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いち、にい、さん!

原作: 銀魂 作者: 澪音(れいん)
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28話 「組織」





次の日、壱橋さんと一緒に朝から外出している肆谷さんを玄関先まで見送ると私の隣で同じように手を振っていた伍森さんと一緒に昨日のように居間でお茶を飲んでいた。ここ最近浪士の活動が活発化しているらしく、壱橋さんには外出を控えるように言われ、なかなか外に出られずにいる。

チラリと前に座っている伍森さんを見ると、伍森さんはお茶を啜りながらこちらから一瞬も目を逸らさず、何だか行動が見張られているようで居心地が悪い。けれど実際その通りなのだろう。庭の片隅に咲いていたカンツバキを見に行った時も、お茶を淹れに勝手場に行った時も、寸分離れず、後ろから着いてきた伍森さんは私が勝手に出掛けないように見張っているようだった。そんなに接近しなくても急に消えたりなんてしないんだけど、と苦笑いしつつようやく落ち着いたのが居間だった。とはいえ、視線は一向に離れることはないし、居心地の悪さは増していくばかりなのだけれど。

「そう言えば、皆さん苗字と名前に数字が入っているんですね。参ツ葉さんまではてっきり偶然なのかな?と思っていましたが」

急に話し掛けたから驚いたのか、それともそんな事聞かれると思ってみなかったのか、ワンテンポ遅れて伍森さんは頷くと顎の下に手を添えた。

「数字でない方ももちろん在籍しているので偶然かとは思いますが、設立されたのが拾文字さんという方なのでその方に聞いてみないと何とも言えません」

「拾文字さん、という方もいらっしゃるのですね。」

「はい。滅多に表に出ない人なので通称「ツチノコ」さんです。」

参ツ葉さんの「姐さん」といい、伍森さん達のあだ名の付け方は何だか独特な気がする。

それにしても、「拾文字」さんと言う方が仕切られているのは少し驚いた。皆さんはてっきり弐那川さんの指揮の下に動いているのだとばかり思っていたけれど、弐那川さんは「玄関」のようなものらしい。死者が未練を持ちながら死んだあと、誘われるようにやってくるのが「喫茶店」、そこで弐那川さんは誰が適任かを見極めてその人に誘導するのがお仕事らしい。そして水面下で動いているのが肆谷さんと伍森さんの役割なのだとか。参ツ葉さんは本業の「本屋」さんから関連の情報を探し、実際に死者に寄り添い情報を集めるのが壱橋さんの役目。

組織的に活動をされているけれど、組織に名前はなく、本部もなく、全員が一挙に集結することはまずないと話してくれた伍森さんはお茶を飲みほした。



「この辺でしょうかね」

路地裏を通りながら、時折屋根の上に登り地形を見るを繰り返してきた壱橋と肆谷はとある森の奥深くにあった洞窟のような窪みに懐中電灯を向けた。まだ辺りは明るいというのに、ここら一体は木が生い茂っているせいで夜のように暗くてイマイチよく見えない。

肆谷が低い位置にある窪みの天井付近を、中腰で指差すと、隣を歩いていた壱橋がどこかを見つめながらやるせない顔をしたことに、立ち上がった。

「皮肉なものだな。俺と同じ世界から来たことは分かっているのに、俺は元いた世界には導いてやれない」

あの「街」には未練の残った死者がやってくる。
着てすぐに見つかり成仏するものも居れば、まだ生きている家族を待ちたいと未練から目を背けて「街」で生活しているものもいる。数十分で去るものもいれば、長い年月を過ごしているものもいる。けれどどんな死者でも未練がなくなれば自然と成仏していくものだった。

とある「組織」に属している者たち以外は。

「壱橋さんは自分の記憶は探されないんですか?」

懐中電灯を下に向けて問い掛けた肆谷もまた、生前の記憶はない。
今家で待っている伍森も同じく生前の記憶は持ち合わせていなかった。
だから自分たちが似たような容姿をしているのが、本当に兄弟であったからか、それとも他人の空似なのかもわからない。

ただ、未練を見つけられずに、名前を知るすべもなくただ生きてきた自分達に「居場所」を与えてくれた男に出会って、他人の記憶探しを手伝うことになるなんて、少なからず思ってもみなかった。死者である自分たちが「生きていた」というのも変なことではあるが、「街」では死者も生者と同じように食事をして、暮らしている。

「名前も知らない「あの子」を待っていたからな」

懐中電灯の光が届かない、壱橋の顔は陰っていてよく見えない。
けれど何となく、壱橋が浮かべているであろう表情は予想がついた。
すでに輪廻に戻ることを「諦めた」自分達とは違い、未だに「あの子」を待ち続けている壱橋が少しだけ哀れに見えた。

けれど結局自分も同じなのだろう。
記憶がないから成仏出来ない、そしてその記憶を知るのが怖い。
だから知らないふりをしている自分もきっと、他から見たら哀れなんだろうから。

「すまない、先を急ごう」

壱橋の声に後ろを向くと、既に後ろを向いている彼の後を追いかけた。


「組織」

他人の未練を探すための集団。名前はない。
壱橋が生前の彼女を知りながら「元いた世界」に導かないのは、正確には「導けない」から。
壱橋、肆谷、伍森の3人は生前の記憶がなく、成仏出来ずにいたところを「拾文字」に勧誘された。


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