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いち、にい、さん!

原作: 銀魂 作者: 澪音(れいん)
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14話 「遭遇」

「取り敢えず宛てがあるわけでもないから適当に歩くぞ。気になるものがあったら言え」

藍色の着物に身を包んだ壱橋さんは今日一度も目を合わせてくれないまま歩き出してしまった。
それに慌てて追いかけようと小走りで壱橋さんの背を追おうとすると、上の方から聞こえてきた葯娑丸君の鳴き声に一度足を止めて振り向いた。

屋根の端の方に寝そべりながらこちらを見下ろしている葯娑丸君は人目を気にしてか、喋りはしなかったけれど、もう一度「にゃあ」と鳴くと手を振る代わりのように尻尾を左右に振った。



江戸の町は今日も活気づいていた。
壱橋さんが、今日が大晦日だからみんな年越しの準備に忙しないのだろうとさり気なく教えてくれる。
大晦日、今までの自分がどう過ごしてきたかは分からないけれど、もしかしたら今あそこにいる家族のように仲良く手を繋いで買い物に歩いたりしていたのかもしれない。通りすがりの店内で嬉しそうにお母さんの手を引いて笑っている女の子をぼんやりと見つめていると、壱橋さんが「入ってみるか?」と声をかけてくれた。

店内に入ると干支にちなんだ雑貨が多く、今年は子年だから、ねずみ関連のものが多く並べられていた。
手に取って見てみるとどの子も顔が異なっていて横から顔を出した壱橋さんが「手作りか」と呟いた。

「壱橋さんは何年なんですか?」

「…さあな。生前からそういうのは疎い性格だったし、気に掛けたこともなかった」

もしかしたら気を使ってくれたのかもしれない。
持っていたねずみの置物を陳列されていた棚に戻すと「いいのか?」と首を傾げた壱橋さんに頷いた。

お店を出て、暫く歩いていると急な突風が吹いてきて、人の悲鳴が淹れまじった爆風が続けて吹き荒れる。
それに驚きながら目を瞑り、おさまるのをただじっと堪えていると、そっと着物の袖口を私の顔の前に開いてくれた壱橋さんがどこかをじっと見つめていた。

「ありがとうございます、何かあったんでしょうか」

「そうだな。今の騒動で人がこちらに押し寄せてくるかもしれないから、離れるぞ」

人混みではぐれないように手を取られ、壱橋さんの方へと引かれると人混みの中を流れに逆らうように反対側の路地のほうへと小走りで向かった。路地手前で一度立ち止まり、爆風が吹いてきた方を見ると、黒髪の人が誰かに怒鳴りつけているのか声を荒上げているのが此処からも見え、そのすぐそばに見えた栗色の髪はどこかで見たような気もするけれど、黒髪の人と違って背中を向けているせいでよくわからない。

「どうした?」

後ろをじっと見つめている私に不思議に思ったらしい壱橋さんに顔を覗きこまれ首を横に振ると、特に気にも留められることもなく「路地を抜けて向こうの大通りに出るぞ」と繋がれたままの手を引かれて路地の方へと入っていった。




「そんなにはしゃがねぇで下せェよ。世間様は大晦日の準備で大忙しってーのに街中で大声出されちゃ困りやす」

「その街中でバズーカぶっ放したアホに言われたくねーわ!!」

いつも通りの見廻り中、珍しく大人しく後ろから着いてくる部下に不思議に思いながら今年は心を入れ替えたのだろうとちょっぴり関心していた。なぜちょっぴりかというと、大半は何か企んで一緒に着いてきたんじゃないかと疑いが強かったからだ。部下を信じないなんて酷い上司だの、冷たい男だの言われたって構いやしない。普段のコイツの行動を知っている人間であれば、そう思わざる負えないことも理解するだろうから。言いたい奴には言わせときゃいい。そう誰かに語り掛けながら街を歩いている時だった。

「あ、土方さん。あれ見てくだせェあの男女。あの女の方、山崎が逃がした女に似てやす」

「あ?いくら何でもてめぇの足で逃げた奴が、こんな大通りに呑気に出てくる訳ねぇだろ。」

「そのとんでもないアホ女だからほっつき歩いてるんでしょうぜィ。とにかく追いやしょう。相手の根城が分かれば芋づる式に色々と出てくるかもしれねぇや」

珍しく真面目に応答する総悟に何だか気味が悪くなり隣をちらりと見るが、総悟は女のいる方をじっと見ているせいでこちらの視線には一切気付かない。普段なら「お前がどうにかしろよ土方ぁ」「あとは任せやした。俺は年末特番のガ〇の使いを録画予約しなきゃならないんで」なんて言って人に押し付けるやつが、今は女を見失わないように神経を尖らせているのだから。やっと部下が真剣に仕事に取り組むようになったことを歓喜しながら自身も仕事に集中することにする。

「…そうだな、応援を呼ぶ。で、その女は何処だ?」

「あっちでさァ、あっち」

「あっちじゃわからねぇ特徴を言え」

「だからあっちでさァ。黒髪の奴の隣にいやす」

「バカなの!?黒髪なんてあっちゃこっちゃの色々なとこにいるわァ!むしろ大半が黒髪じゃねぇかテメェ!!」

「あーじゃああれ、黒髪の女でさァ」

「どの黒髪の女ァ!?髪以外の特徴教えてくんないかなぁ!?」

「チッ、わがままな野郎でィ(小声)」

「俺が悪いのか?俺が悪いのか?オイ」

「あ、山田のばあさんのとこ年末セールやってやがる。何だよばあさんやるならやるって言ってくんねーと。後で買いに行こ」

「おーい、総悟くぅーん?お仕事してー?」

つづく
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