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いち、にい、さん!

原作: 銀魂 作者: 澪音(れいん)
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16話 「追跡」


「じゃあ俺は山田のばあさんに人数分作っておくように頼んでくるんで土方さん後は頼みまさァ。じゃ!」

「じゃ!じゃねぇよ。そんなもん後にしろ、後に」

走り去っていこうとする沖田の襟元を掴み歩き出した土方に、後ろから舌打ちが聞こえた気がした。
それに額に青筋立てる上司を素知らぬ顔で襟元を正すと女たちが入っていった路地のほうへと入っていく。
大通りに繋がるその道は、狭いうえに薄暗く向こうから人が入ってくるのはまずない。
ただ路地を挟んだ向こう側にも商店街は続いている為、向こうからこちらにやって来る為にわざわざ遠回りをせずにこの道を選ぶものもいる為、少し早足になりながら前を行く2人に気付かれぬように路地を出る前に左右を確認した。

「土方さん、右側に行ったようですぜィ。男の方は完全に俺たちの尾行に勘付いてやがる、人の多いところに紛れ込まれちゃ敵わねぇ。向こう側の路地に隊士を待機させやしょう」

「ああ。もう山崎の奴に手配するように言ってある」

大晦日は何かと問題を起こす輩も多くなるため、着流しでやって来たのが功を奏したと思っていたが、相手もそれなりに勘のいい男だったらしい。様子から見るに女には何も伝えていないらしい、男は時折こちらをちらりと見ては人通りの多い中をするりするりと器用に人の波を避けて歩いていく。

「大丈夫ですかねィ」

「あ?何がだ」

「山崎の野郎、あの女が逃げ出した日からずっと何かに取り憑かれたように探し回ってたってぇのにきっかり1週間経った日の夜何か様子がおかしいと思えば次の日から普通の業務に戻ってやしたよね」

「そういやそうだったな。その間もこっちの仕事も熟していたから何も言えねぇでいたが。まあアイツはお人よしなところがある、あの女が巻き込まれてやしないかって気にしてたんだろ」

「…そうですかねィ。俺にゃあ、別の何かがあるように思えてならねぇが」

珍しく山崎のことを案じるように眉を顰める沖田に、「部下思いなところもあるじゃねぇか」と土方は安堵した。

「あの女見つけたらつるし上げてやろうかィ。俺の玩具に手出した代償は体で払ってもらわねぇとならねぇや」

「うん、そうだよね。君が部下を思って言ってないことは薄々勘付いてた」

サディスト全開の真っ黒な笑みで女のいる方を睨みつける沖田に、向こうを歩いていた女がぶるっと身震いをしたことに前を歩いていた男が何かを話し掛け、女は慌てて首を横に振っていた。どこからどう見ても、恋人同士か、兄妹にしか見えない2人に周りは微笑ましいように見守っているが、男の警戒心の強さからそれはないだろう。

先程は自分が、今は隣にいる部下が凶悪顔をしたせいで周りに居た人間がさっと道を開ける。
道の端によりヒソヒソと歩く主婦から「やだ、攘夷志士?」「ヤの人じゃないかしら」なんて聞こえてくれば、少し先の方にいる子供がぼんやりとこちらを見つめてから指を指して「あの人昨日テレビに出てきたチンピラだ」なんて言って隣の母が秒速で子供の口をふさいだ。

全くもって、尾行に向いていない。
いつもは地味だのなんだのとバカにされているあの男なら誰かに気にされることなく、そもそも相手にも勘付かせることなく尾行に集中出来ているだろうが、生憎自分たちは少し仮想したところで顔が知られている分何かとやりづらい。さっきは着流し来てるからばっちりって言っていたって?うん、訂正する。100%バレてます。

「ここから先は監査の奴に任せた方がいいらしいな。俺達は諦めたふりをして帰るぞ」

隣にいる沖田にしか聞こえない声量でいうと、沖田は女を睨んでいた視線をこちらに向けて「え、諦めたふりをするんですかィ?ここまで追い詰めて?」と何故か尾行対象にどころか町中に聞こえるような声量でいうのを手で口をふさぐことで止める。

「バカなのォォォ!?バカなの君!?えっ、そんなバカだった!?はああああ!?」

「もごもごもご」

「何だよ。今度は声量落とせよ」

「ちょっとしたお茶目じゃないですかィ。やだなぁ」

「あははは、そうか。お茶目か。よしそこに直れ、お前から斬る」

沖田の胸倉を掴み抜刀した土方に、一気に街中は騒然として2人から逃げようと人の波が更に引いた。
大繁盛していた店の店主からは「何してくれてんだよてめえら!!」と怒鳴り声が始末。
沖田が視線を土方から横にずらすと、こちらに気付いていなかった女も目を真ん丸に見開いて、口元に手を当てて沖田の方を見ていたが、視線がかちりと合うと慌てたように逸らされた。あの時会っていない土方はともかく、夜の暗がりの中と言えど沖田の顔は覚えていたらしい。

男はそれに女の前に立ち、こそこそと何かを伝えると逃げ惑う人の波に紛れてどこかへと去っていった。
それを土方に伝えれば怒り心頭だった思考に冷静さと取り戻したらしく、2人が消えていくのを見て、顔をひきつらせた。

「おいおいおい。どうしてくれんだあれ、もろバレじゃねぇか」

「どっちかってぇと土方さんの怒鳴り声に女がこっちを向いたんですけどねィ。どっち道男の方にはバレてたんで、このまま尾行しててもどっかで撒かれるだけでさァ。ならあっちの冷静さを欠いてやろうと思いやして。あとは監査に任せやしょう。饅頭買って来やす」

「ちょっと待て総悟!」

土方が小さくなっていく2人の背中を最後にもう一度見ると、女が一度だけ振り返り、視線がかちりと合った。
けれど男が何かを話し掛けたらしく、本当に一瞬、けれど土方はその一瞬がなぜだか長く感じていた。


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