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いち、にい、さん!

原作: 銀魂 作者: 澪音(れいん)
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13話 「贈り物」


「適当に見繕ってきたが、洋装よりはいいだろうな」

玄関のほうから聞こえた壱橋さんの声に、葯娑丸君と一緒に出迎えると大きな袋を抱えて立っている壱橋さんに思わず唖然と立ち尽くしながらも、慌てて袋を運ぶのを手伝った。見た目の割に重量はないそれは軽々と居間の方へと運び込め、葯娑丸君はその間離れた場所をうろうろとしていたけれど荷物を下ろすとすぐにそばに寄ってきた。

中を開けると淡い桜色の着物に、動きやすさを考慮した袴が入っていて、赤い結紐まで付けられていた。
どこからどう見ても女物の着物に、壱橋さんを見ると何でもないように着物を掲げて「着てみろ」といつもの調子で一式を渡された。

渡された一式を手にどうしようと躊躇をしていると、遠慮していると思った壱橋さんが私の背中を押して別室へと押し込んだ。それに慌てて「着方が」と言うけれど惜しくもそれは壱橋さんの耳には届かず、目の先でパタンと閉じられた襖に暫く部屋の中を右往左往としながらゆっくりと床に腰を下ろした。

着物なんて自分で着た事もないしどうしよう、ロクにお礼すら言っていないし。
着物を開いては元に戻し、暫く思案をしていると後ろからにょきっと伸びてきた腕が着物を乱雑に掴み「女趣味だな」と無雑作にひっくり返され、驚いて後ろを見ると見たこともない男の人がいた。

「だ、誰ですか!?」

黒髪に金色の瞳を持った男の人は世間的には美男子と呼ばれる部類なんだろうけれど。
その頭の上についている猫耳が存在感が大きすぎて、何とも言えない風貌にさせている。

「着方が分からないのか。」

驚いてズササ、と後退った私に男の人は着物をじろじろと見回すといつまでも返事しない私にじれったく思ったのか、切れ長の目をスッと細めて睨みつけてくる。

何でだろう、髪の色と目の色が同じだからだろうか。
葯娑丸君に似ているような気がしてならないけれど、いくら言葉を話せる葯娑丸君でも人の形になれるなんて言っていなかったし。そもそも言葉が喋れること自体も知らなかったけど。てっきり弐那川さんにしか聞こえないのかと思っていたからあの時だって半信半疑で話を聞いていた。

「ああ、そう言えば人型になれると言ったことがなかったな。」

そう言って猫に戻った目の前の男の人は、やっぱり葯娑丸君で。
驚いたままその様子を見つめている私に、意地悪そうな顔でけらけらと笑いつつ、ひとしきり笑った後に「で?着れないのか?」と着物を顎でくいっと指した。

「はい…忘れているのか、そもそも着たことがないのかわかりませんが」

「着つけてやろうか」

またからかっているのだろうか?と葯娑丸君を見ると真面目な顔で見上げてくるところを見ると本当にそうしてくれるつもりらしい。再び人型になった葯娑丸君は着物を持ち上げ「外で待っているからこれを羽織って適当に紐で括り付けておけ」と言って出ていってしまう。

一応、女扱いはしてくれているのだろうか。
手渡された桜色の着物に、紐を見比べ、とにかく一度やってみようと着ていた洋服を脱ぎ始めた。



「壱橋さん」

居間で待っている壱橋さんの下へ行くと、新聞のようなものを広げていた壱橋さんの視線が私の方に向いて一瞬驚いたように見開かれた。もしかして似合わなかったのだろうか、それとも思った着方じゃなかったとか?と思って下を向くも、葯娑丸君が綺麗に着つけてくれた着物は素人目にはどこが変なのか分からない。

「ああ。似合っている」

驚いたままじっとこちらを見つめていた壱橋さんは、私の後ろから入ってきた猫の姿に戻った葯娑丸君に意識を取り戻したのか、ふいっと顔を背けながら、素っ気なく答えた。

「ありがとうございます、壱橋さん。こんな高価なもの」

「いや、いい。これからしばらくはこの世界で生活しなければならないことを考えれば必要経費だ」

新聞に目を落とし、淡々と口にした壱橋さんに何か気に入らないことをしてしまったのだろうかと眉を下げ、首をかしげると、後ろにいた葯娑丸君がお腹を抱えながら笑っているのが見えた。そんなにおかしいことをしたの私!?と葯娑丸君のいる方を見るとヒイヒイと言いながら壱橋さんのほうを見つめにんまりと口角を上げる。

「まーさかお前のそんな顔が見られるとはなァ」

「しゃべるな」

そんな顔?と壱橋さんの顔を見ようとすると、床に置いていた新聞をバサッと勢いよく持ち上げたせいで一瞬しか見えなかった。それに葯娑丸君の方を見て「どんな顔をしていたの?」とこっそりと聞いたけれど「さあな」と笑うだけで答えようともしてくれない。

弐那川さんは、2人はケンカばかりしているなんて言うけれど、私から見た2人はいつも仲良しに見える。
今も顔を覆った壱橋さんに面白がって見える角度を見つけては壱橋さんが背中を向け、葯娑丸君がからかいながら顔を覗き込んでは突っぱねられていた。

ここに、弐那川さんもいてくれたら。
ここに来ればきっとすぐに記憶は見つかる、なんて甘い夢を見ていたからだろうか。
見つけに行くどころか、行動すらとれない今の状況があまりにも歯がゆくて、たった1日だけど居心地の良かったあの場所に戻りたくてたまらなくなった。


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