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いち、にい、さん!

原作: 銀魂 作者: 澪音(れいん)
目次

2話 「この街」

???視点

昨日は随分と遅くまで何を悩んでいるのかと思えば、知らぬうちに眠りについてそのまま朝まで起きてこない。
記憶がないくせに何を深く考えているのやらと娘のいる部屋に着て見ればここに来る前の深刻そうな顔はどこへやら。何の夢を見ているのだか知らないが、緩み切った笑顔を見ると随分といい夢を見ているらしい。こうしてみるとその辺にいる娘たちと何ら変わらないじゃないか。

ふよふよと娘の周りを飛んでいる白いモヤは婆さんが夢でくらい娘に笑ってほしいと仕向けた者たちだろう。
その中にまじった黒いもやを前足で振り払うと入ってくるはずだった「夢の欠片」が途切れて娘の瞼が小刻みに震えた。そろそろ婆さんが朝食を持ってくる頃合いか、と娘の足元に座って待つと何を思ったか娘は飛び上がるように足を振り上げた。安眠を守ってやったのになんて薄情な奴だ!とひと鳴きすると、向こうからやって来た婆さんに飽きれた視線を貰う始末。まったくもって不愉快だ!


おばあさん視点

「おや、下に降りてきてたのかい?」

外から戻ってくると並んで椅子に座っている2つの背中に安堵した。
昨日ここに来たばかりのあの娘は存在もそうだけれど、心の方が死にかけていた。
流れ込んでくる感情はどれも冷たくて、彼女の入ってきた扉の方をちらりと見るとガラス戸の向こう側に黒い尻尾が揺れたのが見えた。

この街はいわゆる、「あの世」と「この世」を繋ぐ街。
この街には未練を残しながら成仏しきれなかった者たちがやってきては、自分の「未練」を求めて暮らしている。
だから、昨日居た人間がある日居なくなったり、突然知らない人間が現れるなんてことも、まあよくある事だった。
昔はそんな人間も多くいて、ここはそんな者が流れ着く場所として成り立っていたけれど、時代の流れというものは目まぐるしいもので、今ではほとんど閉め切りだった。

それだけ今の子達は未練なく「この世」を去ることが出来たということなのだろうか。
そうだとしたら、それはきっと喜ばしいことだ。

「にゃあ(私はお守じゃないぞ)」

2人の背中を見すぎていたのだろうか。
不思議そうにこちらを見ているあの娘(こ)とは違い、尻尾で椅子を叩きながら不満をこぼしてくる黒猫。

「おや、お前さんがここに導いてきたんだろう?それならアンタにもちょーっとは責任があるじゃないか」

「にゃあ!(導いた覚えなどない!)」

「そうかい?なら気のせいなのかねぇ」

2人の後ろを通りカウンターの中に入ると、不愉快だと言わんばかりに金色の目がこちらを見てくるもんだからつい笑ってしまった。気のせいかい、この街に黒猫は1匹しかいないはずなんだけどね。まあ本人が言うんだ、そう言うことにしておいてやろう。

「あ、あの…」

黒猫の方を見ていると、視界の端が揺れてあの娘が立ち上がったのが分かった。
そう言えば黒猫が喋れることを知らないこの娘からしたら今の光景は随分と奇妙なものだっただろう。
この街に住まう者はこの猫がどんな存在かを理解しているから、不思議に思う者はいないが、黒猫が何と言っているかわかるものはまだいない。無理はない、私がこの猫のいうことが分かるようになったのは、ここに長く居すぎたせいなのだから。

黒猫も彼女の方を見つめ、「言っていいんだね?」と意味を込めて見つめると肯定するようにこちらを見つめてくる。そうだね、少なからず彼女は「記憶」が戻るまでの間ここに留まる。知っていおいたほうがいいだろう。

「なんだい?」

「あの、お客さんって役所の人ですか!?」

勇気を振り絞ったように手を前で握りしめ叫んだ娘。
しーんと静まり返った店内に、向こうで置時計の秒針の音だけが異様に響いた。
猫は大きな真ん丸の瞳を更に見開いて彼女を見つめると、やがて立ち上がり

「にゃ!?」

椅子から転げ落ちた、アンタ前世は大道芸人かい?




「すまないね。てっきり違うことを聞かれると思っていたものだから。今から来るお客はちょーっと違うね。でもアンタの記憶探しを手伝ってくれる人ではあるよ」

思い切ってこれから来るお客さんについて聞いてみたところ、何故か猫ちゃんは椅子から落ちるし、おばあさんは唖然とこちらを見つめたせいか手から滑り落ちたコップが音を立てて床に落ちた。それに急に話し掛けたせいかなと申し訳なくなり謝ろうとすると、「違うんだ」と苦笑いしながらなぜ驚いたかを教えてくれた。

「でも、見ず知らずの私の記憶を探してもらうだなんて」

「悪く思わなくていい、あいつも「そういう」存在なんだ。うんと頼っておやり」

おばあさんは、さっき落としてしまったコップを片付けて新しいコップを手に取りお茶を淹れ始めていた。
ここに来てから、何度おばあさんの優しい笑顔に安堵したことだろう。感謝してもしきれない。隣を見ると猫ちゃんが尻尾をパシパシと椅子に叩きつけながら前足の毛づくろいをしていた。今朝も不思議に見えたけれど、まるで私たちの会話を全部理解しているように見えるからとても不思議。そう言えば、とふっとおばあさんが戻ってきた時の情景が今更思い出される。

「おばあさんは猫ちゃんの喋っていることがわかるんですか?」

「にゃふ!?」

「え!?私何か変な事聞きました…!?」

「あらあら」

猫ちゃんが今度はずる、っとコケるように椅子から落ちていき、思わず立ち上がるとおばあさんはそんな私たちを交互に見て楽しそうに笑っていた。今まではずっとひとつのことで頭がいっぱいで気にならなかったから、不思議に思って口に出してしまったけれど、今度から気を付けよう…

椅子の上に戻ってきた猫ちゃんが何かを訴えるのを聞きながら私はすごく反省した。


「おばあさん」
長年「街」に住み、主人公のように迷い込んだ人を見送ってきた人。おばあさん自身が何かをする訳ではなく所謂「仲介人」の役割をしている。

「猫」
主人公をおばあさんのところへ導いた張本人。
主人公が無意識にここを訪れたと話していたのはそのせい。

「街」
「あの世」と「この世」どちらでもない世界にある街。
「未練」を残した者が流れ着く街。
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