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いち、にい、さん!

原作: 銀魂 作者: 澪音(れいん)
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12話 「亡者と生者」


「な、なんで…猫耳?」

「おう。小僧貴様ツッコミ属性か」

振り向いた先に強面の浪士ではなく、金色の涼し気な瞳を持つ黒髪の青年だった。
どこからどう見ても「イケメン」の部類に入るであろうその人物は、顔はいいのに、何故か頭には猫耳がついている。山崎の視線がじっとそちらに向いているのに男は顔をしかめ、それに同調するかのように猫耳が動いた。

「へぇ、最近の猫耳は動くんだね」

「貴様…先程まで俺に刀を突きつけられたのを忘れたのか。勘のいいガキだと思ってきてみたが、ただの阿呆か」

わざと挑発するように笑った男に山崎も先程の流れを思い出し、一旦距離を取るように飛び退くと男は楽しそうに笑うだけで攻撃してくることもない。監査として生きてきてから人を見る目だけは自信があったというのに、男の一挙一動からは男の考えが読めず、それだけでも強者であることは理解できた。

まったくもって厄介な人間関係を持ったものだ、あの子も。
相手の目から視線を逸らさず、同時に相手が刀に手を伸ばす一瞬も見逃すまいと全身の神経を尖らせた。

その間でも男は楽しそうに、まるで童話に出てくる笑う猫のようにケタケタと笑いながら、その目のずっと奥の方は一切の笑みも感じられない、そんな男の表情に自然と体に力が入った。

「なーに、刀を突きつけたのはただの「お遊び」、別にお前さんを斬ろうとかそういう訳じゃない」

「信じられないね。こう見えてもそれなりの場数は踏んでるんだ、君が堅気の人間じゃないことも分かってる」

「そりゃそうだろうなァ、なんたって真選組監査方の山崎退だろ?」

そこまで知られているのか、と眉間にしわを寄せ、頃合いを見て応援を呼ぶべきかと思案する。
先程から戦う意思の見えない男は両手をひらひらと振って戦闘意欲がないことを示しているが、先程一瞬で背後を取られた一瞬の恐怖と只者ではない空気が気を許す隙を与えなかった。

「俺からの「忠告」はただひとつ。あの娘には金輪際関わるな」

「それは、彼女が俺たちの敵だから?それとも君達が利用してるのだとしたら」

「違うな。俺はお前たちの「敵」でもなく「味方」でもない。そして、あの娘にはお前らを脅かすほどの力はない。ただあの娘を追ったところでお前らにいいことはないから忠告してやってるんだ」

「どういう意味…」

「さあな。ただ、これだけは言える。お前はこれから先あの娘を追う道を選んだとして、必ずそのことを後悔する時が来る。必ずな。組を潰したくないのなら手を引け。関わらない方がいい「縁」もある」

夕日が沈み、男の顔を照らしていた光がなくなると、男の目元が見えなくなり、吊り上がった口元だけが不気味なほどに浮き上がって見えてきた。

「生者は生者らしくいろってことだ」

男はひらりと踵を返すとそのまま脇の小道に入ってしまう。
慌てて追いかけた山崎だったが、そこに男の姿はなく、ただ黒猫がこちらをちらりと見て「にゃあ」と鳴いた。



薄っすらと開けた目から強い光を感じて、手のひらで目元を覆う。
いつの間にか深い眠りに入っていたらしい、ゆっくりと布団の上から起き上がると傍らから「にゃあ」と聞こえてそちらを向いた。初めて会った時のように足に乗っていた葯娑丸はこの世界に着て会った時は話していたというのに今はただ「普通の猫のように」鳴いているだけ。

「葯娑丸君、壱橋さんはお出掛け中でしょうか?」

恐る恐る手を伸ばし、葯娑丸の頭を撫でると、案外大人しく撫でられている姿はあの暴言を吐いた本人とあまりにも違いすぎた。首元をそっと撫でると嬉しそうに目元を下げて、「にゃあ」と手にすり寄ってくる。それが愛らしくて思わず頬が緩むと、襖が乱暴に開いて入ってきた黒猫に唖然と2匹を見比べた。

「こやつは分身だ。まったく、本物と分身の区別すらつかないなんて」

じとりとこちらを睨み上げてくる葯娑丸はやはり、葯娑丸であったと言っておこう。
分身の方の猫は確かに良く見ると赤いスカーフのようなものが巻かれていて、てっきり壱橋さんが寒さ対策につけたのだろうと思っていたけれど、それが分身と本物の区別をつけるものだったらしい。

分身の猫は葯娑丸が怒っている間も甘えるように腕にすり寄ってきて、布団に置いたままだった腕の中に丸くなっておさまると「にゃあ」とひと鳴きしてから眠りについてしまう。自由なところは本物と何ら変わらないらしい。そんな分身を見て「高貴さがない」と訝しげに分身を睨んだ葯娑丸は布団の端に腰掛けると前足の毛繕いを始めた。

「真選組の坊主にはお前のことは気にしないようにと言っておいたぞ。もう気にするな」

「葯娑丸君が?…ありがとう、何も言えずに来てしまったから気になっていたの」

「ふん。…亡者が生者に長く関わると、こちら側に引きずり込んでしまうかもしれない。一切関わるななんてことは言わないが、あまり深い関係を持つな。それがお前の為であり、相手の為でもある」

「うん…ごめんね」

山崎を見た時に、「仕事」として探しているようならそのままにさせておこうと思っていた。
そんな気持ちで探しているのならすぐに飽きるだろうと踏んでのことだ。
しかしあの男は「亡者」のそれに少しだけ惹かれているのがわかり、それを断ち切るために刀を出して忠告までしたが、ふむ、と前足の毛繕いをしているふりをして娘の方をちらりと見た。


葯娑丸
人型になることができる。
「亡者」の意思に関係なく「惹かれた」ものの「縁」を断つことのできる刀を所持している。

壱橋碧壱
「娘」の過去の断片を知る人物。
ただ弐那川同様それを本人に伝えることは「規則違反」にあたるため知らないふりをしている。

「亡者」と「生者」
「生者」は「亡者」と心が通じ合うくらいに近しい関係になった時「亡者」の意思に関係なくそちらに寄っていってしまう。つまり「死」に近づいてしまう。
それを断ち切ることが出来るのは「壱橋」と「葯娑丸」のみ。今回の場合は山崎が初対面の彼女を強く心配してしまった、彼の優しさから「縁」が出来てしまった。

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