれた。

あの「街」には色々な世界からひとが集まるのだと聞いたことがある。
その世界では色々な時間軸の人が集まっていて、私のいた世界の時間軸とも、参ツ葉さんが暮らしてきた時間軸とも同じ時代であれ、時差が生じるものなのだと聞いた。

「学校より、寺子屋のほうが、馴染みがあるみたいね」

「そうなのかな。なら、やっぱり私はあの「江戸」で暮らしていた可能性が高いってこと?」

「んー江戸って言っても幾つもの世界線が繋がっていて、横軸で見ても数多く存在するからね。「寺子屋」に馴染みがあるからってのは決め手にはならないかな」

「そっか…」

見るからに落ち込む私に、参ツ葉さんは「よしよし」と頭を撫でて窓際に私を導いた。

「私が記憶屋だってことは、話したよね?」

「うん。壱橋さんからもなんとなく話は聞いたよ」

うんうん、と頷いた参ツ葉さんは隣に並ぶ私に微笑みかけながら、「ここはね、「記憶」の中なの」と呟いた。

「記憶屋」で扱っているのは、これまで生きてきた先人達の「記憶」だとか、今現代に生き続けている人々の「記憶」の積み重ねらしい。けれど、「あの世」と言えど個人情報に口うるさいご時世、簡単に閲覧許可は出せないらしく。例えば、「どこに住んでいた人の記憶を見たい」と漠然とした指定の依頼は受けられないらしい。その人が親密な関係にあった、例えば血縁者だったり、「家族」であったり。すでに亡くなっている人の記憶であれば、その本人が「遺言」として残した場合、「友人」やそのほかの近しい人間でも閲覧できるようになるらしい。その人が誰にも見せてほしくないと言えばだれにも見せずに、裏の書庫に大事に仕舞うそう。

「記憶」の本は、普通の本のように文字列を目で追っていくものとは異なり、ようは疑似体験というものらしい。VR体験といったほうが近いかもしれない。
けれどVR体験とは違って、ここで体験する物事は、温度もあれば、周りの雑音も聞こえ、その時の空気感も同じらしい。言い換えるならば、そう、その時の光景をすべて瓶のなかに保存して、それを開いたような感じ。だから人によっては自分の、あの時の「記憶」を追いたいと依頼してくる人もいるそうだ。

なら私が「人」の記憶を体感するのはご法度なのではないか、と思い至り、参ツ葉さんを見上げると、参ツ葉さんはぼんやりと外を見ていた視線を私に向けてゆるりと微笑んだ。

「ここはね、私の記憶なの。わたしは、過去の記憶を持ち、敢えてあの世界に留まった人間のひとりだから」

誰かを待っている訳ではない。
世界に未練を落としてきた訳じゃない。
何かを探している訳でもない。
自分の記憶は全てピースが揃っていて、本来ならば転生しなければならない人間。
ただ、転生するよりも「街」に残って、いたいと思った。
それを、弐那川さんを通して「記憶屋」として働いていく代わりに、あの「街」で住む権利を得たらしい。

「生まれ変わりたくなかった、って訳じゃないのよ」

私が思ったことをそのまま口にした参ツ葉さんに、思わず驚いて目を丸くしてしまうと、参ツ葉さんは楽しそうに声を上げて笑うと窓の外に視線を移した。

「ただね、今までの記憶をリセットするのが怖かったの。この記憶を失ってしまったら、「自分」はもう「自分」ではなくなってしまう。それがね、とても怖かったのよ」

そう言って、へらりと笑った参ツ葉さんは、何だか今まで見てきた天真爛漫な彼女とは別人に見えた。いつものように着物を着ていないからだろうか。普段なら下ろしている髪をアップにしているから、なんて色々と考えてみるけれど、そもそも根本的に何かが違うように見えた。

なぜか、知っている訳じゃないのに「もしかしたら、生前の参ツ葉さんはこんな感じだったのかもしれない」なんて思った。


「記憶」の本

先人達の記憶、今を生きる人々の記憶の積み重ねで出来ている本。
ただし、本人が記憶を失っている場合、そのページは空白のままで、「記憶屋」であっても閲覧することは出来ないらしい

(弐那川さんは本人の中から伝わってきた記憶を断片的に受け取ることが出来るけれど正確なものではない)

参ツ葉

画像のものは、「V Roid」のアプリのほうで参ツ葉のイメージで作成したものです。
(想像と異なっていた場合は…申し訳ありません)

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