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いち、にい、さん!

原作: 銀魂 作者: 澪音(れいん)
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6話 「真選組」

「何で逃げたんでィ」

「すみません…」

私の逃走劇は何とも短い時間で終結した。
大通りを逃げるよりもいいだろうと色々な道を走ったけれど、土地勘のない私は路地裏のほうへ身を隠そうとした時に、死角に立っている茶髪さんに気付くこともなく、足を引っ掛けられて転んでしまった。顔面から地面に突っ込んだ私に、茶髪さんは構うことなく「家出少女確保―」と棒読みで私の手に手錠を掛けてそのままパトカーに乗せられ、今は警察署へと向かっている途中。

パトカーを運転している人は、そんな茶髪さんが応援で呼んだ人。路地裏で茶髪さんに待つように言われ、隣に並ぶのも変だと感じて、けれど離れて待つには手錠が邪魔で、何で私の左腕に掛けられた手錠の反対側を茶髪さんは持っているのだろうと思いつつ、茶髪さんから出来るだけ離れた後ろで待つことにした。パトカーを走らせてやってきた優し気なお兄さんは茶髪さんに「遅い」と言われて理不尽に叩かれながらも、私の方に駆け寄ってきてケガの心配をしてくれた。地面に突っ込んだ時に赤く腫れあがった額は未だにじんじんと痛み、そんな情けない自分に涙目になりながら「大丈夫です」と答えると、茶髪さんがそんな私を見て何とも意地悪そうな顔でほくそ笑む。

あなたのせいでケガをしたのに、と恨み言が出て来るけれど、もとを正せば私が逃げたのが悪い。
逃げずにあの場に残って事情を説明していればもしかしたら近くの宿を教えてくれたかもしれないのに。

「沖田隊長、副長との見廻りでしたよね今日。」

「ああ、そういやそうでしたねィ。土方さんがちんたらしてるから置いてきたような気がしやす」

「副長カンカンに怒っていましたよ。飲み物買ってくるって言ったら後ろからバズーカ撃たれたって」

「ああ、そりゃ善意でィ。土方さんの肩にちょうど虫が止まりそうだったんで。真選組副長様の肩に虫だなんて、是が非でも止めなきゃならねぇと思ってねィ。上司思いのいい部下だろィ?」

「アンタが止めようとしたのは副長の息の根でしょう?!」

まったく、と茶髪さんのほうに飽きれた視線を向けた黒髪さんは私の視線に気が付いたのか、苦笑いしながら会釈する。何だか大変みたい。大変、というより茶髪さんが問題を引き起こして遊んでいるように感じるのは気のせいなのだろうか。隣にいる茶髪さんを横目で見ると、窓の外をぼんやり眺めながら口笛を吹いている。何だかとても物騒な人に捕まってしまったらしい。明日は壱橋さんと合流しなきゃならないのに。




屯所という場所についた途端「あとは任せやした」と黒髪さんに私を押し付けた茶髪さんに黒髪さんは抗議をしたものの、聞く耳を持たない茶髪さんは背中を向けたままひらひらと手を振り行ってしまった。そんな茶髪さんに飽きれつつ、「じゃあ行こっか」と言った黒髪さんは敷地の端の方にある客間に入っていき、私に後に続くように促した。

「ごめんね、役所の方がもう閉まっているので今夜は屯所のほうに泊まってもらうことになるんだ…明日色々と事情を聞くから、今日はゆっくり休んでね」

てっきり牢屋かどこかに入れられるものだと思っていたから、和室に通されたことで肩から力が抜けた。茶髪さんも家出少女って言っていたし、それなら補導になるから牢屋に入れられる訳もないのかな。

「布団とかは押し入れに入っているから自由に使ってね」

「はい、ありがとうございます」

とても、眠れそうにない。
記憶を探すために初めて来た世界で、1日目にして警察のお世話になるなんて、これから私はやっていけるのだろうか。そう考えるととても休もうという気にはなれなかった。早くここから出たいという気持ちが膨れ上がるけれど、ただここから逃げ出すことは私には無理そうだ。大人しく明日までここで待っているしかない。足元に置いた手をきゅっと力強く握りしめた。

「あ~…あのさ?」

ハッと顔を上げると、私の反応に驚いたのか黒髪さんが苦笑いをしながら「大丈夫だよ」と言った。

「最初に会ったのが沖田隊長だったから、その、ほら、怖がらせちゃったかもしれないけどさ。ここの人達も無慈悲に君を見放したりなんてしないから。ちゃんと考えてくれると思うよ。いや、俺も考えるけどさ!…何か困ったことがあるなら、遠慮せずに言うんだよ」

「ありがとう、ございます」

情けない声を出しながら頭を下げた私に、黒髪さんは「いやあ」と照れくさそうに頭をかきながら優しく微笑んだ。なんだか、とても安心できる笑顔だった。この人なら悪いようにはされないかもしれないなんて思った。明日はちゃんと話そう。世界を渡ったとか、あの街のこととかはきっと信じてもらえないし壱橋さんも話さない方がいいと言っていたからその辺は黙っていることになって心苦しいところはあるけれど。他の事はちゃんと話そう。

「ああ、でもその前にケガの手当てをしないとだね。ちょっと待っててね」

黒髪さんはスッと立ち上がり襖を開けると、一度だけこちらを振り向き「すぐ戻るよ」と声をかけてから客間を後にした。


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