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いち、にい、さん!

原作: 銀魂 作者: 澪音(れいん)
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35話 「怒りのわけ」



普段、怒りもしない温和な人間が急に怒り出すと、周りの人間が手を付けられなくなるように

普段、怒りもしない人間自身も、どのように終結させればいいのかわからなくなるものである。


その状態がまさに彼女の今の状態であった。
縁側に通じる廊下を行ったり来たりと繰り返す彼女を見た壱橋は、向こうの方で反省会をしている参ツ葉と葯娑丸(彼の場合は壱橋に雷を落とされ、渋々ではあるが)正座して、お互いに謝罪の言葉を言い合っていた。しかし問題が今うろうろとしながら時折、思い至ったように2人のもとへ行こうとしては思い直し頭を抱えている彼女だった。

壱橋自身、生前の記憶はなく、彼女との思い出もないのだが、ただ漠然と「珍しい」と思っていた。彼女は弐那川のもとへやってきた後も、どんなことがあっても常に笑顔でいた。無理をしているのではないかとそれとなく聞いても、彼女は人に対する「怒り」の感情に疎いような印象だった。

だからポジティブな人間なのかと思いきや、「怒り」の感情がない分、他の感情がより分かりやすく表に出やすいらしい、彼女は、人間らしいと言ったらそうだけれど。少なからず、「怒り」や「憤り」といった感情は出したことはなかったはずだった。

だからこそ、彼女が2人に対して、それも怖がっていたはずのあの「沖田」という青年に対して怒りを露わにしたことは、彼女自身も、彼女以外の人間も驚きが隠せずにいた。

かくいう壱橋自身も内心では少しだけ動揺していた。

「そんなところに居たら風邪を引くぞ」

だけど、このままにしてもおけない。
あの2人は未だに彼女が怒っていると思い、その点は葯娑丸も心から反省している様子なため、まあいいお灸になるだろうと少し反省させる分には放っておいてもいいかもしれないと、思ってはいるが、きっと彼女は自分がしたことをそれ以上に気にしてしまっているだろうから。

ここは第三者である自分が間に入るのが良策だろうと判断した。



壱橋さんは私の背を押して室内に導くと自然な流れで「どうした?」と尋ねた。
それに、言っていいものかと悩みながら、私は藁にも縋る気持ちで、自分の気持ちを話した。

死者である私たちにはもう後先はない。
寿命なんてものに囚われない代わりに、私たちは一度死んでしまえば、魂が壊れて消えてなくなってしまう。それは壱橋さんも、そして2人も同じだと聞いていた。

だから、2人には無茶をしてほしくなかった。
2人をこの記憶探しに巻き込んでしまったのが自分だからか、それとも今まで優しかった2人への情がそうさせるのか、自分でもわからないけれど。
それが私のエゴだったとしても。つまらない正義感だと言われたとしても。

「そうか。なら本人に伝えてみるといい」

壱橋さんは私の気持ちを聞くと、悩む素振りもなく、すんなりそう言った。

それに唖然とした気持ちで壱橋さんを見上げる。
私だって考えたんだ、今までの自分がどんな風に人と関わって来たのかも覚えていない私でも、そこまで長い年月を一緒に過ごしたわけじゃない私がそんな踏み込んだことを言ってよいのかとか、そもそもあんな感じに怒ったのだって。

「あの2人がここに居ないのは、お前の気持ちを誤解しているからだ」

「誤解、ですか?」

伍森さんが壱橋さんの後ろの襖を開けて入ってきて、私と目が合うとゆるりと微笑んだ。

「嫌われた、そう思ったのではないでしょうかね」

「嫌われた?私が、2人を嫌ったってことですか?」

伍森さんはその問いに頷くと「案外気にしいですよあの2人は」と苦笑いを浮かべた。
壱橋さんに言われるがままに、適当な部屋に落ち着いたからあまり考えていなかったけれど、ここは2人のいる居間の隣にある部屋だ。

元は一つの部屋に出来るところを、壱橋さんが肆谷さん、伍森さんが増えたことで「部屋数を増やそう」と区切りをつけた為、なぜだか今まで気づかなかったけれど。

伍森さんが口元に指をあてて、にっこりとほほ笑むと、隣の部屋から話し声が漏れているのに気が付いた。こちらに伍森さんが来る代わりに、向こうに肆谷さんが残っているらしい。肆谷さんは静かな声音で話している2人とは違って、はっきりとした声で「気にしてもしょうがないですよ」と呆れた口調で話している。

「でもでも、肆ちゃんは知らないかもしれないけど、あの子優しい子なんだよ。怒ったことすらない子なの。それなのにあんなに怒るなんて、絶対呆れられちゃったよ」

「穏やかな人だって事は俺も知っていますよ。だからって、このまま「でもでもだって」、言っていたって仕方ないでしょう。当たって砕けてくださいよ」

「砕けちゃだめでしょ!?ねぇ!?」

何かを叩く音がして、参ツ葉さんが涙声で叫んだ声がダイレクトに聞こえた。
なんだ、「嫌われたかもしれない」なんてネガティブなことを考えていたのは私だけじゃなかったんだ。そう思うと、肩に入っていた力が抜けていく。

壱橋さんの方を見ると、壱橋さんは穏やかな表情が一度だけ、強く頷くと「いってこい」と促すように襖を顎で指した。

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